「一度の失敗で復活できない日本」は幼児教育の産物。『アホとは戦うな!』著者が娘に教えられたこと

UWC 幼児教育

筆者の娘がUWCインファントスクールの授業で描いた「失敗することの大切さ」。

提供:田村耕太郎

今日はうならされました。娘の学校とその先生に心からの拍手を送りました。

娘はシンガポールのインターナショナルスクール「UWC South East Asia」に通う6歳。UWCは世界に17のキャンパスを持ち、なかでも1971年創設のSouth East Asiaは、(世界トップクラスの大学進学につながる)国際バカロレア修了生の輩出数で最多を誇ります。世界で4つしかないインファントスクール(幼児部)を併設するキャンパスでもあります。

UWCの哲学は、「子どもたちが自ら情熱を燃やせるものを見つけられるよう、学校と家族が一体となってあらゆるドアを開く」というもの。富国強兵のために軍人や官吏を養成しようしてきたシステムが色濃く残る、日本の学校教育とは全然違います。

UWCから世界の名門校に進む子どもたちは確かに多いのですが、アーティストやスポーツ選手、社会活動家もたくさん生み出しています。名門校を経て投資銀行やコンサルティング会社に入る卒業生はもちろん尊敬されますが、宇宙飛行士やアーティストになった卒業生がキャンパスに凱旋する時も、ヒーロー・ヒロインを迎えるように盛り上がります。

穴に落ち、這い上がることの大切さ

子ども 学習

失敗には「学びがある」ことを幼少時から考えさせられる(写真はイメージです)

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さて、娘の学校と先生にうならされた件です。上の絵を持って帰ってきた娘が、興奮しながらその意味を説明してくれました。察するに「挑戦して、失敗することからの学び」を頭の中で意義づけ、自分を励まし、それを絵にするという授業があったようです。UWCではインファントスクール時代から、このような文章で説明しにくいプロジェクトがたくさん行われます。

絵の上部に描かれている「穴に落ちずにはしごを渡る人」は、「チャレンジせずに安易な道(Easy Way)を行った人」だそうです。娘が言うには「その人は何も学習(Learn)していないのよ」「穴に落ちてから『よし、違う方法はないかな?』『もうちょっと続けてみようか?』って考えて、諦めない(Never Give Up)人だけがLearnできるの」と。

絵の下部には、自分を自分で励ましながら、落ち込んだ崖を登っていく様子が描かれています。とても印象深かったのは、最後には「Easy Wayを行った人も協力(Collaborate)して、チャレンジした人を引き上げてくれるんだよ」と。

娘は興奮しながら「厳しい道(Hard Way)を選んで、穴に落ちる失敗を犯しても、そこで深く考え(Think Hard)諦めず、必死に進んで崖を登っていくことこそが最高のLearnだ」ということを絵に描き、言葉にして友だちや先生と話し合いながら理解したようです。

娘の学びはまだ本物とまでは言えないかもしれません。でも、幼児の脳や心は侮れないものです。この年齢でこういう本質的なことを教え、考えさせてくれることにはきっと価値があるはず。娘の最近の口グセは「失敗はいいんだよ。失敗しないと学べないんだよ」です。まあ、いたずらの口実に使っているふしもありますが。

「数学を嫌いになる子」を増やさない

授業 幼児教育

友達との会話から「集合知」として理解を深めていく(写真はイメージです)。

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UWCでは、計算の速さを競う単純なドリルは使いません。計算ドリルには意味があるものの、「数学を嫌いになる子」を生み出してしまうという危惧を学校が持っているようです。私自身、児童心理学の研究事例を示され、単調な計算ドリルが数学を嫌いになる子をいかに増やすかを教えてもらいました。

例えば、「15」とか「21」といった数字の作り方を、まずは頭の中で何通りもイメージすることでその性質を理解します。そのプロセスで、偶数奇数はもちろん素数の概念も何となく身につけていくようです。

その後は、友だちと映像(Visual)と会話(Verbal)でコミュニケーションしながら、「あっ、その数字の組み合わせもあったか!」などと、あくまでも遊びながらワクワクの中で「集合知(Collaborative Intelligence)」として理解の精度を高めていくのです。

「考え抜く人、行動する人」を育てる

UWC

UWC South East Asiaで行われている実際の授業の様子。

出典:UWC South East Asia

UWCのインファントスクールでは、すべての学びは「遊び」にしてあります。まずは子どもたちの探求心にまかせる一人遊びをさせて、その成果を後でみんなで分かち合うプロジェクトを行うのです。

前述の通り、スピードと精度を競うだけの退屈な訓練はないので、数学が嫌いになる子もあまりいません。なぜそうしているかと言うと、子どもたちが将来どんな道に進もうが、ロジカルシンキングの基礎である数学は何より大切と考えられているからです。

日本の教育は将校の選抜を最終目的につくられた面もあると思いますが、トップクラスの人間が昔ほど官僚を目指さなくなった今もまだ教育のあり方はさほど変わっていません。一方、娘の学校では、どんな時代になっても世界のために、情熱のままに自分を最高に活かせる「自立して考え抜く人(Thinker)・行動する人(Doer)」を育てることを目指しています。

教育のかたちは色々あっていいと思います。学校教育だけでなく家庭教育も大事です。ただ、一生懸命描いた絵を持ち帰り、嬉々として親の前で説明を始める娘を見て、本当に素晴らしい教育、本当に素晴らしい先生だなあと、素直な感謝の気持ちが生まれました。ありがとうございます。


田村耕太郎(たむら・こうたろう):国立シンガポール大学リー・クワンユー公共政策大学院兼任教授。ミルケン研究所シニアフェロー、インフォテリア(東証上場)取締役、データラマ社日本法人会長。日、米、シンガポール、インド、香港等の企業アドバイザーを務める。データ分析系を中心にシリコンバレーでエンジェル投資、中国のユニコーンベンチャーにも投資。元参議院議員。イェール大学大学院卒業。

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