今はテレビを持つ世帯が支払うNHKの受信料。スマホやパソコンしか持たない人も支払わなければいけなくなるのか?
撮影:今村拓馬
テレビ、ましてNHKなんて全然見てない。若い世代を中心にそんな人が珍しくない今、「スマホを持っているだけでNHKの受信料がとられる」ことになったら?そもそも「公共放送のNHKが民放の経営を圧迫することがないよう改革が必要だ」ということで、受信料が値下げされることになったのでは?NHK受信料のあり方について、衆議院議員で前総務大臣政務官の小林史明氏と、上智大学文学部新聞学科教授の音好宏氏に聞く。
「みんな払うのが当たり前」になるのが大前提
衆議院議員で前総務大臣政務官の小林史明氏。
撮影:伊藤有
Business Insider Japan(以下、BI):「テレビがなくてもスマホやパソコンだけを持っている人からもNHK受信料をとる」、つまり事実上の「スマホ税」のようなものができるのでしょうか。
小林史明(以下、小林):これはまだ具体的な話ではなくて、議論が必要なところなんです。その議論をする上でも、NHK改革というのはとても重要です。
NHKは2019年度から、テレビ番組のネットでの常時同時配信を計画している。自力で広告収入などを稼ぐ民放とは違って、受信料制度に支えられたNHKが無制限に事業範囲を広げていくことには批判もある。総務省の有識者検討会が2018年7月、常時同時配信を認める判断を示したが、受信料引き下げや組織のガバナンス向上といった「改革」が容認の条件とされ、どう実現していくかがNHKにとっての課題となっている。
例えば、ドイツは税金と同じようにすべての国民から受信料を徴収しています。払っていない人が放送を見られたり、払っている人が「なぜ私だけが負担をしなきゃいけないんだ」という不公平感がない。
コンテンツをネットで見てもテレビで見ても、不公平感がありません。フェアであり、一つの理想的な形だと思います。
ただ、「テレビを持つ世帯が受信料を払う」という日本の今の制度をどのようにしていくにせよ、NHKが「国民から必要とされるメディア」という評価を受けることが大前提です。
そのうえで、「みんな払うのが当たり前だよね」ということになれば今の制度のままでもいいわけですし、あるいは「テレビを持っている人と持っていない人がいて、さらにネットで見られる人と見られない人がいる中で、今の受信料の仕組みでいいのか?」という議論も初めてできるわけです。
だから今、NHKの改革をしようと。ここに決着がつかない限り、その次のステップには進めない。そういう理解です。
公共放送は「人々をつなぐ装置」という側面も
上智大学文学部新聞学科教授の音好宏氏。
撮影:伊藤有
音好宏(以下、音):ドイツでは、「人々をつなぐ装置」としての公共放送の存在意義とそれを支える受信料制度が、憲法裁判所で確認されています。その延長線上で、公共放送が提供するコンテンツをネットで「みんなが見られる」ことにも意味があると。ドイツ国民の多くがそうした考えを了解しています。
日本では一部の新聞で「将来的には自宅にテレビがなく、スマホやパソコンしか持っていない人からも受信料をとるかもしれない」と報じられましたが、現時点ですぐにそうなるという話ではありません。
小林:ネットで好きなものが見られ、個人に合わせたサービスが提供されるのはすごくいいことです。でも、それが行き過ぎると、社会の分断が起こりやすくなると考えています。まさに今、それが起きているのがアメリカであったり、EU離脱の動きが起きているイギリスだと思っています。
放送の持つ「広くあまねく情報を届ける」機能は、社会の安定に必要な装置だと思います。
「受信料収入の総額に上限」がいちばんフェアだ
ネットで動画を見ることが当たり前になり、放送と通信の境目はなくなりつつある。
撮影:今村拓馬
BI:NHKは2018年11月、受信料を2020年度までに4.5%引き下げる方針を打ち出しました。これについてはどう見ていますか。
小林:今の職員数や働き方、BSのチャンネル数の枠やグループ会社の数が適正かなど、さまざまな観点を踏まえてNHKの「あるべきサイズ」が決まらないと、受信料の水準の話を論じることは難しい。
私としては、値下げの幅がどうこうといった話より、受信料収入の総額にキャップ(上限)をはめることが必要だと考えています。
撮影:伊藤有
受信料は、徴収率を上げていくと国民にとってはフェアになり、総収入も上がっていく仕組みです。したがって「キャップを決めて、支払う人が増えると1人あたりの支払額が下がっていく」というのが本来、いちばんフェアです。
音:ある週刊誌から「受信料はいくらだったらいいですか」と聞かれたんですが、非常に答えにくいです。その金額がどう決定されるかといったプロセスや、NHKの予算や決算の透明度を高めることなどの方がより大事だと思っています。
(構成・庄司将晃)