中国人学生に日本企業は踏み台? 日本語学んでも、成長して給料増えた中国企業へ

大連

中国・東北部の大連市は日本人も多く住み、日本料理屋が軒を並べる。

大連理工大学、大連工業大学、大連水産大学……中国の東北部に位置する人口600万人の大連市は、ほぼすべての大学に日本語学科が設置されている。大連外国語大学の日本語学科には1学年約700人が在籍、国内最大規模の日本語人材養成拠点となっている。

東風日産、キヤノンなど製造業だけでなく、コールセンター、データ入力といった日本関連のアウトソーソーシング先企業が集積する大連は、産業と大学が両輪となって、中国最大の日本語人材輩出・雇用基地を形成してきた。言い換えれば、大連の大学で学んだ日本語を生かそうとすれば、大連で就職するのが最良の選択肢だったが、中国企業の台頭や産業構造の変化で、この数年状況が大きく変わっている。

1年半で同級生のほとんどがいなくなった

五彩城

日系メーカーが集積する開発区の駅前に広がる五彩城。日本料理店だけでなく、日本スナック、日本カラオケなどが集まるナイトスポットとなっている。

「25人いた同級生の中で、大連に残っているのはもう3人だけになりました」

日本関連企業の集積地、大連ソフトウエアパークで日本メーカーのマニュアル制作に携わる候静さん(24)は、寂しそうに話した。高校まで内モンゴルで過ごし、「合格圏内にある中で一番レベルが高かった」という大連の国立大学の日本語学科に進学。2017年6月に卒業し、日本の業務を請け負う企業に就職した。

給料は月4000元(約6万5000円)。手取りだと3500元前後で、友人とルームシェアしても生活はぎりぎり。卒業時にはクラスメートの半分が大連で就職したが、すでに大半が辞めて去って行った。

「大連は確かに日本関係の仕事が多く、選ばなければ職は見つかるのですが、BPO(自社の業務の一部を外部に委託)か中小商社、工場の事務、通訳と、業種が狭いんです。キャリアアップの選択肢が限られていて、北京や上海で働く友達の話を聞くと、給料が低いし、将来性も感じられないと思ってしまうんですよね」

環境の変化や人混みが好きではないという候さんも、「来年の今頃は大連にいないと思う」と話す。日本へも一緒に交換留学するなど、一番仲が良かった友人が10月末に大連の日系商社を辞めて北京に転職したことに、少なからずショックを受けたという。

「彼女の月収は3500元でした。日本のお客さんと中国の工場の間でいつも板挟みにになってストレスが大きいのに、給料は北京で働く元同級生の半分以下。北京の物価が高いといっても、大連だってそんなに安く生活できるわけじゃないし、心折れますよ」と話した。

SNSや求人アプリで情報増加、好条件求めて移動

大連駅

上野駅をモデルに建てられた大連駅。

大連民族大学日本語学科の秦頚教授は、「中国の東北部は経済の停滞が深刻で、さらに日本メーカーの拠点縮小も続いています。日本語人材だからといって、いい仕事が見つかるわけではないことは、皆分かっています。でも学生は、暮らしやすく友達も多い大連で最初は就職したがります」と語る。

大連の大学を今年卒業した男子学生も「大連は海があるし、北京ほど空気も悪くなく、北京や上海に比べるとプレッシャーも少ない。就活時にはほかに行こうと思わなかった」と話した。

だが、SNS時代は遠く離れた友人の近況がリアルタイムで分かる。

中国は以前から、新卒でも初任給の格差が大きかったが、高校や大学の同級生からの情報が増え、求人アプリの普及もあって、よりよい条件を求めて大連の企業を早々に離れる大卒日本語人材が増えた。彼らはおおむね、北京や上海といったさらに大きなマーケットに移るか、故郷に帰って日本と関係ない職に就くかに分かれる。日本に渡り、留学や転職を選ぶ人も増えている。

日系企業で働きながら欧米企業転職狙う

北京

大連で働く候静さんは、北京か深センでの転職を考えているが、大気汚染はかなり心配だという。

2014年に大連の大学を卒業した張永紅(28)さんは、山東省に工場を持つ日系メーカーに就職。発注管理の仕事を2年ほどして、北京の日系広告代理店に転職した。

転職した年の月給は6000元(約9万8000円)。その後毎年1000元ずつ上がり、今は8000元(約13万円)に増えたが、「3年経ったので、そろそろ転職するつもりです」と明かす。

「欧米の同業他社に比べると昇進の機会が少なく、給料も限界があります。私は日本語が専門なので、日系企業が入りやすいと思って今の会社を選びましたが、欧米企業への転職を見据えて、英語も勉強してきました」

張さんの勤務先は、日本では誰もが知る大手企業だが、張さんは「中国では知られてないですから……。給料も下手するとIT企業の新入社員よりも安いですよ」と苦笑した。

日本語人材の就職環境はリーマンショックや尖閣諸島問題の影響を受け、2010年代前半に悪化。特に日中関係が冷え込んだ2013年前後は、大連の大学の日本語学科でも入学希望者が減少した。中国企業が成長し、外資企業並みの待遇を提供するIT企業が現れたことで、外国語人材よりIT人材の方が好条件で就職できるという考えも広がった。

コンテンツ企業の成長で新たな人材需要

授業風景

大連の国立大学日本語学科で授業を受ける4年生。この大学では、卒業後に日本関連の仕事に就くのは6割ほどだという。

だがIT業界の成長によって、最近は1周回って新たな日本語人材需要が生まれている。

2018年6月に大学を卒業したばかりの徐勇さん(22)は、アマゾンの北京オフィスに就職して間もなく3カ月。現在は日本のアマゾンに出店する中国業者をサポートする。

「特にやりたい仕事ではなかったし、顧客対応が集中するときは何時間もパソコンの前から離れられないほど忙しいですが、残業が少なくて、オンとオフがはっきりしているのはいいですね」

徐さんは大学卒業前の1年間、日本に留学。日本アニメやドラマが好きで、留学中には作品の聖地巡りも楽しんだ。

そんな彼の就職第一志望は、Tik Tokの運営企業、Bytedance(字節跳動)だった。

「中国のコンテンツプラットフォームの多くが、日本語ができ、日本カルチャーに詳しい人材を募集するようになりました。日本のコンテンツは中国でも人気ですからね。日本と中国のどちらで就職するか迷っていましたが、中国や欧米のIT企業でも、日本語を生かせる環境が増えているのを知り、帰国を決めました」

Bytedanceがインターンを募集していた時期は日本留学中だったため、就職はかなわなかったが、月給9000元(約15万円)を提示されたアマゾンへの就職を決めた。

「学年で1番優秀だった同級生は、大連の大手日系企業で通訳をしていますが、新卒インターンの身分なので、手取りで2000元(約3万3000円)台なんです。そういう話を聞くと、自分は恵まれている方だと思います」と話す。

(文・浦上早苗)

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