転職サイトに商社若手の登録が急増。なぜ彼らは“高給”を捨てるのか

商社

就活生の人気企業ランキングでも、常に上位に位置する総合商社ですら、若手の流出に悩むのは例外ではない(写真はイメージです)。

転職市場が活況となった2018年は、就活ではテッパンの人気企業とされてきた総合商社にも、異変が起きている。

グローバルにまたがる仕事、待遇やブランドの面からも、依然として入社希望者の多い商社だが、近年は、若手の転職希望者が増加。流出自体も増えていて、潜在転職希望者は相当数いるとみられる。高まる若手の転職熱の背景とは。

「これほど恵まれた環境はない」と商社マン

「最近30歳ぐらいの離職率が商社全体で非常に上がっている」

2018年2月に登壇した都内で開かれたイベントで、丸紅の國分文也社長は、若手の人材流出についてそう危機感を明かした。

「総合商社のとある上位企業でも、若手社員が入社5年で3割が辞めているというデータがあります」

人材サービスのコンサルタントも大手商社の若手が、それなりの規模で流出している実態を指摘する。

業界上位の総合商社ならば、30歳で1000万円超えも珍しくない業界で、一部の独立志向タイプをのぞき、早期の離職は珍しいのが一般的だった。

大手商社は年功序列で賃金が上がり、退職金が手厚いのも特徴。厚生労働省の調査でも、大企業ほど3年内離職率は低いというのが長年の傾向だ。

クチコミサイトのVorkersでも、クチコミ評価3.5以上がわずか1%という厳しい評価の世界で、三菱商事4.33、三井物産4.25、伊藤忠商事4.45と、ハイスコアを叩き出している。

実際のクチコミを見ても、待遇面を中心に社員の満足度は高いようだ。

「30歳1000万円、35歳1500万円、40歳1800万円。恵まれすぎている。この収入をもらえる企業は日系では伊藤忠商事、野村証券ぐらいであろう。外資系ならコンサル、金融ぐらいであろう。いずれにしても時給換算するとこれほど恵まれた環境はない」(営業、男性、三菱商事)

※出典:Vorkers

と言った声がざらにある。

しかし、異変はすでに起きている。

転職希望者、前年から4割増という数字

転職

転職を検討しているとみられる、転職エージェントへの登録者は、近年右肩上がりだ。

若手ハイキャリア向け転職サイト「AMBI」を運営するエン・ジャパンによると、11月の商社出身者の登録者数(転職希望者)は前年同月比4割超と、前年から大きく増加。AMBI全体でも登録者は前年同月比37%増と、転職志向は高まりを見せるが、全体平均を上回っている。

複数の総合商社の採用支援も行う、AMBI責任者の峯崎直哉さんは、伝統的な経営基盤をもつ商社ならではの「将来の不安」を指摘する。

「世の中のスピードの速さやIT系の新興企業の台頭で、能力さえあれば評価されるし、稼げる企業が増えています。営業力や伝統的な人脈がなくても、アイデアやきっかけをつかんで新しいビジネスが次々に生まれていく中で、古い体質の商社に、将来の不安を感じる若手が出てきているのでしょう」

商社出身者となると、転職市場での評価も上々だ。

「転職市場で期待されるのは、若手でもどこでも通用するビジネススキルが身についている、事業の数字が読めて何らかの専門知識をもっているという点。商社出身者はコンサルや金融出身者同様、期待されています」(AMBI責任者の峯崎さん)

バイリンガルなど高度人材の転職支援サービスを得意とする、ロバート・ウォルターズの担当者も「商社からの登録は増えています」と認める。

「ただ、実際には大手商社は高給のため、給与がネックとなって、結局は転職を決めないケースも多いです。待遇が下がってでも、転職が増えているのは大手金融機関からフィンテックですね」

一方、リクルートキャリアの担当者は「登録者も実際の転職者もどちらも数年前から右肩上がりの傾向です」と話す。

「もともと、商社は若いうちからビジネススキルを身につけたい、プロジェクトを一人で回して早く一人前になりたい志向の強い人が多い。ここに来て、転職市場が活性化し、経験年数よりも、能力や意欲で成長機会や裁量を用意する企業に、(商社出身の)成長意欲の高い求職者の関心が集まっている」(リクナビNEXT編集長の藤井薫さん)

実際、若手の起用で知られるベンチャー企業などに転職を決める実例が増えているという。

離職理由は「できるだけ早く成長したかった」

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「早く成長したい」「早く一人前になりたい」。かつてないほど、若手社員は急いでいる(写真はイメージです)。

実際に、商社を離れようとする若手は何を求めているのか。ハイキャリア転職のAMBIによると、多い理由は次のとおりだという。

  • 駐在の時間や場所を選べない
  • キャリアの変化のスピードが遅い
  • 激務
  • 社内の決定スピードが遅い
  • その先のキャリアの不透明さ

大企業ならではの、時間をかけた育成を“下積み期間が長い”と捉える声も根強い。

新卒で総合商社に入社、現在は急成長中のフィンテック企業で働く20代女性は、Business Insider Japanの取材にこう答えている。

「できるだけ早く成長したかった。30歳までに子どもを産みたいと考えると、意外と残り時間は少ないのに、同じ仕事を3年も繰り返していたら(想定までに)稼ぐ力がつかない」

「早期にマネジメントにチャレンジしたい」そう話すのは、はやり総合商社からベンチャー企業の新規事業企画担当に転職を決めた男性(26)だ。

「自分を試したい、より裁量のあるポジションでやりたいと考え、転職を決めた」

総合商社から大手メーカーの女性(28)は、ライフプランが最大の理由だ。

「働き方を変えたい。結婚や家庭をもつタイミングでワークライフバランスを大切にしたかった」

一方、商社側からはこんな声も。

「大手商社の20代は、いわゆるスタートアップ企業に狙い撃ちされている」(総合商社人事部門の担当者)

実際、エージェントの登録が増える一方で、元いた会社の同僚に声をかける『リファラル採用』も、新興のスタートアップ企業では特徴的だ。

商社出身者のもつ「人脈」も込みで、採用している実情もある。

目先の収入より欲しいもの

人気企業でも例外ではない若年層の転職志向は、現代の若手のキャリア観を象徴しているかもしれない。

ビズリーチが自社の20代の転職サイト「キャリトレ」の登録者(男性45%、女性55%)を対象にした調査によると、「企業名や企業ブランドよりも、どのようなスキル・経験が身に付くかを重視したい」と答える人は、全体の86.6%と圧倒的だ。同調査では、登録者に限らない一般的な20代でも66.5%と、過半数を大きく上回る。

「成長のスピードが遅い」「どこでも通用するスキルが身につかない」といったモヤモヤを抱えると、たとえ高待遇でブランド力のある商社であっても、転職を検討する人が少なくない実態を裏付けている。

ビズリーチキャリトレの部長、四方秀一さんは「企業ブランドよりスキル・経験志向という20代の傾向に加え、インターネットの普及による情報の流動化、スカウトやリファラルといったアクティブな転職サービスの増加も、20代の転職行動の活発化に影響しているといえるのでは」とみる。

入社から変わらない縦割りの担当制の見直しや、早期から海外赴任希望を叶える若手の登用、副業解禁の検討など、大手商社も動き出してはいる。

どこまで現状に危機感をもち、どれだけ早くに手を打てるか。企業姿勢が若手のモチベーションを大きく左右することが、商社に限った話ではないのは、明白だ。

(文・滝川麻衣子、写真・今村拓馬)

編集部より:「ビズリーチキャリトレ事業部長四方秀一さんは」とあるのは、正しくは「ビズリーチキャリトレの部長、四方秀一さんは」です。お詫びして訂正いたします。

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