「やりたくない仕事」を外国人に押し付ける日本に、海外の高度人材は来ない

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今後深刻な人手不足を迎える日本。すでにさまざまな現場で外国人に頼っている。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法改正が国会で成立し、2019年4月に施行されることになった。これまで「専門的・技術的分野」の高度人材しか受け入れてこなかったが、深刻な人手不足に対応するために単純労働者にも門戸を開くことになる。

新たな在留資格は、通算5年滞在できる「特定技能1号」と在留資格が更新できる専門技術的な労働者の「特定技能2号」の2種類だ。1号の対象者は農業、介護、建設など人手不足が深刻な14業種。政府は2019年度から5年間の類型で最大34万5000人を受け入れる見込みだが、そのうち現行の「技能実習生」からの移行が45%と見込んでいる。

特定技能2号は高度専門職と同様に家族も帯同でき転職も自由だが、1号は家族と一緒に来日できない。政府は国会答弁で1号に関しても「転職の自由や一時帰国も認める」と発言しているが、生活支援策や日本語教育を含めてその実効性をどう担保するのか、具体的な制度の中身は明らかにされておらず、今後検討することになる。

低賃金・長時間労働など問題抱えたまま

現在の「技能実習制度」はもともと途上国への技術移転を目的に創設されたが、実際は企業の人手不足解消策の労働力として利用されている。技能実習生の滞在期間は3年程度。もちろん家族も連れて来られなければ、転職の自由や住居を自分で決めることもできない。悪質なブローカーの介在、受け入れ事業者が最低賃金以下で働かせる法違反、人権侵害、失踪などのトラブルが後を絶たず、海外から人権侵害や強制労働の温床と指摘されるなど、悪名高い制度として知られている。

今回実質的にはその延長線上に「特定技能1号」が設けられることになるが、現行の技能実習制度の問題点が改善されないままに新制度を導入することに反対の声も根強い。

国会

人手不足解消のために外国人の受け入れを切望している経済界からも、今回の国会論議は「拙速」という声が出ている。

撮影:今村拓馬

担当官庁の法務省が実施した失踪した技能実習生2870人の調査では当初、失踪理由として約87%が「より高い賃金を求めて」と発表したが、実際は「低賃金」を理由だったことが後でわかった。野党議員が同じ調査資料を分析したところ、67.7%(1939人)が「最低賃金割れ」が理由だった。しかも「過労死ライン」とされる月80時間以上の時間外労働をしていたが、全体の1割もいた。その他の失踪理由としては「指導が厳しい」「暴力」「強制帰国」「セクハラ」「妊娠」もあった。

こうした問題を抱えながら、今回の改正法案は外国人労働者の法的保護など具体的な制度内容を示さないまま国会で審議され、拙速との批判を浴びている。

「単純労働押し付け」に危惧

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今回の法改正論議の最中、当事者である企業からの声は聞こえてこなかった。

REUTERS/Crack Palinggi

単純労働者の受け入れは経済界の強い要望があったと政府は説明している。実際に小売、飲食、建設業をはじめ人手不足が深刻な業種が多いのは確かだ。だが、今回の受け入れ策についてどう思っているのか、あまり企業の声は聞こえてこない。実際はどうなのか。

物販・飲食店チェーンを展開する企業の人事担当役員は人手不足の現状についてこう語る。

「現状でも首都圏だけではなく、人が集まる商業地域によっては最低賃金を大きく上回る時給を提示しないと人が採れない状況です。郊外の大型複合商業施設でもテナント各店で一律だった時給が崩れ始め、人が採れないテナントから徐々に時給が上昇し始めている。

そうした中でこれまで外国人採用に消極的だった業界や企業も単純労働を外国人労働者にやってもらおうという動きが加速しています。当社でも“3Y業務”と呼ぶ『やる人がいない、やりたくない、やらせたくない』業務を外国人に担ってもらおうという声も強くなっています。多少のリスクはあっても、もはや受け入れに躊躇(ちゅうちょ)している場合ではなく、早く受け入れ体制を整備し、外国人を雇用することによって事業を発展させていく企業が勝ち組になっていくのではないでしょうか」

小売業や飲食業のような人手不足企業は外国人労働者を受け入れるしかないという、せっぱ詰まった状況にあるようだ。

一方、他の業種でも不可避と考える企業も少なくない。IT企業の人事部長はこう指摘する。

「少子化による未曾有の雇用不足を解消するには、外国人労働者の受け入れは不可避でしょう。女性活用ですでにM字カーブは解消しつつありますが、大幅な雇用不足解消には結びつかない。シニア世代を活用するには意識改革が必要で時間がかかるし、AIなどのIT化がどこまで生産性向上に結びつくのか未知数です。日本のGDPを押し下げないためには外国人労働者受け入れは絶対にやらねばならない施策だと思っています。

だが、今の議論ではどういう外国人をどのように活用するのかという視点がまったく欠落しています。『日本人がやりたくない単純労働のみを外国人に押しつける』という視点に傾いていることは問題だと考えています」

確かに国会では喫緊の人手不足解消策の議論しか行われず、中・長期的な外国人材の受け入れ方針が議論されることはなかった。両氏はともに外国人労働者の受け入れには賛成だが、単純労働の受け入れ施策には不安を隠さない。

物販・飲食店チェーンの人事担当役員はこう指摘する。

「今回はどう見てもとりあえずの『人手不足解消の待ったなし制度』でしょう。政府も実際は不安なんでしょうが、いちいち細かい制度設計を行っていたらとても間に合わないので、リスクは飲み込んで導入を進めたとしか思えません。

実際は単純労働なのに技能実習生という言い方でごまかしたり、処遇面でも問題を引き起こしている。やはり仕事の内容と就業期間、就業場所、賃金などの労働条件契約書を個人と企業双方が合意の上で締結する、日本人と同一労働であれば同一賃金とするなど、制度上の抜け道や監督、監視のシステムが整備されていないとさまざまな問題が起こるでしょう」

“邪悪な欲望”に変貌する社長

建設作業中の外国人労働者

このまま外国人労働者を受け入れを拡大すればさらにさまざまな問題が起こることは明白だ

Getty / alvarez

今後入ってくる単純労働者は日本語もたどたどしく、日本における労働者の権利義務も知らない。政府は法務省の入国管理局を「出入国在留管理庁」に格上げし、外国人労働者を雇用する企業の監督や生活支援策を行うとしている。

だが、日本人の若者ですらブラック企業に長時間労働や低賃金を強いられている現状を十分に取り締まれていない状況もある。先のIT企業の人事部長もこう危惧する。

「労働基準監督署が過重労働など問題のある企業に臨検に入るのは、従業員の告発があって動くケースが多い。遠く離れた祖国から出稼ぎに来ている外国人労働者がそこまで声を上げるとは思えません。一定数以上の外国人を雇用している企業には、厳格なルールの下で人権や処遇が不当に扱われないように監視するシステムなどの体制整備が急務だと思います。

逆に外国人労働者に認める権利や許可を悪用し、不正や搾取を行う人材ビジネス業者も現れるかもしれません。そうした行為を防がないと、欧州の移民問題のように人種問題や治安の悪化につながり、いずれ日本人に外国人に対する排他的な考えが広がっていくことが一番恐いですね」

外国人の受け入れに熱心な企業ほど、次第に外国人に対する排他的な感情を生んでしまう可能性もある。以前取材した外国人の技能実習生を支援しているNPOの代表はこう語っていた。

「劣悪な住居環境や低賃金、長時間労働をしている実習生のケースを見て、皆さんひどい奴隷労働だと言いますが、問題は一つひとつのケースではなく構造そのものにある。使用者の社長一人ひとりは皆悪いわけではなく、もともとは良い社長さんも多い。

にもかかわらず、なぜこんなひどいことをするのか。私は“邪悪な欲望に変貌する社長”と呼んでいますが、次第に実習生に対しては何でもできると思い込んでしまう。どうせ帰国するし、3年間の使い捨てじゃないかとぞんざいに扱うようになる。帰国させるぞと脅すと皆びくっとする。ほとんどの人が借金を背負っているので、途中で帰るわけにはいかずに我慢する。使用者は益々増長し、労働者は不満が鬱積(うっせき)していく。そうした負の構造を生み出している制度そのものが問題なのです」

外国人と共生する日本への転換を

休憩中の外国人労働者

外国人を使う側の企業の意識が変わらなければ、制度が変わっても何も変わらない。

Getty / AzmanJaka

政府は特定技能1号と技能実習制度は違うと言うが、外国人を使う側の企業の意識は変わらない。「日本人がやりたくない仕事を外国人にやらせる」という企業側の意識が変わらなければ同じ問題を引き起こす可能性もある。

外国人労働者問題に詳しい採用支援コンサルティング会社モザイクワークの髙橋実取締役COOはこう語る。

「外国人労働者の受け入れは日本の産業に不可避ですし、このタイミングで着手したことは評価していますが、具体的な制度設計に入っていないことはかなりリスクが高い。今の制度では外国人のブルーカラー層に日本人がやりたくない仕事をやらせるという域を出ません。技能実習生と同じ問題が再燃することになりかねません。

むしろ並行して受け入れていくべきなのは、ホワイトカラーの外国人の活用です。アジアには日本で働きたいというホワイトカラー層が山ほどいますが、大企業をはじめ雇用不足を実感しておらず、うちの会社はなんとかなるという幻想を持っている企業が多い。ホワイトカラー層を取り込むことなく、ブルーカラー層を奴隷のように働かせる状態が続けば、それを見たホワイトカラー外国人は日本に魅力を感じなくなるでしょう」

髙橋氏は中・長期的な外国人の受け入れ戦略を描いている企業が少なく、人手不足企業にしても「上から必要だから何とかしろと丸投げされているだけの担当者がなんと多いことか」と嘆く。

「雇用不足対策として外国人の受け入れが避けられない以上、企業の健全な危機感の醸成と外国人をどのように受け入れていくかという議論は急務。外国人も日本人と同じ権利と義務を持つのは当然です。また、日本人の既得権益をどこまで守るのかというガイドラインの整理も重要です。今は日本人の足りない部分を外国人でカバーするという前提ですが、徐々に日本人と外国人を融和させるような文化を醸成するための法令などの整備も必要です。『日本人が住む日本』から『外国人と日本人が共生する日本』に導いていくことが政府の重要な役割だと思います」(髙橋氏)

政府は外国人の受け入れに対して、民間企業と一体となった徹底的な啓蒙活動と法制度などの仕組みの整備をすべきだと言う。

今回の入管法改正は人不足解消のための対症療法な制度にすぎない。外国人の定住も含めた根本的な受け入れ策が整備されなければ、制度の抜け穴から生じる副作用が、日本中を覆い尽くすことになりかねない。


溝上憲文:人事ジャーナリスト。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て独立。人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマに執筆。『非情の常時リストラ』で2013年度日本労働ペンクラブ賞受賞。主な著書に『隣りの成果主義』『超・学歴社会』『「いらない社員」はこう決まる』『マタニティハラスメント』『人事部はここを見ている!』『人事評価の裏ルール』など。

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