ビリギャル、再び高校へ。キスマークつけてても性の知識ない高校生に伝えたい

「ビリギャル」のヒットから5年。モデルになった小林さやかさん(30)が再び学校に戻ってきた。

舞台は北海道・札幌市で「悪評御三家」と呼ばれた問題校。

「コンドームつけなかったらどうなると思う?」

家族、SEX、LGBT、進路選択……“校長の右目”という肩書きで、4カ月間生徒たちと体当たりでぶつかった。

ギャルやヤンキーは絶滅危惧種?

小林さやか

「ビリギャル」のモデルになった小林さやかさん。学校教育の問題に取り組んでいる。

撮影:竹下郁子

小林さんは、2013年に刊行された実話小説『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應義塾大学に現役合格した話』のモデル。塾講師でこの本の著者でもある坪田信貴さん、そして小林さんの母親“ああちゃん”とともに受験勉強に奮闘する姿が大きな共感を呼んだ。

「人との出会いを大切に過ごした方がいい」。そんな坪田さんの言葉を胸に進学した慶應義塾大学・湘南藤沢キャンパス(SFC)では、

「めっちゃ遊んだし、たくさんの人に出会いました。サークルとかインターンとか、いろんな場に行ったりコミュニティに属したりして」(小林さん)

卒業後は大手ブライダル企業に就職し、ウェディングプランナーに。持ち前のコミュニケーション力をいかし、営業成績は常にトップクラスだったという。

その後、フリーランスとして独立。同じ頃に『ビリギャル』が出版され、教育についての取材や講演依頼も多数来るようになっていた。2017年にこなした講演は約90本だ。

「私、ギャルやヤンキーは本当に宝だと思ってて。同調圧力に屈しないし、疑問に思ったら声を上げるし、何より自分の言葉を持ってるのが良いですよね。伝え方は下手なんだけど(笑)。講演でいろんな学校に行く中で、そういう子たちが減ってることに気づいたんです。でも今の画一的な教育では仕方ないなと。それを変えたい、教育のことを本格的に学ぼうと大学院への進学を考えていました」(小林さん)

転機となったのは、ふと目にしたFacebookの投稿だった。

「校長の右目」として前途多難な高校へ

札幌新陽高校

札幌新陽高校は札幌で「悪評御三家」と呼ばれ、3年間で3人の校長が辞めた時代もあったという(朝日新聞デジタル2018年11月13日より)。

出典:札幌新陽高校ホームページ

北海道の私立・札幌新陽高校校長の荒井優さんの『校長日誌』を見て、何よりも同じ学校で働く教員や生徒のことを一番に考えるその姿勢に驚き、共感したという。

荒井さんはリクルートを経てソフトバンクの社長室で孫正義社長の側近として働いていた。札幌新陽高校の創立者は荒井さんの祖父。偏差値は札幌市でほぼ最下位、定員割れという状況から、入学金をなくし丁寧に進路指導をするなどして、わずか1〜2年で生徒数も大学進学率も倍にした。

小林さんは面識のなかった荒井さんにメッセージを送り、2017年10月には札幌新陽高校で母親と一緒に講演することに。その後荒井さんは小林さんのメンター的な存在に。大学院への進学を相談すると、こんな言葉が返ってきたという。

「教育は現場で学ぶのが一番だよ」

2018年4月から7月までの4カ月間、「校長の右目」という肩書きで札幌新陽高校でインターンをすることが決まった。「右目」といっても何をやるかはまったく白紙の状態で、北海道に移住した。

学生時代は嫌いだった“先生”が……

インターン中は生徒と一緒に授業を受けたり教壇に立ったり、自由な時間を過ごした。教師たちとも日々、教育について議論を交わしたそうだ。

「『ただそこ(学校)にいる』というだけで私にとってはすごく意味のあることでした。先生たちがどれだけ生徒のことを思っているか知れたのは本当に大きいですね。学生時代は先生のこと嫌いだったんですけど、その概念をまるっと変えてくれる時間でした」(小林さん)

生徒たちは小林さんを「さやちゃん」「さや姉」「さやか」と呼び、小林さんが「聞かなかったことにしようかなと思うような」他の教師には言えない悩みを打ち明けた。保健室の養護教諭から「さやかちゃんに会いたいと言っている子がいるから」とバトンを受け取ることもあった。

「私も学校で禁止されてることをたくさんしてきたし、究極は『死ななきゃいい』と思ってるんです。でも命に関わることはしっかり教えてあげないと。教室でみんなが黒板を向いて座って、先生の話を一方的に聞いてるだけの授業では、そういう大切なことはなかなか伝わらないと痛感しました」(小林さん)

自分の経験を話しながら涙がこぼれた

男女共学の学校にいくと、首にキスマークをつけている女子生徒、手をつないで親密そうにしているカップルなどを見ることが多くあるという。同じ頃の自分を振り返ってみてもそうだが、学生たちは「性」と「その先のこと」についての知識を軽視しがちだと小林さんは言う。

「性教育、そして子どもを持つ意味を、生徒だけでなくその親世代も含めて学校で伝えていかないといけないと思います」(小林さん)

保健体育の教員からの依頼で「結婚・妊娠出産・子ども」をテーマに授業をした時には、自身の経験を交えて話した。いつの間にか話しながら涙がポロポロこぼれていたという。

高校生

文部科学省によると、2015・2016年度に公立高校が把握した生徒の妊娠は2098人。高校の勧めも含めて自主退学した生徒は674人いた。(写真はイメージです)

GettyImages/joka2000

「コンドームをつけなかったらどうなるのか、もし赤ちゃんができて産めない場合、どのくらいお金がかかって、どんな心の傷が双方に残るのか。子どもが欲しくてもできなくて、毎日泣きながら病院に通って、 いっぱいお金をかけて、いっぱい薬を飲んで治療して、それでも願いが叶わない人が世の中にはたくさんいるんだということ。

保健体育の教科書にあるような建前の言葉ではなくて、もっとちゃんと、生の言葉で伝えなくちゃいけない。30歳になった今だからこそわかることを、一生懸命に伝えました」(小林さん)

避妊は命に関わること。バックを持ったり食事をおごったりすることだけが相手を大事にすることじゃない、家族をつくることはどういうことなのか真剣に考えて欲しいと訴えて授業を終えた。

小林さんの話は生徒たちの間で広まり、その後も女子生徒たちから個別に相談を受けたそうだ。

教室は「誰も排除されないコミュニティづくり」を学ぶ場

どれだけテクノロジーが発達してネットで学習できるようになっても、教室でしか学べないことがある。

「人と自分の違いを知ること、そしてその違いや、お互いを認め合うことが、これからの学校の大切な役割になっていくんじゃないでしょうか。問題児やマイノリティを排除するのは簡単だけど、それでいいの?って。クラスで多様性について考えることは、将来、社会に出て組織というものを考えるときの勉強にもなりますよね」(小林さん)

障がい、LGBTなどまだまだ学校教育が対応しきれていないものも多い。教室は誰も排除されないコミュニティづくりを学ぶ場であるべきだと小林さんは言う。そのためには、

「先生たちも学び続けなくちゃいけないんだなあと感じました。時代に合わせて、生徒たちに寄り添うことも必要なんだと思います。それが難しいなら、学校をもっとオープンにして、いろんな大人と生徒が触れ合う機会をつくるべきです」(小林さん)

今、小林さんはインターン中にできたつながりを生かして、高校が主体となってイベントをつくる「みんなが学校」プロジェクトを準備中だ。高校生がイベント準備の過程で、多くの大人と出会い、教室ではできないような体験ができるよう、学校の垣根を越えて多くの先生たちや企業、地域の大人たちも巻き込む予定だという。

いまの夢は「後輩たちが、もっとイキイキワクワク生きられる環境をつくること」。ビリギャルとしての使命を背負って、子どもたちが生きる未来を少しでも明るいものにしたいと、今日も全国を飛び回っている。

(文・竹下郁子)

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