「中国本土で就職したい」台湾ミレニアル層が与党惨敗の引き金に——台湾二大政党の危機

蔡英文氏

ミレニアル層に見放された蔡英文・民進党。台湾ではミレニアル世代の無党派層が選挙結果を大きく左右する。

REUTERS/Ann Wang

「たかが海外の地方選挙じゃないか」と高をくくってはならない。

11月24日に台湾全土で行われた統一地方選挙で、蔡英文総統率いる与党、民主進歩党(民進党)が惨敗した。選挙結果を分析すると、台湾民意の半分を占める無党派層、そのうち特にミレニアル世代が選挙結果を左右する原動力になった。

「善戦だが大勝ではない」国民党

選挙結果によって明らかになったのは、次の3点だ。

  1. 次の総統選挙(2020年)での蔡再選はかなり困難になった
  2. 民進・国民による二大政党政治の斜陽化
  3. 世界的潮流である「ポピュリスト」指導者が台湾でも勢いを増している

4年前の前回選挙で、22県・市首長のうち13ポストをとった民進党は、今回6ポスト。「惨敗」したのは間違いない。一方、最大野党の国民党は選挙前の6ポストを15ポストに倍増したから、「大勝」のように見える。しかし結果を分析すれば、善戦はしたが「大勝」ではないことがわかる。

台湾でもポピュリスト型市長が誕生

民進党市長が20年にわたり市政を掌握し、民進党の“牙城”だった南部の高雄市では、国民党の韓国瑜氏が当選した。農産物卸売企業社長出身の韓氏は、当初は泡沫候補扱いされた。

しかしSNSを駆使し、「ディズニーランドを誘致する」とうそぶき、ハゲ頭をシャンプーしながらインタビューに答えるなど、なんとなくトランプ米大統領を思わせるハチャメチャな「韓流」が売りだった。国民党には違いないが、政党枠にとらわれないポピュリスト的資質が有権者を引き付けたのであり、単純に国民党勝利とは言えない。

韓国瑜氏

ポピュリスト型政治家とも言える国民党の韓国瑜氏。民主党の牙城だった高雄市長に当選した。

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台湾のTVBSテレビが行った選挙直前(11月7日)の世論調査では、国民党支持者の94%が韓氏に投票すると答えたのは当然としても、「無党派層」の支持が59%と、同じ無党派の民進党候補への支持(22%)を大きく上回った。

台湾全体の政党支持率にも変化がみられる。

世論調査機関「台湾民意基金會」によると、民進党支持率は2年前の51%から28%に下落、国民党の24%に近づいてきた。一方、「支持政党なし」の無党派は43%と最大勢力になった。

韓氏支持を年齢別にみると、20-29歳のミレニアル世代が64%と最も高いのが特徴。40歳代の支持率は56%、60歳代では49%と、高年齢になるにつれ下降傾向にある。2年前の総統選で新たに有権者になったのは約130万人で、全体の7%を占める。

ポピュリストの韓氏を当選させた原動力は、確実に増え続ける無党派層のミレニアル世代と言える。しかし、それは今回始まったわけではない。4年前の前回地方選挙で、「首都」台北市長に無名の医師、柯文哲氏を当選させた推進力も無党派ミレニアル世代だった。それが今回は高雄で再現されたのである。

脱イデオロギー、中国での就職希望

では、多くの無党派ミレニアル世代はなぜ、民進党を嫌ったのか。

各種の世論調査で、20~29歳の世代の蔡政権支持率は25%前後に低迷し、他の世代の支持率より低い。

台湾では、「産まれた時から台湾は独立国家だった」と考えるミレニアル世代を「天然独」(自然な独立派)と呼ぶ。彼らは2014年春、馬英九前政権の対中融和政策に反対し、立法院(国会)議事堂を3週間占拠した。その年末の地方選で国民党を惨敗させ、2016年の民進党政権復帰の原動力になったとされてきた。

ひまわり学生運動

2014年3月、中台の貿易協定批准に反対する学生たちが立法院を占拠したひまわり学生運動。のちに民進党政権誕生のきっかけになったとも言われる。

REUTERS/Patrick Lin

そのことを考えると、中国から独立傾向の民進党支持者が多いはずだ。

しかし彼らは、旧世代が今も抱く「独立か統一か」のイデオロギーとは無縁。経済誌「遠見」の2018年初めの調査 によると、18~29歳の53%が中国大陸での就職を希望する結果が出た。前年比で10.5%も増えたという。理由は「(大陸のほうが)賃金など待遇が台湾より高く将来性がある」。

もう一つの民進党を嫌悪する原因は、蔡総統の「煮え切らない政治姿勢」や「八方美人」のスタイルだ。

現状維持が生む閉塞感

「地方選挙だから、対中政策は争点ではない」とみるのは正しくない。中国の影はあらゆる選挙につきまとう。「台湾独立」をむき出しにした陳水扁政権と異なり、蔡氏は「現状維持」路線を主張してきた。だが有権者からみれば、「現状維持」という枠に縛られた台湾社会・経済の姿は、国民党の馬英九政権時代と変わらない。

「現状維持」とは、台湾の未来や理想を描けず、「現状」に閉じ込められる状態であり、そこで味わうのは「閉塞感」。ミレニアル世代に中国での就業希望者が多いのは、現状の縛りから飛び出し、自分で将来を決めたいという願望の表れである。脱イデオロギーの「天然独」にとって、共産主義や独裁統治への評価より、自己の将来の方が重要なのだろう。

「独立」を主張する原理主義者の蔡氏への不満は強く、民進党支持者の3~4割が「軟弱すぎる」とみる調査結果もある。中国は、現状維持の縛りを台湾にかけることに成功したと言える。民主化以降、台湾の地方選挙と総統選の結果は、完全に連動しており、統一地方選で敗北した党は、総統選でも敗北している。党主席を引責辞任した蔡氏は、間もなく次期総統選での出馬の判断を迫られる。

無党派の総統誕生も

習近平国家主席

台湾でもポピュリスト型政治家が台頭すれば、中国との関係はどうなるのだろうか。

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このような背景で、無党派のポピュリストが出馬すれば、民進党も国民党も勝てない可能性がある。

もし無党派総統が生まれれば、中国も台湾政策の大調整を迫られるだろう。政党組織で動く政治は、それが民進党政権であっても中国にとって統御しやすい。多くの権力闘争を経験した共産党は組織工作に長けているからだ。しかしポピュリストが相手になると、政党内部の矛盾を利用し、蔡政権や陳水扁政権に揺さぶりをかけるようなやり方は通用しない。

米朝首脳会談で流動化する朝鮮半島に続き、台湾海峡でもダイナミックな潮流変化が訪れようとしている。そんな予感を抱かせる選挙だった。

岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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