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【2019年IPO】大型なき90社超の1年か —— “失われた30年”終焉で始まるユニコーン上場ラッシュ

2018年、ソフトバンクが国内最大の株式上場を遂げ、フリマアプリのメルカリは、「ユニコーン元年」と呼ばれた一年を代表する、企業価値10億ドル超のベンチャー企業としてのデビューを果たした。東京五輪が目前に迫る2019年、アメリカの景気後退を懸念する声は高まるが、国内企業のIPO(新規株式公開)に対する熱は依然、弱まることはなさそうだ。

東京証券取引所

2018年1月4日、大発会を記念して電光掲示板の前に並ぶ和服の女性たち。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

2018年の上場企業数は前年と同数の90社。時価総額で6000億円を超え、2017年最大の新規上場企業の佐川急便に対して、2018年の注目銘柄は12月19日、東証1部に上場したソフトバンク。初値時価総額は7兆円を超え、孫正義氏率いるソフトバンクグループは、その子会社上場により約2兆6000億円の資金を調達し、今後、戦略的投資会社としての勢いを増していく。

2019年、国内の上場企業数は95社前後との見方が強い。数年間にわたりベンチャーキャピタルなどからスタートアップへのリスクマネーの流れが強まる日本で、株式上場を目論むベンチャー企業経営者の数は、依然として増加傾向にある。

株式市場の動向に大きな変化がなければ、90から100社前後のIPO社数を見込むと話すのは、あずさ監査法人・IPOサポート室長の鈴木智博氏。「IPO志向会社は多く、2019年に上場可能性のある候補企業は300社を超えると言われる」と述べる。

【過去5年間の上場企業数】

2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
上場企業数 77 92 83 90 90
東証1部 10 8 8 11 7
東証2部 10 9 5 8 5
マザーズ 44 61 54 49 63
ジャスダック 11 11 14 19 14
アンビシャス 1 2 1
その他 2 2 2 1

(あずさ監査法人の報告書を基にBusiness Insider Japanが作成)

アメリカの上場ラッシュ

ニューヨーク証券取引所

ダウ工業株平均が2万5000ドルを突破した1年前の2018年1月4日、ニューヨーク証券取引所ではトレーダーたちがその喜びをあらわにした。

REUTERS/Lucas Jackson

年間7兆円もの資金がスタートアップ企業へ注がれるアメリカでは2019年、超大型の上場ラッシュに期待が寄せられている。ライドシェアのUber(ウーバー)とLyft(リフト)、ビジネスチャットのSlack(スラック)、写真投稿サイトのPinterest(ピンタレスト)などは、年内の株式上場を計画していると報じられた。

ピンタレストは4月のデビューを計画しており、上場時の時価総額は120億ドル(約1兆3000億円)を超える見込み。ウーバーとリフトは共に2018年12月、米証券取引委員会(SEC)に上場に必要な書類を提出。いずれもウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じている。ウーバーに関しては、上場時の時価総額が1200億ドル(約13兆2000億円)に達する可能性があるという。

日本でも利用する企業が増えてきたビジネスチャットのスラックは、米投資銀行のゴールドマン・サックスを引き受け証券会社として起用し、2019年の上場を計画していると、ロイターが関係者の話として報じた。他にも食料品の配達サービスを運営するInstacart(インスタカート)の上場を期待する声も高まっている。同社は2018年に6億ドル(約660億円)におよぶ調達ラウンドを実施し、企業価値を76億ドル(約8400億円)に拡大している。

日本の大型上場の可能性

東京の地下鉄

市場から聞こえては消え、また聞こえては消えた東京メトロの株式上場。

REUTERS/Yuya Shino

一方、日本で超大型上場の可能性はあるのか?

市場関係者たちの話を聞くと、「超大型なき、90社超えの上場多き1年になりそうだ」との声が聞かれる。

数年にわたって市場で聞こえては消え、また聞こえては消えてきた東京メトロ(東京地下鉄)の上場計画。政府が53.4%、東京都が46.6%を保有する東京メトロは、年間4000億円を超える売り上げを計上し、市場ではここ数年に亘ってその民営化に伴う大型上場が期待されてきた。関係者の多くは、「東京五輪前はない」とする見方が強い。

年間7兆円の投資規模を誇るアメリカや約2兆円の中国に比べれると、日本のベンチャーキャピタル(VC)による年間投資額は、約2000億円と桁違いに小さい。コーポレート・ベンチャーキャピタルからのリスクマネーを含めても4000億円弱。しかし、ここ数年、ベンチャー企業への資金の流れは強まり続けてきた。

「有望なベンチャーであれば、VCからの資金調達を受けやすくなってきた。慌てて無理な上場をせずに、調達した資金で規模の拡大を優先する企業が増えてきている」と話すのは、EY新日本監査法人・企業成長サポートセンター長の鈴木真一郎氏。「一度の調達資金も大型化してきている。2020年以降、(企業価値)1000億円クラスのIPOがいくつか見られるのではないだろうか」と加える。

20社のユニコーンの群れ

J-Startup

J-StartupのHPより

この期待をさらに高めるのが、2023年までに20社のユニコーンを創り出そうと、2018年6月に閣議決定された政府の成長戦略「未来投資戦略2018」と、その実現に向けた官民イニシアティブの「J-Startupプロジェクト」だ。グローバルに事業拡大を可能にして、新しい価値を作ることができる企業を選び、政府や民間の支援を集中的に促すことが、このプロジェクトの狙いだ。

J-Startupは第一弾として、92社の企業を選定している。IoT分野で活用できる深層学習(ディープラーニング)を研究・開発するPreferred Networksや、自動運転のZMP、新世代のバイオ素材を作るSpiber、快眠を得るための鼻腔挿入デバイスなどを開発したセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ、小型人工衛星のアクセルスペース、産業用ロボットに「知能」を与えるMUJIN、転職・求人サービスをコアに事業の多様化を進めるビズリーチなどが92社に含まれた。

市場では、92社に加えて、名刺管理のSansanや、マイクロプラスチックの海洋汚染問題を背景に新素材「LIMEX」を開発するTBM、クラウド会計のfreee、eコマースプラットフォームを運営するBASEの上場を期待する声も聞かれる。

言い尽くされてきたが、バブル経済崩壊後に始まった日本の「失われた20年」、または「失われた30年」の間、アメリカではFAANG(Facebook、Amazon、Apple、Netflix、Google)がその勢いを強めてグローバル市場を席巻してきた。日本で、ユニコーン元年と呼ばれた2018年が終わり、「メルカリに次ぐユニコーンの群れが世界を駈けぬけていく」といった、願いに近い憶測が市場から聞こえてきた。

(文・佐藤茂)

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