面接合否、学歴フィルター実態など全採用データを公開する企業の狙いとは

就活生

現代の就活は、学生にとってあまりにも「不親切」だ(写真はイメージです)。

Reuters/Yuriko Yano

現在大学2年生にあたる2021年卒から、経団連が就活ルールを廃止することが正式に決まった2018年。情報解禁や採用選考開始で足並みをそろえてきた企業が、今後はどう動くのか、政府主導のルールづくりで就活はどう変わるのか。当事者である学生たちにも、読みづらい状況が続いている。

そんな中「すべての採用活動データを公開します」と、毎月の受験者数、その合否の数、学歴フィルター懸念についてなど、あらゆるデータの公開に踏み切った企業がある。IT企業のガイアックスだ。可能な限りをオープンにするその理由とは。

入社してから真実を知っても遅い

「就活で学生は加工された情報しか見せられない。あまりにも透明性がないので、判断に困る。企業にいいことだけ言われても信用できませんよね。だったら、いっそのこと採用活動の情報は、すべて公開してしまおうという話になりました」

ガイアックスの人事・採用担当、藤堂和幸さんは、採用情報の公開に踏み切った背景を、そう振り返る。

藤堂さん。

ガイアックス人事・採用担当の藤堂和幸さん。「本当の情報がなければ学生も判断しようがない」。

提供:ガイアックス

2018年は廃止をめぐり、話題となった経団連の就活ルールだが、そもそも廃止以前に、面接などの採用活動解禁当日の6月1日には内定率が7割近く(リクルートキャリア調べ)と、ルールはほとんど形骸化している。

「ホンネとタテマエ」が渦巻く就活は、学生にとってのわかりやすさや透明性とは、あまりにかけ離れているのが現状だ。

上場企業のガイアックスだが、経団連加盟企業ではないため、もともと経団連の就活ルールは無関係で、通年採用を行ってきた。

合否状況などいっそすべてオープンにすることで、ゆがんだ就活の実態に一石を投じたいという思いがあったという。

毎月、何人受けて何人合格したかを公開

1年程度の検討期間を経て、ガイアックスが公開した具体的な採用データをみてみよう。

現時点で誰でもアクセスできる情報として、①月別の人事面接通過状況②大学群別の人事面接通過状況が公開されている。

例えば「人事面接通過状況」として、以下のグラフが明らかになっている。

合否

ガイアックスが公開した月別の人事面接通過状況。

出典:ガイアックス

・2017年10月 不合格・辞退人数6人、合格人数2人、通過率25%
・2017年11月 不合格・辞退人数21人、合格人数10人、通過率32%
・2017年12月 不合格・辞退人数11人、合格人数3人、通過率21%…

ここでは何人が受けに来て、何人が合格したのか。通年採用とはいえ、受験者が多い時期はいつごろなのか——がすべて可視化されている。

一方、大学群別の人事面接通過状況は、次のグラフのとおり。

就活の不安で最も大きいものの一つに、いわゆる学歴フィルターの存在があるが、ガイアックスは「応募に対して、大学名ではじいたことは一度もないと言える」(藤堂さん)と明言。

大学別

ガイアックスが公開した、大学群別人事面接通過状況。

出典:ガイアックス

・旧帝大→不合格・辞退20人、合格5人、通過率20%
・早慶上智→不合格・辞退22人、合格2人、通過率8.3%
・その他私立→不合格・辞退31人、合格6人、通過率16.2%…

出身大学を選考に考慮していないことが、人事面談合格率に表れています。必ずしも早慶上智、旧帝大の合格率が高いわけではありません。一方、その他私立大は合格率が比較的高いなど、入学難易度と合格率に強い相関関係がない。そういう会社だと知ってもらいたい」と、藤堂さんは説明。さらに「学生のみなさんは、学歴にとらわれることなく、会社が合いそうかどうかでみてほしい」と、呼びかける。

「学生に自分のキャリアを考えてほしい」

就活

経団連が就活ルールの廃止を決めたことで今後就活はどう変わっていくのだろうか(写真はイメージです)。

Reruters/Toru Hanai

ガイアックスは、2社で人材を共有するダブル正社員や、「1人月5万円以上は苦手な仕事を外注するルール」など、ユニークな働き方を実践してきたことでも知られる。

「時代が変わり、ガイアックスも出戻り社員が増えたり、リモートワークが多くなったり、起業や副業をしている社員を採用したり。だんだん、新卒採用の概念も変わりつつあります」

これだけ働き方が多様化して、社員にも自分のキャリアを自分で考えてほしい時代にも関わらず、「入り口の採用活動だけ情報がなければ、学生は自分のキャリアを考えようがない」と、藤堂さんは言う。

2018年は、経団連の就活ルール廃止が決定。今後、就活自体がどう変わるのか。学生だけでなく、大学も企業も戸惑っている。

「今後、どうやって採用活動や就活に取り組めばいいのか分からない会社や学生は多いのでは。それなら、企業がどんな人と会いたくて、いつ誰をどういう形で選考しているかという情報を、すべてオープンにするのがベストだと、ガイアックスとして提案したい」(藤堂さん)

企業と学生「合意」すれば就職が決まる時代に?

nagatacyou

学生と企業が対等な就活の時代は来るか?ガイアックス社内の、社内外に開かれたコミュニティーラウンジの様子。

提供:ガイアックス

ガイアックスは今後、

  • どんな人物を求めているかの採用基準
  • 採用目標に対して、どれだけ採用できているかという採用充足率
  • 社員の働いている時間の実態

なども、公開していくという。

「これまで学生側にばかりプレッシャーがかかるのが就活でしたが、会社が一方的に学生を採用するというより、会社と学生が対等にお互いをみて、合意すれば協力関係を結ぶ……くらいのスタンスであるべきだと考えています」と、藤堂さんは言う。

ただ、就活そのものを変えるには、一社の動きではどうにもならない。

「我々だけが透明化しても、仕方がない。賛同してくれる企業が増えれば、就活全体が変わるんじゃないでしょうか。賛同企業を募集中です」(藤堂さん)

(文・滝川麻衣子)

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