いつかは始めたい。でも、なかなか一人では続かない —— 。
そう誰もが一度は考える習慣の一つが「早起き」だろう。その早起き習慣の価値を広めることを目的に、渋谷を拠点に活動しているコミュニティが「朝渋」だ。
そしてこの朝渋こそ、もっとも今“熱い”コミュニティとして注目されている。
朝渋仕掛け人の井上皓史さん。朝活の拠点は渋谷にある、この撮影場所である「Book Lab Tokyo」。
発足は2年前。リニューアルを重ね、2018年夏からは月額会費5000円、定員200人というスタイルになった。
夜型派からは、「早起きするのに、お金まで払うの?」という声が聞こえてきそうだが、会員の口コミから評判が広がり、今では月に50人ほどのエントリーがあるという。
コミュニティといえば著名人が自身のファンを集めるオンラインサロンがブームだが、朝渋仕掛け人の井上皓史さん(26)はあえて“裏方”に徹し、独自の手法で人気コミュニティを育て上げてきた。
「コミュニティを活性化させる熱源になるのは、誰か一人のカリスマ性ではなく、メンバー全員の『朝型生活に変えて人生変わった!』という感動体験です。朝渋に入ったら早起きが続いた、早起きが続いたら仕事がうまくいくようになった、素敵な仲間がこんなに増えた。そんな感動体験が口コミとなって、新たなメンバーを呼び込んでいます」(井上さん)
社長にも早起きのススメ、始業時間前倒しに
そもそものきっかけは、井上さん自身の早起き習慣だった。
出社が早い銀行員の父に合わせ、物心ついた時から「5時に起きて5時半に朝食を食べる」習慣が身についた。その生活リズムは大学生になっても崩れなかったが、新卒でヤフーグループに就職して求人広告営業の仕事を始めた途端、「始業10時、終電帰り」の生活に変えざるを得なくなった。
早起きが習慣の井上さんに「始業10時、終電帰り」の生活は合わなかった。
GettyImages / bee32
「明らかに自分の体質に合わない」と感じた井上さんは、上司に直談判して「2時間前出社」のスタイルに。同僚が出社する前の静かな朝の数時間のうちに資料作成や顧客データ管理などの集中業務を済ませ、始業と同時に顧客に電話営業をかける。みるみる効率よく仕事が進むようになった。
その後、転職した会社では、社長にも早起きを勧め、その効果に納得した社長は始業を1時間前倒しに。早起きの価値は、1社の就業規則を変えるほどのインパクトがあったのだ。
これらの体験を複業研究家として活躍する西村創一朗さんに話したところ、「早起きは井上君の強みだから、本格的な活動にしたほうがいい」と背中を押された。渋谷拠点の朝活コミュニティ、名付けて“朝渋”。2016年9月、知り合い20人ほどを集めての活動から始まった。
「朝ならではの発信力がある」
早起きができた!という体験が熱のあるコミュニティにつながっていった。
提供:朝渋
しかし、最初からうまくいったわけではない。当初は各メンバーが順番に自分の専門スキルを発表する形から始めたが、半年ほどでネタが枯渇。コアメンバー4人ほどで作戦会議を開き、たまたま全員が本好きだったことから、週に1回、好きな本を持ち寄ってただ黙々と本を読む「もくもく読書会」へと方向転換をした。
そのうち、メンバー間で話題に上った本の著者だったForbes Japan副編集長・谷本有香さんを呼んでのイベントを企画しようと告知したところ、いきなり50人ほどが集まった。これが今に続く朝渋の看板イベント「著者と語る朝渋」に発展したのだ。
これまで登場した中には、プロノバ代表・岡島悦子さん、SHOWROOM代表・前田裕二さん、乙武洋匡さんなど、なかなか呼べない大物も。著者を招いての開催数は、現在までに60回。開催日には「#朝渋」がTwitterのトレンドに入ることも少なくない。
夜に開催されることが多い他の著者イベントとの違いについて、井上さんは「朝ならではの発信力がある」と語った。
「終業後に集まる夜のイベントは、仕事の疲れから集中力・記憶力が続きにくく、終わった後にお酒を飲んだりして内容が記憶に残りにくい。朝開催であれば、印象が1日残り、シェア行動を起こせる時間も長い。『朝早くから有意義な時間を過ごせた』という満足感も合わさって、口コミが広がっていく」(井上さん)
「早起きが1カ月で身につく習慣づけ」を目指し、きめ細かなサポートに力を入れている。
朝渋メンバーはこの著者イベントに割引価格で参加できるが、これはあくまでメンバー特典であり、新規メンバーの呼び水でしかない。
グループで励ましあいながら育つ
井上さんが最も力を入れてきたのが「早起きが1カ月で身につく習慣づけ」のためのきめ細かなサポートだ。
メンバーは7〜8人のチームに振り分けられ、各チーム内でオンライングループを作成。1カ月間、「起きる時間」と「寝る時間」を毎日報告し合う。「チームで励まし合うピアプレッシャーで、早起きの達成率が上がる」(井上さん)。チームワークを高めるため、月初に一度、「チーム全員で渋谷でモーニングを食べる」のもルール化している。
各チームには、朝渋歴半年以上で特に熱量の高いメンバーを「バディ」として1人ずつ配置し、新人メンバーを「リーダー」に。バディに励まされながら、リーダーが育つ仕組みを作っている。チームは毎月シャッフルされ、メンバーの組み合わせには細心の注意を払う。オンライングループでの発言が少ないメンバーには「イベントのみ参加しては」と促す。
こういった「コミュニティの質を高めるメンテナンス作業」に、井上さんは毎日3時間以上を費やしている。「コミュニティ管理の肝は、徹底した“事務”です」と言い切る。
そのほかのオフラインでの活動も積極的だ。「早起きを身につけて、“何をするか”が大事。やりたかったことに気軽にチャレンジできるきっかけづくりとして、メンバー主体の部活動を立ち上げています。ウクレレ、フットサル、読書、鎌倉など、約50の部活動が動いています」
さらに、早起きによる自己変革体験を共有する「朝トーーク」、先月の振り返りと今月の目標を決めるオフ会を、それぞれ月1回開催している。
妻の「本業する価値あり」の一言で退社
朝のイベントには朝渋会員以外にも申し込みがある。「著者と語る」シリーズは人気だ。
提供:朝渋
これらの活動を複業として続けてきた井上さんだが、2018年8月に勤めていた会社を辞めて朝渋を本業に。決断の決め手は、朝渋のコアメンバーとして知り合った妻の中村朝紗子さんの「朝渋は本業にするだけの価値がある」という一言だった。
8月には会費の決済システムも変更。こうした運営側の変更は会員を手放すリスクを伴うため、できる限り避ける事業者が多い。しかし、井上さんは「モチベーションの高いメンバーだけを残すいいきっかけになる」と踏み切った。結果、180人中140人が更新。その後、さらにメンバーは増え、定員の200人に到達間近だ。
あえて「200人まで」と決めたのも「熱量の高いコミュニティを維持する限界値だと考えたから」。今後は、朝渋のコミュニティ設計は独自のものなので、「コミュニティ」のコンサルティングの仕事の依頼も相次ぐ。すでに数社との伴走は始まっている。
「早寝早起きは、明日から始められる“自分との約束”。自分との約束を果たせた達成感は、人を大きく成長させるし、本当にやりたかったことを始めるきっかけにもなる。その価値を一人でも多くの人に体験してもらうことが、僕の使命だと思っています」
(文・宮本恵理子、写真・竹井俊晴)
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