2018流行語「エモい」は感性も語彙力も低下させる

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10代女子が今年の流行語に選んだ「エモい」に警鐘を鳴らす理由。

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先日、マイナビが運営するメディアの調査による、2018年10代女子の流行語が発表され、「エモい」という言葉が1位になったそうだ。実際、筆者も「エモいね」と言われたことが多々あるが、これに対しては少し嫌気がさしている。

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筆者は普段、文章や会話で問題提起をよく行う。

例えば、直近であれば パンテーンの「#就活をもっと自由に」 や、 CRAZYの「#結婚式に自由を」のハッシュダグをもとにしたソーシャルムーブメントの仕掛けに関わっていた。

社会を巻き込む上で、怒りや希望を示すもので感性を研ぎ澄ましてもらい、ムーブメントの趣旨を適切に伝える必要があった。ショックだったのはやはり両方とも「エモいね」で片付けられてしまったことだった。その言葉が帰ってくるとちゃんと伝わっているのかなと心配になる。

日本には感情を表す言葉が140種類以上あるという。これは国際的にみても多い方らしい。 たしかにエモいは便利である。ただ、言葉を扱う者として、せっかく先人たちが感情を表すためにつくってきた言葉の人格をなくしてしまうのは罪だなぁと思うのだ。

ヤバいは思考停止、エモイは感性の腐敗

2000年代前半だろうか。ヤバいという言葉が流行った。

問題が起きている状態、期待を超えた状態、予想外である状態など、全てをヤバいと表現する風潮があった。当時中学生だった筆者の周りにもヤバいを連呼する人はいた。どうヤバいの?ときくと「とにかくヤバい」と返ってくる。会話にならない。

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エモいにヤバい、便利な言葉だけれど、それによって失うものもある?

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コミュニケーションや考えることが好きだった筆者にとっては、この言葉は敵だった。会話が一気につまらなくなるから。ヤバいという言葉は思考するという楽しみを人間から奪う。 それと同じ現象が感性表現においても起きている。嬉しいときも、悲しいときも、切ないときも、エモい。

最近は若い人が自分で「私、コミュ障なんで」ということがよくある。当然だと思う。コミュニケーションの精度は言語化能力で決まる。それにおいて便利な言葉に甘んじ、語彙力を自ら退化させていることに気づいて欲しいと願うのだ。

思考のチャンスを「ヤバい」で失い、感情表現のチャンスを「エモい」で失う。何が残るというのだろう。

ビジネスの潮流は逆、感性の時代が来る

一方で、ビジネスの潮流をみていると、感性を重視する動きが強まっていると思う。山口周氏の『世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか』という本が話題を呼んだ。2カ月で10万部を記録した北野唯我氏のベストセラー『転職の思考法』もストーリー仕立てである。

メディアをみても、かつてのPVばかり追う風潮から、エンゲージメントを重視している傾向がある。

コンテンツマーケティングやコミュニティビジネスも活況だが、共感をどうデザインするかということがコミュニティ成功の鍵だと言われることも多い。 実際、話題になっているものも、キュレーションなど利便性のあるものよりは、共感を呼ぶコンテンツが多くなったように感じる。

背景には、利便性を追求する世界と別に、共感性を追求する世界が生まれていることがあると思う。経営においても従業員エンゲージメントを高めるための施策として、ストーリーテリングの存在感が増している。

自ら感性の腐敗に甘んじることは自殺行為

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読解力や表現力を人間が失った時に起きるリスクは何だろう。

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ある上場企業の経営者と話していた際に、こう漏らしていた。「ミレニアル世代(1980年から1990年代前半生まれ)以降、文脈読解能力は著しく低下している。Z世代(1990年代後半以降生まれ)においてはそれ以下のレベルだ」と。

経済協力開発機構(OECD)による直近の国際学力調査の結果でも、15歳の読解力が順位を下げるなど、若年層の文脈読解能力の低下が危ぶまれている。

AIが人間の仕事を奪うなどと言われて久しい。利便性や生産性を追求する再現性の高いものに関しては、システム化され単純作業に取って代わる。

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若者のボキャブラリー能力は低下しているのか。

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AIが進化する時代に、人間の読解力の低下は、AIに仕事を取って代わられる大きなリスクすらはらんでいる。

一方で、共感や感動をデザインするようなものは人間が存在感を発揮する余地がまだあるように思える。

事業家や作家など情報感度の高い人間はこの事実に気づいている。実際に、経営者が生け花や美術展に通うこともあれば、クリエイターにも広報からではなく経営者から直接連絡が来るケースが増えたという。カヤックの経営者である柳澤氏も「面白法人カヤック社長日記」の中でアートの必要性を説いている。

そんな時代の流れとはうらはらに巷にはエモいという言葉が飛び交っている現状を見ると、今後さらに感性による格差が開いてしまうように思えるのだ。

エンゲージメント(関係性)とコンテキスト(文脈)の時代に、もしあなたが「エモい」や「ヤバい」を多用して、使う言葉の種類を自ら減らしているなら、世の中の潮流に逆行した自殺行為なのではないかと。警鐘を鳴らしておきたい。


寺口 浩大:ワンキャリアの経営企画 / 採用担当。リーマン・ショック直後にメガバンクに入行後、企業再生、M&A関連の業務に従事。デロイトで人材育成支援後、HRスタートアップ、ワンキャリアで経営企画/採用を行う。社外において複数HRに関わるコミュニティのデザイン、プロデュースを手がける。3月よりライターとしても活動を開始。

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