長年ゴールドマン・サックスで働いてきた私が、ウォール街で生き残るためにオタクになったワケ

フィンテック企業

Jens Schlueter/Getty Images

  • このコラムの筆者、ジュンタ・ナカイ氏は長年ウォール街で働いてきた。つい最近まで、ゴールドマン・サックスでアジア株式セールス部門のトップを務めていた。
  • 今回、ナカイ氏は、株式のトレーディングやセールスのプロに向けたキャリア・アドバイスを書いてくれた。大手金融機関におけるプログラマーやクオンツ(高度な数学的手法を用いて分析する職種)の台頭にナーバスになっている人たちが対象だ。
  • 「トレーダーやセールス担当者として成功するためのスキルは変わりつつある」とナカイ氏は記した。「あなたの周りで進行している技術革新について学ぶ努力をすべき」。

テクノロジーは、ウォール街の民主化を推進する大きな力、そして経営層にセールス部門、トレーディング部門の見直しを迫っている。

自動化、電子化、デジタル化の進展は、既存の大手金融機関が活用してきた資本や規模が、もはやこれからは主要な差別化要因ではなくなることを意味する。その結果、テクノロジー部門は、コストセンターからフロントオフィスへと変貌を遂げ、今や競争優位をもたらす重要な源泉と見なされている。

自動化はセールスやトレーディングの領域に進出し始めている。ほんの数年前には不可能と思われていた領域だ。

例えば、ゴールドマン・サックスは、2万件の債権をアルゴリズムを使って値付けできるようになったと発表した。トレーダーは不要だ。セールス担当者やトレーダーは、これがどのような事態を招くのか戦々恐々としている。

ただし、ウォール街に押し寄せるテクノロジーの波は、盛んに報じられているものの、実際はまだそれほど広く導入されていない。確かに、優秀なストラテジストや開発者が「未来の金融機関」の創造に取り組んでいる。だがトレーディングフロアで働く人の中では少数派、古いグループと新興勢力の間には健全な緊張がある。

現実には、ほとんどのセールス担当者やトレーダーの現在のワークフローは、5年、10年、もしかすると20年前から変わっていない。ウォール街のあちらこちらで、エキサイティングなテクノロジーが作られていることは間違いない。だが、フロントオフィスで働くほとんどのプロフェッショナルには縁遠い話だ。

私はこうした状況を熟知している。私もその1人だった。

ローファーよりスニーカー

今、ウォール街のセールス担当者やトレーダーの間には不安感が広がっている。世の中の変化に取り残されているように感じているのだ。トレーディングフロアを見回すと、ローファーではなく、スニーカーを履いている人が増えてきた。電話セールスではなく、コードを書く人たちだ。

話術に長けた人とリスクを恐れない人の世界から、プログラマーやクオンツが動かす新しい企業への変化は、もはや避けられないようだ。ある大手金融機関のセールス担当者は「GEの電子レンジ部門で働いているような気分」と語った。

トレーディングフロアで働くベテラン・セールスマンとして、私も気がかりに感じていた。13年間、金融業界で働いてきた経験から、急速に変わりつつあるウォール街で現役であり続けるために必要なことについては漠然としたイメージがあった。しかし、実際に計画を立てることは難しかった。

自分自身で自分のキャリアとポジションを変えるために、何かしなければならないことは分かっていた。でも、どうやって?

1つ明確だったことは、新たに登場する数々のテクノロジーに詳しくなる必要があったこと。テクノロジーが未来の勝者と敗者を決定づける。金融用語で説明するなら、AIについてより学ぶことで、私は自分のキャリアの正味現在価値(net present value:NPV)を高める方法を見つける必要があった。

そこで私は、データサイエンスのオンライン講座を受け、仕事の後に図書館で勉強し、コーヒーブレイクを取りながらさまざまな人の見解を聞いた(もちろんノートにメモした)。

AIについて集中的に学んだ後、ついに私は考えを行動に移し、ウォール街へのAI導入にフォーカスしたフィンテック・スタートアップに転職した。この決断により、私は就職以来、唯一経験があった職種を離れ、テクノロジーの世界にどっぷりと身を投じた。

「破壊される側よりも、破壊する側の方が良い」と私は自分に言い聞かせた。

この1年間、私は、キャピタルマーケットにおけるデジタル・トランスフォーメーションというテーマを身をもって体験してきた。ウォール街のリーダーやテクノロジスト、そしてさまざまなイノベーション・ラボとともに仕事をするという幸運に恵まれた。

展望を失い、蚊帳の外に置かれ、希望を失っているセールス部門、トレーディング部門のプロフェッショナルに私の考えを共有したい。

ルーティーン作業はAIに

セールス部門とトレーディング部門で「伝統的」な仕事に就いている友人と元同僚に伝えたいことは、皆さんの仕事は今でも重要だということ。今後もその重要性は変わらない。AIの急激な普及によって、セールス部門とトレーディング部門で働いている人の重要性は高まることはあっても、低くなることはない。

未来の勝者は、単に巨額のテクノロジー予算を抱えた金融機関ではない。むしろ、現在抱えている人材を再教育し、記憶よりもデータを重視する組織に変え、変革への組織的な抵抗を乗り超えた企業が勝者となるだろう。

成功する企業は、こうした行動を積極的に推進し、古い人と新しい人の間の緊張を緩和できる企業。先見の明に優れた金融機関はこうしたことを理解し、新たな世界に対応した組織改革を実行している。

ジュンタ・ナカイ氏

フィンテック・スタートアップのSelerityに転職したジュンタ・ナカイ氏。

Selerity

現在、ウォール街におけるAIの主要用途はデジタルメモリーの作成にある。

データが正確に抽出・保存されれば、金融機関は自社のプロフェッショナルたちが蓄積してきた組織的な知識をデジタル化できる。

これを脅威と捉える人もいるだろう。だが、こうしたツールは我々が記憶や直感に頼ることなく、より高いレベルで仕事をすることをサポートしてくれる。

ある金融機関の幹部は、私にこう語った。

「これまでのトレーダーは記憶と根性に頼ってきた。もう、それだけでは不十分」

その通りだ。

AIは、トレーダーとセールス担当者の仕事の質を向上させるためのものであり、人に取って代わるものではない。(近)未来の金融機関は、アルゴリズムを使って、クライアントのために、これまで見逃されてきたチャンスを見つけ、トレーディングの相手を予測し、クライアントとの関係を定量化する。

ルーティーン業務をAIに任せることで、トレーダーとセールス担当者の生産性はより向上する(仕事での幸福度も上がる)。

体育会系はもういらない

1つ警告しておきたいことは、AIが普及することで仕事のやり方は変えざるを得ないということ。

トレーディングでは、マーケットの頃合いを見るのではなく、取引相手をより速く見つけることが重要になる。

セールスでは、クライアントを豪華なディナーで接待するのではなく、レスポンスタイムと約定の相関関係を分析したり、クライアントごとのヒット率を精査することが重要になる。

結果的には、トレーダーやセールス担当者として成功するために必要なスキルは変わりつつある。現在の仕事の範囲に囚われてはならないことは、肝に銘じて欲しい。自分の周りで進行している技術革新について学ぶ努力をして欲しい。

トレーディングフロアにいるストラテジストやデジタル戦略チームとコンタクトしよう。向こうも、あなたからの情報やあなたの専門知識を求めている。

そして何よりも重要なことは、2年後の自分の仕事の姿を思い描き、新しいスキルを身につけるために具体的に行動すること。

自分の直感に頼ってリスクを取る体育会系人材は時代遅れ。人を引きつける個性と多額の経費を使って契約を勝ち取るセールス担当者は時代遅れ

今、求められている人材は、クオンツ、ストラテジスト、プログラマー。好奇心を持って体験と顧客との関係を結び付けられる人、変化を積極的に受け入れられる人。

だが最も重要なことは、今、求められている人材は、過去のやり方を捨て、新しい方法を学び続ける、経験豊富なプロフェッショナルだということ。

新しいウォール街はオタクたちのもの。だが、その一員になるために遅すぎることはない。


筆者のジュンタ・ナカイ氏は、ウォール街へのAI導入に特化したフィンテック企業Selerityで事業開発部門のグローバル責任者を務めている。その前は、ゴールドマン・サックスで13年間働き、転職前にはニューヨークでアジア株式セールス部門のトップを務めていた。


[原文:I worked on the trading floor of Goldman Sachs for years. Here's why I became a nerd to survive on Wall Street.

(翻訳:長谷 睦/ガリレオ、編集:増田隆幸)

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