映画産業を飲み込むネットフリックス、ハリポタ監督が「鞍替え」した理由

クリス・コロンバス氏

『ハリー・ポッター』『ホーム・アローン』などを監督したクリス・コロンバス氏。

提供:Netflix

ハリウッドで名の知られた監督や製作会社の“ネットフリックス(Netflix)移籍”があとを絶たない。『ハリー・ポッター』や『ホーム・アローン』の監督として知られるクリス・コロンバス氏も、その一人だ。

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2018年12月5日、コロンバス氏が設立した製作会社、1492 Picturesとネットフリックスはファーストルック契約を締結したと発表した。今回の契約により、ネットフリックスは同氏とパートナーがプロデュースする全ての長編映画の企画のファーストルックを獲得し、実質的な優先交渉権を獲得した。

クリエイターの目に、今のハリウッドはどう映るのか?11月30日、ネットフリックス・オリジナル作品『クリスマス・クロニクル』のPRを兼ねて来日した同氏に、Business Insider Japanは単独インタビューを行った。

映画業界は「恐怖」に動かされている

アベンジャーズ

2018年に公開された映画のうち、興行収入ランキングの上位を「マーベル」シリーズ原作の映画が占める。

Faiz Zaki / Shutterstock

ネットフリックスと組むことのメリットはどこにあるのか?と問うと「(ネットフリックスは)オリジナルコンテンツをつくれる土壌があるからだ」と同氏はストレートに語る。

「今ほとんどのスタジオは、巨額の予算をかけてオリジナルのコンテンツをつくることができなくなっている。

今、彼らがしていることは(ヒットが確約された、アメリカのコミック出版社の)マーベルの映画や、ハリー・ポッターの映画の続編をつくることだ。まあ僕にもその責任があるんだけど(笑)」。

コロンバス氏は冗談めかして言うが、データを見てみれば、その言葉の意味がわかる。

2018年に公開されたアメリカ映画の興行収入ランキングによると、トップ10のうち5作品がマーベル映画。『ミニオン』シリーズで知られるイルミネーションが手がける3DCGアニメ『グリンチ』を除き、すべてが有名タイトルの続編だ。

『ホーム・アローン』を生み出した巨匠は、こうした傾向を一歩引いた立場から見つめる。

「『SAW』の続編やディズニー映画のリメイクといった、ハリウッドの流行りに乗りたくはないんだ。もちろん、それらが悪い作品だという意味ではなく。

映画業界は『恐怖』によって動かされている。ヘルシーな意味での責任を持つことは必要だが、(売れるかどうかという)恐怖を抱きながらあらゆる作品を作ることは、アーティストにとっては死のはじまり(Kiss to the death)だ」

ネトフリは“映画体験”まで飲み込むか

ネトフリ本社

ネットフリックスのコンテンツの投資額はすでに大手スタジオやテレビ局を上回っている。

撮影:今村拓馬

The Economistの報道によると、ネットフリックスは2018年に約120億ドルから130億ドル(1兆4000億円から1兆5000億円)をコンテンツに投資しており、すでにあらゆる映画製作会社のコンテンツの投資額を超えた規模にまで成長している。

さらに同報道によると、2018年に公開される長編映画の本数は83本に登るといい、これはワーナー・ブラザースの約4倍の数字だ。

豊富な資金源をもとに良質なオリジナルコンテンツ製作の現場を抑え、ネットフリックスは「映画と同じ視聴体験」の創出にも乗り出している。

クリス・コロンバス氏

ソニーとの共同開発による特別機能「Netflix 画質モード」に関する説明会に登壇した、クリス・コロンバス氏。

撮影:西山里緒

2018年、ネットフリックスは、ソニーのテレビ、4KブラビアのMASTER Seriesに搭載される新機能「Netflix 画質モード」をソニーと共同開発したと発表した。これにより「制作者の意図通りの」色や画質、コントラスト比などで作品が見られるようになるという。

ネットフリックスがテレビの映像品質に関して、メーカーと提携を組んだのは今回が初。

コロンバス氏は、取材前に行われたイベントで同機能を「15ドルを払って映画館に行くよりはるかに良い体験ができると思う」と絶賛した。現在は4Kブラビアの特定の機種にしかつけられていないが、今後は他のデバイスでも実現していく予定だという。

“スター不在”のハリウッド映画の未来は?

fantastic-beast

「『ハリー・ポッター』のような映画は映画館で上映され続ける」のコロンバス氏の言葉通り、2018年には『ファンタスティック・ビースト』の続編も公開されている。

参照:『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』公式サイト

家のテレビやスマホのスクリーン上で見られる作品ではなく、映画館で上映される作品こそが、“映画”なのだ —— その常識すらも、ネットフリックスは打ち砕こうとしているかのようだ。

しかし幼い頃、友人の親に連れられて、ドキドキしながら『ハリー・ポッターと賢者の石』を初めて映画館で見た、鮮やかな夜の思い出を持つ筆者にとって、映画館に出かけるという“体験”がなくなってしまうことに、かすかな寂しさを感じないこともない。

作品を作った本人に、その疑問をぶつけてみると、同氏は「『ハリー・ポッター』のような映画はこれからも作り続けられて行くと思うよ」と述べ、笑いながらこう続けた。

「スティーブン・スピルバーグやトム・ハンクス、メリル・ストリープといった人たちが関わる映画は作られ、人々は映画館に行き、反響もあると思うけれど、この傾向は10年前、15年前から変わっていないんだ。

映画業界には、かつてウィル・スミスがそうしたように、業界全体を変えてしまうようなスターがいない。そのウィル・スミスもネットフリックスに来て、それこそ『映画の歴史』を変えてしまったし(笑)。

製作会社が今恐れているのは、誰も知らないような原作やキャストで作品を作ることで、今後彼らがこれ以上、恐れなくなる(less fearful)とは考えにくい。

それに、テレビの大きさが映画館と同じにまでなるかはわからないけれど、その方向に向かっていることは確かだ。(クリエイターの“ネットフリックス・シフト”の)流れは止められないと思う」

(文・西山里緒)

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