この数カ月、大手クラウドファンディングサイトの「キャンプファイヤー(CAMPFIRE)」で話題を集めたプロジェクトがある。
提供:株式会社ポインティ
佐伯ポインティ氏による日本初の完全会員制「猥談バー」だ。9月6日に募集を開始。募集記事にはこんなタイトルが。
エロくて面白い夜をつくる!完全会員制「猥談バー」をオープンします!
一見、いかがわしい?と勘ぐってしまうが、当初50万円という控えめな目標に対して、約2カ月で669人の支援者から計702万8000円の調達に成功。支援内容を見ると、月5回来店可能な「アゲみシャンパンゴールド」(支援額3万円)や来店日数無制限の「ヤバみプラチナマグナム」(支援額10万円)といった不可思議なプランが並んでいた。
編集者からエロデューサーに、と独立
佐伯ポインティ氏。漫画の編集担当から、“面白いエロ”をビジネスにすべく「エロデューサー」へ。
撮影:今井駿介
佐伯氏はクリエイター・エージェンシーのコルク出身の編集者だ。25歳。常ににこやかで、物腰が柔らかい印象ながらも、彼の放つ言葉には迷いのない率直さを感じる。
2年半くらいコルクで漫画の編集をした後、2017年10月に独立。“面白いエロ”をビジネスにすべく「エロデューサー」を名乗るようになった。彼曰く“面白いエロ”とは「日常的で、違法でない、心を動かすエロ」。「官能小説やエロ漫画だけでなく、演劇や映画にも面白いエロはある」そうで、この新しいカテゴリーを端的に表す言葉を探し続けているところだ。
2017年11月には“面白いエロ”を話せる場として初めての「猥談バー」を1日限定で開催。Twitterとnoteの告知だけにもかかわらず、6席のバーに合計37人が来店。このイベントを機に定期的に「猥談バー」を開催するようになった。場所を貸してくれる支援者も次第に増え、最終的には1日100人を超える客が来るまでになった。
そんなある日、東京・阿佐ヶ谷に店舗を持つ友人から買い取らないかという話があり、悩みながらも購入。常設で「猥談バー」の経営を始めることに。しかし、購入資金がない。そこでクラウドファンディングを頼った。目標金額は30分で達成、初週だけで200万円が集まった。支援リターンがバー会員だったこともあり、キャパを心配して途中で一旦中止をしたほどだ。
“面白いエロ”という価値観を共有するレーベル
11月2日には株式会社ポインティとして法人登記もした。佐伯氏は、「独立当時から“エロのあるコンテンツレーベル”を会社にするつもりでした」と語る。
「世の中には性的消費をメインとしたAVやエロ漫画などのいかがわしいだけのエロがたくさんあって、エロといえば全て良くないものだという固定観念があります。僕は公序良俗に反しない“楽しいエロ”という新しい価値観を共有するビジネスをやりたいんです」
すでにクックパッド出身の友人2人がCTO、COOとして入社しており、今後はリアル店舗チームやコンテンツチーム、D2Cチーム、ニューエロデューサー発掘チームといった企業としての盤石な体制作りを急ぐという。
会員制・紹介制という閉鎖的な「猥談バー」。3つのグレードがあり、最初は「かわいみピンク」。来店数でグレードが上がっていく仕組みだ。
まずは「猥談バー」という年会費1万円・紹介制の閉鎖的なコミュニティービジネスをスタートしたわけだが、ビジネスとしての展望はどこにあるのだろうか。
「月額メンバーシップ制のコミュニティーとコンテンツレーベルという2軸があると思ってます。『猥談バー』はなるべく広く浅く“面白いエロ”が好きな会員が集まるための場所。
1月にはウェブで会員も募集する計画です。そこで日々生まれる“エロ”にまつわる話をコンテンツとして、株式会社ポインティを通じて商品化していく。コンテンツは漫画でも小説でもアパレルでも。このコンテンツがさらに多くの人を集め、コミュニティーが活性化されるという好循環を作りたいんです」(佐伯氏)
今は1店舗だが、リアルコミュニティーも増やしていく考えだ。
「バーの空いた時間に間借りしてコストを抑えようと考えています。『猥談バー』って会話というコンテンツに対して人が集まるので、立地に影響されず、店舗探しのハードルも下がるんですよ。今後増えた店舗は、面白いバーを楽しく仕切れるメンバーに運営を任せるフランチャイズ形式を導入する予定です」
今は佐伯氏だけが名乗っている「エロデューサー」も、今後同じ価値観に惹かれて集まる人々の中から多方面の「エロデューサー」を発掘し、チームとして事業規模を拡大していく計画だ。まずは会員1万人、中長期的には複数の「エロデューサー」体制によって会員10万人を目指す。大きな目標は20代のうちにビジネスを確立して上場することだ。
結局、いかがわしい場所ではないのか?
実際に筆者もバーを訪れてみた。
1号店は、阿佐ヶ谷の飲み屋が連なる路地にある。今は週末だけの営業だ。
少し時間が早かったためか、男女数人の客が静かにお酒を楽しんでいた。カウンターを挟んで席は20ほど。20時以降のピークタイムには満席になることもしばしば、訪れる客は20代から50代まで幅広いという。店内のバーそのもので、卑猥な印象は一切ない。
当日の詳しい会話内容は公開できないが、佐伯氏がTwitterで公開している過去の「今夜のベスト猥談」を見ると、「100均プレイでエロのクリエイティブ脳を育てる」「セックス中に食べるご飯、シェフのおすすめはうどんとカレー」といった愉快なキーワードが並ぶ。
「『猥談バー』でも“面白いエロ”の基準を明示しなければお客さんが不安を感じるから、『なるほどこんなレベルの話をしているのか』という安心感を感じてもらうために、『今夜のベスト猥談』というコンテンツを日々SNSで発信しています。ゆくゆくはお客さんが自由に口コミを投稿できるような仕組みを作って、“面白いエロ”をもっとオープンにしていきたいですね」
提供:佐伯ポインティ氏
店内での写真撮影はプライバシーを考慮して一切禁止。冒頭の写真はプレオープン時の様子だが、実際には1人で来る客も多いらしい。ただ、誰もが会話をしに来ている、という印象は強く残った。
店舗では、「連絡先交換や身体接触、ナンパ、度を超えた泥酔、別目的での勧誘など、楽しい猥談の邪魔になる方は即刻出入り禁止とします」という当たり前のことを掲げているが、それでも「いかがわしいのでは?」という声もある。
「今はそれが普通の反応だと思うんです。今はまだ僕が提唱したい“面白いエロ”と“アダルト”は混同されやすいんですから。その違いをどう見せるかは、これから僕たちが生み出すコンテンツで示すしかない。今後はエンジェル投資家から資金調達もしたい。こうした一つ一つの信頼を重ねることが大切です」
「“面白いエロ”をもっとオープンにしていきたい」と語る佐伯氏。
撮影:今井駿介
佐伯氏は「クラスに1〜2人は嫌味なくエロい話が好きな人っているから、会員数10万人は全然不可能じゃない」という。今も会員の4割は女性。女性たちは「エロは男の楽しむためのものという非対称性に違和感を感じている」(佐伯氏)という。
「“面白いエロ”がオープン化し、『僕も楽しんでいいんだ』『私もエロ好きって言っていいんだ』という風潮に変われば、日本の『エロ』全体の風潮を健全に変えられるんじゃないでしょうか」
佐伯ポインティ:1993年、東京生まれ。株式会社ポインティCEO(チーフ・エロデュース・オフィサー)。東京生まれの25歳。早稲田大学文化構想学部を卒業後、株式会社コルクに漫画編集者として入社。2017年に独立し“エロデューサー”活動を始める。2018年、日本初の完全会員制「猥談バー」をオープン。エロくて楽しいことが大好き。Twitterは@boogie_go。