産婦人科医の宋美玄さんがLINEスタンプをつくった。「おっけー」「酔いつぶれてるんはOKとちゃうで」「今のところな」など、デートやセックスの際の意思表示に活用してもらうのが目的だ。
実は今、妊娠しても相手の名前も分からず、LINEしか連絡手段がない──そんな若い女子が増えているという。
セックスのコミュニケーションのハードル下げたい
セクシュアル・コンセント(性的同意)、取れてますか?
shutterstock/LDprod
LINEスタンプは上記の他にも「嫌よ嫌よは嫌なんやで」「同意のない行為は犯罪やねんで!」「どうしたい?」「生理痛やばいわ」など全部で40種類。関西弁のうさぎが性に関する同意・不同意を伝えている。
宋さんは2010年に『女医が教える 本当に気持ちのいいSEX』を出版するなど、セックスにまつわる体の仕組みや「AVは教科書じゃない」ということを訴えてきた。だが今も、「嫌われたらどうしようと思って『セックスしたくない』『避妊して』と言えない」「彼がAVのようなセックスを強要してくる」など、若い女子の悩みは当時と変わっていないという。
「男性がセックスを武勇伝のように振る舞うマッチョな社会の中で、セックスに関するコミュニケーションが取りづらくなっている女の子が多いと感じます。スタンプでそのハードルを下げることができたらいいなと。啓発の意味も込めているので、例えば『今のところな』など、一度した同意も撤回できるということを知ってくれたら嬉しいですね」(宋さん)
宋さんがつくった「同意・不同意を伝えるスタンプ」。120円で発売中だ。
出典:LINE STORE
2017年度の内閣府の調査によると、無理やりセックスなどをされた被害経験のある女性は7.8%、男性は 1.5%と、女性の約 13 人に1人が被害にあっていた。被害女性への調査では、加害者は配偶者・元配偶者(26.2%)の次に交際相手・元交際相手(24.8%)が多い。「デートDV」という言葉が広まってきた一方で、理解はまだまだ追いついていないのが現状だ。
「『恋人になる=いつでもセックスできる権利を手に入れた』と思っている人が多いですが、それは違います。『嫌やったら言うてな』というスタンプがありますが、男女ともに何かを相手に押し付けていないか常に考えて欲しいんです。
私も今なら『これはデートDVだ』と分かるけど、若い頃は『男女関係はそういうもの』だと信じ込んでいたこともあります。恋愛市場における自己肯定感の低い女性も多いから、『この人にフラれて彼氏できなかったらどうしよう』と不安になるんですよね。だからこそ、誰かに『それはおかしいよ』と教えて欲しかった。そんな思いでつくりました」(宋さん)
絶対に自分を責めないで
「妊娠したら逃げればいい」という無責任男子もいる(写真は本文と関係ありません)。
撮影:今村拓馬
TOKIOの元メンバーが女子高生への強制わいせつで書類送検された(その後不起訴処分)事件が発覚した際、「家に行った女子高生が悪い」などの投稿がSNS で相次ぎ、テレビ番組の「性行為の同意があったと思われても仕方がないと思うもの(複数回答)」というアンケート調査では、「泥酔している」「2人きりで飲酒」と回答する人が約3割いたことも。こうした日本の性的同意に関する理解の低さに危機感を覚えたことも、宋さんがスタンプをつくるきっかけになった。
宋さんによると、妊娠しても相手の名前も分からず、LINEしか連絡手段がないという若い女子が増えているという。「妊娠したら逃げればいい」と思っている無責任な男子、そして「お金を払って中絶してもらえばいい」と考えている男子の親も少なくないという。
「現実的には、女性はピルを飲んだり子宮内避妊器具を使うなど自分で避妊をした方がいいと思います。
でも絶対に『ちゃんと言えなかった私が悪い』とは思わないで欲しい。同意は2人で確認することが大切。だから同意を取らなかった相手が悪いんだよということは伝えていきたいです」(宋さん)
「性的行為」「安全日」は審査を通過できなかったため、「行為」「女の子の日」に。
出典:LINE STORE
スタンプは主に女性が使うことを想定しているが、もちろん男性も、そして女性同士でも使って欲しいという。「あんたそれセクハラされてるで」「あんたそれセクハラしてるで」など、日常のハラスメントへの注意を促すものもある。
実はこのスタンプ、発売までに文言が数回変わっている。
宋さんによると、はじめは「『安全日』ゆうのはないんやで」「同意のない性的行為は犯罪やねんで」「断れない状況で襲うとかあかんで」という文言を想定していたが、それぞれ「安全日」「性的行為」「襲う」が性的な表現だとしてLINEの審査を通過できなかったそうだ。
結局、「女の子の日」「行為」「帽子は例外なくかぶってな」に変更し、無事に発売できることになった。帽子はもちろんコンドームのことだ。
「啓発するにも一苦労です」(宋さん)
(文・竹下郁子)