TWICEのメンバーがTシャツを着用していたことが話題となった、元慰安婦の女性たちへの支援活動を行っている韓国ブランドが12月8日、ついに日本に上陸する。ブランド名は「MARYMOND(マリーモンド)」。
政権交代や#MeToo運動の盛り上がりを受け、韓国で急成長を続けるソーシャルベンチャーだ。
元慰安婦の女性たちを「花」のモチーフに
ソウル市内にあるMARYMOND。花にたとえられた元慰安婦の女性たちの「物語」が店内の至るところに。
提供:北原みのりさん
日本では、若者が慰安婦問題を学ぶスタディツアーなどを開催している一般社団法人・希望のたね基金(キボタネ)と提携。「MARYMOND JAPAN(マリーモンドジャパン)」としてウェブサイトを中心に販売するほか、12月8、9日に開催予定のローンチイベントでも購入できる。
MARYMONDのwebサイト。カラフルな商品が並ぶ。
出典:MARYMONDホームページ
マリーモンドは韓国の若者が立ち上げたライフスタイルブランドで、スマホケースやノートなどの雑貨から男女の洋服まで幅広く展開している。元慰安婦の女性たちをナデシコや桃の「花」にたとえ、商品の多くに花のモチーフがあしらわれているのが特徴だ。
売り上げの一部は元慰安婦の女性たちや虐待被害に苦しむ子どもたちへの支援に使われており、これまでBTSやWanna One、miss A、SEVENTEENなど多くの韓国の人気アーティストらが同社の商品を身につけていることがメディアやSNSで報告されている。
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日本での販売に向け、中心になって準備を進めてきたキボタネ理事の北原みのりさん(作家)は言う。
「マリーモンドもそうですが、元『慰安婦』の女性たちの声に耳を傾け、この問題を何とかしたいと考えている韓国の若者がすごく増えています。それは日本への政治的な眼差しではなく、韓国内にある性差別や性暴力にしっかり向き合おうという姿勢です。韓国では『#MeToo』の後に被害者を支持する『#withyou』が広がりましたが、それと同じ。声を上げたハルモニ(おばあさん)たちを尊敬し、若い世代がその声を引き継いでいこうという社会の大きな動きを感じます」(北原さん)
ソウル大出身者らが担う海外部門
MARYMONDの近くには同じようなソーシャルベンチャーが入居するコンテナハウスが並ぶ。
提供:北原みのりさん
ソウル市内にあるマリーモンドの店舗はカフェと花屋が併設されている。オフィスも近くにあり、近隣には同じようなソーシャルビジネスの企業やショップ・カフェが並ぶ、若者に人気のエリアだ。
ポスト・イットや球団、大手化粧品メーカーともコラボして商品を発売するなど、認知度も急上昇中。
海外事業を担当する部署にはソウル大学など韓国トップクラスの大学を卒業したスタッフたちが働いており、今後は中国での展開も予定しているという。
売れるキーワードは「人権」「#MeToo」
慰安婦財団の解散発表、元徴用工の最高裁判決など「日韓関係」の緊張が続いた11月。「個人の物語」として考えてみたらどうだろう。
撮影:今村拓馬
マリーモンドの成長を後押しするのは、「エシカル消費」の盛り上がりだ。
エシカル消費:倫理的消費。貧困、人権、気候変動などさまざまな課題解決を目指し、人や社会、地球環境に配慮したものやサービスを選んで消費すること。
現在の韓国では(1)人権、尊厳(2)MeToo、withyouなど性暴力被害者への共感が消費を左右する大きなキーワードになっているという。
マリーモンドも商品を通じて人の尊厳を伝えることを目指しており、同社のサイトには花のモチーフになった元慰安婦の女性たちがどのような人生を歩んだのか、克明に記されている。
日本のサイトでも同様にこうした商品の背景を伝えていく予定だが、本国とは少し変化もつける。
「日本では人権をうたうと毛嫌いされる可能性もあるので、『エンパワーメント』をキーワードにします。日本社会はあまりにも女性がエンパワーメントされてないし、声を上げた性暴力被害者がバッシングにあっておとしめられているのを日常的に感じている人も多いと思うので。
それに男性にも考えて欲しいんです。『慰安婦』の問題は、国から『男の性なんてこんなもの』と烙印を押されているようなものですよね。それでいいの?と。日韓という国家間ではなく、男女問わず『個人の痛み』の物語だと受け止めて、それを花によって祝福し尊厳を回復する。そんなブランドメッセージを伝えていけたらいいですね」(北原さん)
今後は本国のようにカフェを開き、消費者同士がつながれる場所を作りたいと考えているそうだ。
日本在住の元慰安婦で唯一、裁判を起こした宋神道(ソン・シンド)さんが2017年12月に亡くなってからもうすぐ1年。マリーモンドジャパンでは宋さんをイメージした商品も販売される。日本社会は、彼女の声に耳を傾けられるだろうか。
(文・竹下郁子)