神奈川県藤沢市の江ノ島灯台。1951年に建てられた日本初の民間灯台。日本沿岸の海面上昇は全地球平均並みとの予測だが……。(写真は本文と直接関係していません)
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鎌倉に住む記者の近所では最近、波打ち際がずいぶん近くなったと話題だ。見た目にもはっきり分かるほど、岸壁やテトラポッドが海面下に沈んだ地区もある。
2018年に何度かやってきた猛烈な台風は、湘南地域の沿岸に大きな高波被害をもたらしたが、それと関連して海底に何か変化があったのかもしれない、などと住民はウワサしている。
ただ、海面上昇と言えば疑いたくなるのは、やはり地球温暖化の影響だ。テレビの報道番組は時々、巨大な氷山に亀裂が入り、海面下にその一部が崩れ落ちる様子を報じる。太平洋の島国では、平常時でも家屋などへの浸水が相次いでいるとのレポートもある。地球温暖化は間違いなく進んでいる。
過去25年間の衛星データをもとにNASAが行った分析によると、2100年に世界の海面は26インチ(約65センチ)上昇するという。
NASA's Goddard Space Flight Center/Kathryn Mersmann
実際、アメリカ航空宇宙局(NASA)は最新の研究成果として、20年前(1990年代)の年2.5ミリに対して現在は年3.4ミリと、地球温暖化による海面上昇が加速しており、このままの勢いで進めば2100年には、世界の海面が今より65センチ程度上昇するとの予測を明らかにしている。
全米53カ所の歴史ある灯台に危機迫る
そんな折、AP通信(2018年11月22日付)が不気味なニュースを報じた。
「海面上昇により歴史的価値を持つ灯台が危機に」
アメリカをはじめ世界各国の沿岸部に立つ灯台が、海面上昇とそれがもたらす侵食、高波などで倒壊の危機にさらされているというのだ。
一例として、ニュージャージー州のデラウェア湾を200年以上照らし続けてきたイーストポイント灯台が、台風時の高波にさらされ続け、倒壊の可能性があることを記事は伝えている。同灯台からデラウェア湾までの距離は、1940年には160ヤード(146メートル)ほどあったが、現在は約40ヤード(37メートル)まで狭まっているという。
実は、米専門誌ライトハウス・ダイジェストによると、こうした危機に瀕する灯台は、アメリカ国内だけで53カ所にものぼるという。建設時は陸地だったが、すでに水没した灯台も多い。それぞれどんな場所にあるのか。一部を画像で紹介しておこう(灯台名のカッコ内は建設年)。
カリスフォート・リーフ灯台(1852年)、フロリダ州
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モリス・アイランド灯台(1876年)、カリフォルニア州
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ピジョン・ポイント灯台(1872年)、カリフォルニア州
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プエルト・フェロ灯台(1896年)、自治領プエルトリコ
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ソンブレロ・キー灯台(1858年)、フロリダ州
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カウホラ・ポイント灯台(1917年)、ハワイ州
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ファラロン諸島灯台(1855年)、カリフォルニア州
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イースト・ポイント灯台(1849年)、ニュージャージー州
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ティラムック・ヘッド灯台(1881年)、オレゴン州
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ケープ・ハッテラス灯台(1870年、内陸側に移設)、ノースカロライナ州
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ワウゴーシャンス灯台(1851年)、ミシガン州
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オーフォード・ネス灯台(1792年)、イギリスにも危機が
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日本でも離島には海面上昇の影響が
日本の灯台は大丈夫なのか。
最近の研究成果によると、日本の東方沖では21世紀を通じて全地球の平均海面上昇より10センチ以上大きな上昇が起きるとみられているが、日本沿岸については、北太平洋方面から千島列島沿いに日本東岸を南下してくる「沿岸ケルビン波」が一種の防波堤になり、海面上昇は地球平均並みで進むという(北海道大学・見延庄士郎教授の分析)。
北海道・稚内市にあるノシャップ岬の灯台。21世紀中、日本沿岸の海面上昇は全地球平均程度との分析がある。
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ただし、伊豆・小笠原諸島など離島では、温暖化の影響による海面上昇の影響が強く出る可能性もある。
ポーランドでは12月3日から「国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)」が行われている。島国からは「生活が脅かされている」「被害を減らす緊急の対策が必要だ」との声が出ている(共同通信2018年12月12日付)ようだ。
アメリカ沿岸部の現実を知ると、島国ばかりでなく、全地球規模の「本気」が問われる危機が近づいていることが実感される。
(文・川村力)