CEATEC 2018のシャープブース内では、すでにdynabookの展示が行われていた。
シャープは12月3日、同社が10月に買収した東芝PC事業・東芝クライアントソリューション(以下、TCS)の中期経営計画を発表した。TCSは2019年1月1日よりDynabook株式会社としてリニューアル。Dynabook社は3年後をめどに株式の新規上場を目指すとしている。
東芝クライアントソリューションは、2019年1月1日をもってDynabook株式会社となる。
ここ数年、日本のPC業界は再編が続いている。2014年7月にはソニーのPC事業が独立し、VAIO株式会社が発足。2018年5月には富士通のPC事業がレノボグループ傘下となった。老舗の日本PCブランドはどのような未来を歩むのか。TCSが発表した中期計画の詳細を見てみよう。
PCの枠を超えるdynabookブランド
世界初のノートPCとして生まれたdynabookシリーズだが、今後はPC製品以外にもその名前が使われるようになる。
シャープおよびシャープの親会社である世界最大級のEMS・鴻海(ホンハイ)精密工業の開発力や営業力が活用されるのは当然として、今回の中期戦略の肝は2つある。
その1つがdynabookブランド(社名はDynabookだが、ブランド名としては従来通りdynabookとなる)を最大限活用する事業領域の拡大だ。
事業拡大のテーマは「dynabook as a Computing(コンピューティングとしてのdynabook)」「dynabook as a Service(サービスとしてのdynabook)」。
現在、B2B領域を中心に広がるPCとしてのdynabookはもちろん継続する。勢いは以前ほどではないとは言え、コンシューマー向け製品の開発も同様だ。その上でシャープ傘下となったことで、同社のスマート家電やスマートフォンなどとの連携も今後予定されているという。
しかし、肝は、そんな目に見えて分かりやすい連携ではない。dynabookブランドは今後同社が開発するワークステーション、サーバー、IoT機器などのあらゆる製品やサービス、ソリューションに活用されていく。
シャープ取締役副社長執行役員の石田佳久氏はこれを「dynabook as a Computing」並びに「dynabook as a Service」と表現。長年の独自のPCに関する開発ノウハウや好評を得ているサポートやソリューションを活かし、次世代に必要なアイデアや別領域の技術などは、シャープやホンハイのアセットを活かし、開発を進めていく方針だ。
もう1つの鍵は「グローバルビジネスの再展開」
同社の2018年度営業利益は赤字だが、2018年度下半期以降に黒字化を見込んでおり、その後は順調な成長が続くと予想している。
Dynabook社の成長戦略のもう1つの肝は、これらの製品やサービスを日本だけではなく、グローバルにも広げていく計画があることだ。
TCSおよびDynabook社で社長を務める覚道清文氏は、TCSの現在売上状況について「日本市場への依存度が高い」と表現。IPOを見込んで売り上げのさらなる拡大を目指すには、より広い市場へ繰り出す必要があるというわけだ。
そのため中期経営計画では、売上高のうち海外事業が占める比率を2018年度の22%から、2019年度には35%、2020年度には42%まで拡大する目標を掲げている。
ホンハイおよびシャープの開発・営業基盤を活用し、北米、欧州、アジア諸国にアプローチ。日本市場への依存度を徐々に下げていきたい考え。
とくに同社が期待を寄せているのがアジア地域での拡大だ。アジア地域の2020年度の売り上げを対2018年度比で163%と定めている。これをけん引するのは、シャープというよりホンハイが持つ豊富な営業と生産基盤だ。比較的安価な「アジア攻略機」と呼ばれるPCとソリューションをホンハイの基盤を最大限活用し、B2B領域を中心に展開していく方針だ。
しかし、気になるのは北米や欧州といったdynabookブランドの知名度やホンハイの営業力がアジアほど見込めない地域をどう攻略するかだ。
写真左からDynabook社の代表取締役会長を務める石田佳久氏、同社CEOを務める覚道清文氏。
これに対し、石田氏は「北米や欧州でシャープは既にビジネスソリューションを展開しており、印刷機やPOSなどの販売と融合させることで売り上げを伸ばせるだろう」と見解を述べている。
また、海外でのdynabookブランドの知名度について「海外では相当低い浸透度である」とその低さを認めつつも「今後、グローバル展開でdynabookというブランドで攻めていく。投資も必要だろうが、マーケティング施策などお客様との関係を構築していく。これをやり切るという覚悟でやっていく」と意気込みを語った。
実質的に海外のグループ企業になったとはいえ、日本初のブランドと技術が世界でどこまで広がるか注目だ。
(文、撮影・小林優多郎)