平成最後の「現代用語の基礎知識選 2018ユーキャン新語・流行語大賞」が発表され、男性同士の純愛を真正面から描いた「おっさんずラブ」もトップ10に入賞した。
一方、お隣の中国では、ボーイズラブ(BL)作家がわいせつ物を配信した罪で懲役10年の判決が下り、日本のBL界にも衝撃を与えた。
中国でポルノ小説を販売していた女性作家が懲役10年の判決を受け、衝撃が走っている。
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ポルノ小説をECサイトで販売し逮捕
11月下旬、ツイッターで「BL小説発表して懲役10年」という中国ニュースが話題になった。
正確に説明すると、女性作家の「狗娃子天一(ゴウワーズティエンイー)」さんは、BLだけでなく、未成年の性行為など幅広い作品を手掛けるポルノ作家(中国のファンは「耽美作家」と表現している)であり、ECサイト「タオバオ(淘宝)」で自著7000部を販売し、15万元(約250万円)の利益を得たことが罪に問われ、10月31日、一審で懲役10年6カ月の判決を受けた。
11月下旬にこの判決が報じられると、中国のネットでも「強姦は3年なのに、ポルノ販売は10年は釣り合いが取れない」「(脱税で処罰された)女優のファン・ビンビンに比べたらかわいいもんだろう」と批判や驚きの声が噴出。弁護士などの専門家も、実名で異議を唱えている。
「ポルノは社会を汚染する文化ごみ」
狗娃子天一 さんの微博は1年前から更新されておらず、今年に入って心配する声が出ていた。
ただし、中国の人々にとって、彼女の「逮捕」自体は驚きではないらしい。ネットのコメントも、ポルノコンテンツの配信や販売が有罪とされることは論点になっておらず、大半が減刑やこれ以上罪が重くならないことを求める声だ。
大連の大学院生、楊暁琨(ようぎょうこん、23)さんは、「ポルノの出版や販売は、刑法違反なんだから逮捕は仕方ない。懲役10年は重いと感じるけど」と話す。
中国では、ポルノコンテンツの出版や販売は法律で禁じられている。日本アニメは中国で大人気だが、「パンチラ」や「際どいビキニ」などのお色気シーンは、モザイクをかけられるか、カットされて放映される。中国で大人気の元AV女優・蒼井そらさんも、中国では文化人的な発言・活動を軸にしている。
中国政府は「ポルノコンテンツは人々の心身の健康に危害を及ぼし、社会の文化や環境を汚染する文化ごみ」と糾弾。刑法第363条で、ポルノコンテンツの制作や出版、販売、配信を行った者は原則3年以下の有期刑に処すると定め、犯罪行為がより悪質な場合には3年以上10年以下の有期刑、「特別悪質」な場合は、無期懲役も科せると明記している。
狗娃子天一さんの判決が報道されたとき、ネットには「強姦ですら3年なのに……」と書き込まれ、日本でも話題になったが、刑法は強姦の刑罰を「原則3年から10年の有期刑。悪質な犯罪は死刑もあり得る。子どもに対する強姦は刑を重くする」としており、強姦罪と比較した限りでは、「ポルノコンテンツの販売で懲役10年」は重くないとも言える。
違法コンテンツ通報者には1000万円の報奨金
中国政府はポルノ取り締まりのためのサイトも開設しており、電話やネットで通報を受け付けている。
同罪は1998年に導入されたことから、ネットでは「社会や価値観が大きく変化しているのに、20年前の価値基準で裁くのはおかしい」との声も上がっている。
しかし中国政府はこの数年、「社会秩序を乱す存在」であるポルノコンテンツの取り締まりをむしろ強化している。
12月1日には「ポルノコンテンツの通報奨励制度」を施行。違法コンテンツの通報者には、最高で60万元(約1000万円)の報奨金を提供するとし、通報対象となるコンテンツや行為もより明確に規定した。
微博で7万5000フォロワーを持つ狗娃子天一さんへの重い刑罰は、政府による「見せしめ」と捉えることもできる。
エロ本・エロ動画を見たことがない大学生は普通
ネット規制とポルノ規制で、ポルノコンテンツを見る環境はかなり狭まっているという。
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では、政府がポルノ規制を強化する中で、中国の10代、20代は性に関する情報をどのように得ているのだろう。
河北省の会社員、孫坤楊さん(25)は「最大の情報源は、学校の不良グループの実体験や自慢話でしたね」と振り返る。国が禁止しているだけでなく、中国では学校や家庭でも性の話はタブーで、孫さんの中学の生物の授業では、植物の生殖器官や受粉の仕組みは故意に飛ばされたという。
孫さんは「僕が中学生だった10年前はグーグルも閲覧でき、政府のネット規制もそんなに厳しくなかったので、パソコンからエロ動画を見るのはそんなに難しくなかったです。だから、外国コンテンツがエロとの出会いだった人は多いですよ」とも話す。
一方で、「自分の下の世代はネット規制が強まり、今は(中国政府が禁止しているサイトを閲覧するための)VPN(仮想プライベートネットワーク)にもつながりにくいので、エロ本やエロ動画を見たことがないという大学生は、全然珍しくないです」という。
校外で男女が一緒にいると停学
多くの中国の中高生は、大学入試のために勉強漬けの毎日を過ごす。
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日本と違って、中国では中高生の性行為はほとんどない(あるとしても全く表に出ない)。一部の“不良”以外は、受験勉強のプレッシャーで恋愛どころではないからだ。
多くの中高が恋愛を禁止しており、「男女が30センチ以内に近づいてはいけない」「校外で男女が一緒にいるのが見つかると停学」と校則で定める学校すらある。
日本に留学中の王さん(仮名、23)は中学時代、ひそかに好きだった同級生からラブレターをもらったが、親にも学校にも恋愛を禁止されていたため、「私はあなたのことが嫌いです」という返信を、相手の机の引き出しに入れた。
「日本の恋愛ドラマやアニメを見るようになって、自分の当時の行動をすごく後悔した。中学時代に戻って人生をやり直したいと強く思うようになった」と王さんは言う。
高校生カップルはいるが、「大学入試のプレッシャーを乗り越える同志みたいな存在。手をつないで登下校するくらいの接触度」(孫さん)と、日本人から見ると清いことこの上ない。
コンビニにエロ本、「日本はタブーがなさすぎる」
「結婚前のセックスはありかなしか」というのは、中国の若者の間でよく議論されるトピックだという。(写真はイメージ)
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「人前で性に関する話をするのはタブー」という考えだけでなく、「女性は結婚するまで処女でいないといけない」という価値観も根強い。
20代の複数の中国人は、「国際化の影響で、この3~4年は以前ほどではない」「婚前性交渉はありかなしか、という話は、大学生の間でも活発に議論されるようになった」と前置きしつつ、「処女でないと結婚が難しくなる。セックスをするなら結婚を前提に、という女性の方が自分たちの世代でも多数派です。僕も彼女はいますが、相手が結婚までだめというなら当然受け入れます」(孫さん)、「周囲の男友達に聞いたことがあるけど、半分以上が、『結婚する女性は、性体験がない方がいい』と答えた」(楊さん)と話す。
中国女性の間でも「30歳までに結婚したい」というような考えはあるものの、23歳の楊さんによると「彼氏がいないことへの焦りはあっても、自分たちの年齢なら、性体験がないことへの焦りはない」という。
「ポルノコンテンツの販売で懲役10年」の中国ニュースに日本のネットはざわついたが、中国人は逆に、コンビニでアダルト雑誌が売られ、セクシー女優が地上波の番組に出演する日本の状況に、驚きと不安を覚えるという。
王さんは2016年の来日時に「セクハラに遭うかもしれないと怖くて、コンビニで立ち読みをしている男性の後ろを通れなかった」と明かし、「日本はタブーがなさすぎると思う」と話した。
(文・浦上早苗)