東大女子の生きづらさの正体——「勉強できる」ことが職場でイジりの対象に

いまや、あちこちのクイズ番組で見かけるようになった東大女子。

20年前に比べれば、東大女子自身も肩ひじ張って「東大ですが、何か?」といった力は入っていないように見える。

だが、いまだに、東大女子だからこその生きづらさを訴える人もいる。拙著『東大を出たあの子は幸せになったのか 「頭のいい女子」のその後を追った』 (大和書房) の取材で現役、卒業生合わせて30人以上の“東大女子”に会ったが、その中で、2人のケースを紹介したい。

東大出身の父の熱意に負けて

東京大学

撮影:今村拓馬

卒業後、東大卒の少ない一般企業に勤めた女子たちは、「東大卒」をネタにされ、イジられた経験が少なからずあった。

「東大卒が、そんなに偉いのか」と嫌味を言われ、「女が高学歴だから、仕事ができるとは限らないんだな」とミスを執拗に指摘されたなど、主に男性上司からのパワハラだった。

東大文学部を卒業して、中堅の広告代理店に入った山川雅子さん(26、仮名)はストレートのロングヘアが似合う、外見はいまどき女子。

彼女は都内にある 私立大付属高校を卒業し、現役で東大に合格した。

「父親や親せきには東大卒が多いのですが、私と母親は早慶に入れればいいと思っていました。母親は“東大出ても、恋愛とか結婚で大変だと聞くよ”と私大派でした」

ところが父親は「せっかくだから、最高の大学を目指したら」と東大に行ってほしい気持ちがありあり。「父の熱意に負けて」、受験したところ受かり、学費の安い東大に入学を決めたという。

だが、入ってみると、当然、開成、灘、桜蔭といった中高一貫の難関私立中高一貫校出身者が多く、その一群に圧倒される。それでも真面目な女子学生として授業に出席し、東大生定番の家庭教師のアルバイトをして4年間を過ごした。

就活ではマスコミ志望。放送局、出版社など10社以上を受けたが、1つだけ内定をもらったのが、中堅の広告代理店の営業職だった。

学歴コンプレックス上司からのいじめ

就活中の女性

東大卒だからといって優遇を受けたことはない(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

「就活では、東大生だからといって優遇されたことはなく、行く先々で東大女子に会いました。受けた企業は、もともと男子と女子を均等に採用しようという方針ではなく、女子が圧倒的に少ないので、わずかな枠に東大女子や私立の上位大学出身者が群がっているという状態。東大は就職留年をする人も多いですが、留年は嫌だったので、内定をもらった会社に就職しました」

就職した会社では、その年は男女合わせて10人を採用。東大卒女子は山川さんが初めてだった。

「東大卒だって」「仕事できるのかな」「東大だから頭がいいのは当たり前だよ」

そんな声が耳に入った。周囲を失望させたくないと企画会議では持論を展開して、熱弁をふるった。ところが私大出身の上司は、その発言が面白くなかったらしい。

「その考え方は頭でっかちで、現実に即してないな、却下」

上司は山川さんを育てる気持ちどころか、潰すような言動が目立った。自分ではこれまでどんな壁にぶつかってもクリアしてきた。なのになぜ?企画が通らないんだろう。会社での人間関係に、プレッシャーとコンプレックスを感じ、心療内科を訪ねたこともあった。

のちに同期から、「あの上司は、あなたが東大なのが気に入らなかったらしいよ。あの人、学歴コンプレックスがひどいからね」

1年半勤めて、外資系の広告代理店に転職を決めた。

オフィスの様子

外資系であれば東大ブランドは関係ない。(※写真はイメージです)

Shutterstock / metamorworks

「外国人が多いので、東大なんて、なんの意味もありません。」

今は“東大”というレッテルから解放されて、毎日楽しく出勤している。

自己と周囲の評価のギャップ

東大女子はずっと頭が良い女子として、学校では一目置かれてきた。

「勉強ができてすごいね」

その「すごいね」と認めてもらう欲求が、社会に出てからも続いている。ところが会社ではそううまくはいかない。自分以上の実力がある人はたくさんいる。仕事ができなければ自己評価は下がり、東大を出た、という自信も誇りも失ってしまう。

勉強ができることは自分にとってアイデンティティだったはずなのに、「東大なのに、うまくいかない」と自ら壁を作ってしまって、乗り越えられない……。

それが生きづらさにつながってしまう。その正体を分析してみると、「自己評価と周囲の評価のギャップ」だと感じた。

精神科医の香山リカは、こう話す。

「日本の女子が生きていくのは単純ではない。勉強だけしていればいいというわけではなく、同時にかわいい女子でいなければならない。恋愛もしなきゃいけない、結婚もしなければいけない。

大学まで通用していた“頭がいい”という看板は、社会に出れば、通用しない。そこに生きづらさが生じるのではないでしょうか。

勉強に注いできたエネルギーを違う方向に向けて、やりたいことをやる。1番になるよりも、幸せになることに気づいてほしい」

ママ友たちと集まる様子

「東大を忘れてから生きやすくなりました」と40代の東大卒女子(写真はイメージです)。

Shutterstock / maroke

40代の東大卒女子がいう。

「東大卒だからって、頭がいいわけでもなく、その時点で合格点が取れただけ。仕事をうまくこなせるわけでもない。ましてや性格がいいわけではない。

40歳を過ぎて、会社やママ友の世界で、東大を忘れてから生きやすくなりました」

入社した中堅出版社では、東大卒だからと、重用された。プロジェクトを任されたときは「やっぱり東大卒だから出世が早い」と同僚の女性たちはやっかみ半分で陰口をたたいた。

「東大卒が理由で抜擢されたのだから、頑張らなきゃいけない」という意気込みがある半面、「後期入試で入り、東大時代はサークル活動で楽しく過ごし、何も残してこなかった自分に何ができるのか」。

東大卒のブランドが強すぎて、自分の中に葛藤があるのに、それを出せなかったことがつらかったという。

毎年12月半ば過ぎに発表される東京大学の「学生生活実態調査」。最新の2017年に発表された調査を見てみると、回答者は77.6%が男性、女性は22.4%で、東大全学の男女比とほぼ同じ割合。

目を引くのは、東大生の「不安・悩み」の項だ。多くの項目で女子が男子より悩む割合が高いが、特に「将来の進路や生き方」で男子では「よく悩む」と、「ときどき悩む」を合わせて80.6%に対し、女子は91.0%。

「人生の意義、目標」で男子が57.4%に対して、女子は66.9%。

「就職」では男子が67.0%に対して女子は76.3%。

この結果は、女性にとって東大卒の肩書は、男性ほど社会では評価されないことに気づき始め、東大卒は決して万能ではないなら、どうやって社会を渡っていったらいいかを、大学のうちから道を模索していることの表れではないだろうか。

真面目にこつこつ勉強して、勝ち取った東大入学。真面目さゆえに、学生のうちから将来を真剣に考えている姿勢が見て取れる。2018年ももうすぐ発表されるが、東大女子の不安や悩みは、どんな結果になるのだろうか。


樋田敦子:ノンフィクションライター。明治大学法学部を卒業後、新聞記者を経てフリーランスに。主に女性と子どもの問題をテーマに取材、執筆している。著書に「女性と子どもの貧困」など。

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