アイデア→発売まで最短1週間のコスメ企業「LUSH」。価格や商品名はアプリで確認

イギリス発の化粧品メーカー「LUSH(ラッシュ)」は2018年11月、東京・原宿に同社の看板商品である入浴剤「バスボム」だけを発売するコンセプトショップをオープンした。計89個のバスボムは、包装も商品情報も価格表示も一切ない。

開発者の直感を早く店頭に

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アプリをかざすと、お湯に溶けた動画が流れる。バスボムのコンセプトショップ・LUSH原宿店にて。

撮影:竹下郁子

ラッシュが独自に開発したアプリをダウンロードし商品にかざすと、商品名や価格、原材料、お湯に溶ける様子などが見られる仕組みだ。これまで商品名や価格は店頭のカードで表示し、使用感は店頭のシンクで実際に商品を使って試していたが、それらをすべてデジタルに切り替えた。

これはラッシュが2018年4月から始めた「Lush Labs(ラッシュラボ)」の取り組みの一環。

今回のコンセプトショップのために新たに開発したバスボム57種類は、担当者らがアイデアを思いついてから店頭に並ぶまでの期間は約3カ月だったという。ちなみに、コスメ業界では商品を開発したり新コンセプトショップをオープンするまでに18カ月かかる企業もあるそうだ。

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ジャック・コンスタンティンさん。

撮影:竹下郁子

ラッシュのデジタル部門を統括し、バスボムの商品開発も行うジャック・コンスタンティンさんは言う。

「ラッシュラボで大切にしているのは、開発者がインスピレーションを得てから商品が店頭に並ぶまでの時間をいかに短くするかです。過去にはシャワージェルを1週間で商品化したこともあるんですよ」

スピーディーな商品開発を可能にしているのは、原材料となる植物や果物、野菜などを生産者から直接購入するなど、サプライヤーと密接な関係を築いていることだ。同社は全ての商品が「エシカル(倫理的)」であることを目指しており、動物実験や環境破壊、児童労働などをしていないサプライヤーを見つけるために直接やり取りするようになったそうだが、それが商品開発にも良い成果として現れているのだという。

一方で、これまで同社の人気の理由でもあった店頭で商品を試す機会をなくすことに不安はないのか。

ビッグデータよりもSNSで巻き込む

LUSH

商品名も説明もないショーケースが、想像力をかき立てる。

撮影:竹下郁子

「これから大切にしたいのは、フレキシブルであることと、お客様をもっと巻き込むことです。ラボでやっているクイックな商品開発は完璧ではないかもしれない、だからこそお客様の声で進化させたい。こうした動きはデジタルの世界ではよく見かけますが、リテールではまだまだ遅れていると思います」(コンスタンティンさん)

アプリで商品情報を読み取ることは長年パッケージやごみを減らすことに取り組んできた同社の方針にも沿っているため、今後は他の店舗でも展開していきたいという。一方で商品そのものや、商品を店頭で試すシンクをなくしたことなど店舗戦略に関しては、SNSで「#LushLabs」で意見を募集したり、店での客の反応を見て変えていくという。

関連記事:「プラスチックやめたら」売り上げ3倍に──LUSHが「脱プラ」を進める理由

実はラッシュでは商品開発のためのマーケティング調査や広告をしていない。ラッシュジャパンのリテール・ブランドディレクター小林弥生さんは言う。

「ビッグデータから導き出した答えをもとに商品をつくってもそれが全ての人にフィットするわけじゃないですよね。でも、つくった側の人間は自分たちが正しいと思い込んでしまう。この行き違いがお客様のクレームや不満につながると思っています。だから早くトライして早くお客様の声を聞いて早く変化させたい。事前の調査や売り上げの動向よりも店頭のコミュニケーションやSNSを重視した商品開発、店舗展開をしていくつもりです」(小林さん)

LUSH

回転ずしをイメージした店内レイアウトも。買い物客も多国籍だ。

撮影:竹下郁子

日本では原宿店がその実験拠点になる。ラッシュは世界49の国と地域で約930店舗を展開。日本の売り上げは3位だ。しかし「お風呂文化」が根付いているにも関わらず、バスボムの売り上げは他国より低いという。この「伸びしろ」に目をつけたのだ。

こうしたコンセプトショップは、包装していない商品のみを販売する「Naked Shop(ネイキッドショップ)」を2018年6月にイタリア・ミラノ、同年10月にドイツ・ベルリンに出したのに続き3店舗目だ。

「ブランドとして伝えたい社会的なメッセージがたくさんあり、それを商品や店頭でのキャンペーンを通じて伝えるのが私たちの使命。でも、商品が増えるにつれ、それが伝わりづらくなっていることが悩みでもありました。だからトピックを絞った方が良いだろうと。ミラノの店は訪れるだけでいかに私たちが過剰包装に慣れているか気づけますし、店内は海洋プラスチック問題で会話が盛り上がっていると聞いています」(コンスタンティンさん)

そう、客の意見を柔軟に反映するところと、曲げられないポリシーが同居するのがラッシュの特徴だ。

チャリティ部門を統括するのは元社会活動家

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ヒラリー・ジョーンズさんはLUSH入社前は社会活動家だった。

撮影:竹下郁子

同社はこれまで難民、LGBT、原発などさまざまな署名キャンペーンを店頭で展開するほか、2007年からは消費税を除く売り上げの全額を寄付するボディクリーム「チャリティポット」を通じて、動物の権利や人権、環境問題などの社会課題に取り組む小規模団体への寄付・助成を行ってきた。

関連記事:コスメ会社LUSHがなぜ反原発キャンペーン?—— 客との接点は倫理観

2018年7月、トランプ米大統領の訪英に際し、その移民政策や差別的な言動に抗議してロンドンで「ベイビー・トランプ」の巨大バルーンを飛ばしたことが話題を集めたが、実は気球に乗っていたのはラッシュの共同創立者の1人だ。

ラッシュジャパンも、杉田水脈衆院議員がLGBTは「生産性がない」などと寄稿したことに対する自民党本部前での抗議活動をSNSで中継するなど、キャンペーン以外でも常にスタンスを明確にしている。

全ての商品がエシカル(倫理的)であることを前提にしているため、同社にCSR部門はない。こうしたチャリティ活動を統括しているのが、エシカル・ディレクターのヒラリー・ジョーンズさんだ。ジョーンズさんはラッシュ入社前は社会活動家だった。10代の頃からさまざまな団体に所属し、土地開発に反対してブルドーザーと自身を手錠でつないで止めたり、動物実験をする施設の前にテントをはって抗議したりしていたそうだ。

「今は現地で体を張るのではなく、店頭で訴えるようになったという感じですね。私たちがキャンペーンに選ぶのは、新しい問題やまだ可視化されていない問題、人々の大きな関心を引きづらいけど大切な問題です。そうした社会課題に対し、大きなNGOではなく小さな草の根団体を支援し、共に取り組んでいます」(ジョーンズさん)

炎上しても続けることが大事

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世界各国からLUSHのスタッフが集まるイベント会場に置かれていたボード。社会問題へのまなざしがよく分かる。

撮影:竹下郁子

もちろん批判を受けることも少なくない。SNSで「LUSH商品をボイコットしよう」と呼びかける人もいれば、店舗があるショッピングモールのオーナーから「キャンペーンをやめて欲しい」と言われたり、政府や警察から反論がきたこともあるそうだ。

「反動が起きたときこそ続けなければいけない。私たちのような企業でもダメージを感じるのに、小さな団体や一人で活動している人にとってはどれほどのことか。私たちのキャンペーンや支援は期間が決まっていることが多いですが、その問題に一生をかけて取り組んでいる人がいるんですから。同時に、チャリティやキャンペーン活動と売り上げとの関係を考えるべきではないとも思います。大事なのは信念を持ち続けることです」(ジョーンズさん)

2017〜18年に世界36カ国のミレニアルを対象にしたデロイトの調査では、企業が達成するべき課題として「利益を生む」が24%だったのに対し、「社会を良くする」が39%と上回った。ジョーンズさんもカンファレンスなどで若い世代の変化を感じることが増えているという。

「今の社会問題の多くは政治ではなくビジネスによって生まれたものです。だからやっぱりビジネスで解決しなければならない。そんな中で、大企業に就職するより、起業して自分の信念を組み込んだビジネスをやりたいと考えている若い世代が多いのは頼もしいですね。グローバル企業による富や情報の一極集中、環境破壊などを彼らの起業で崩したり立て直したりできるのではないかと思っています」

(文、撮影・竹下郁子、取材協力・ラッシュジャパン)

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