中国、インド、シンガポールなどアジア太平洋地域の9カ国で、最も仕事に対する「自信がない」のは日本人——。
世界で5億9000万人以上の会員を持つビジネス専用のSNS「LinkedIn(リンクトイン)」の日本法人、リンクトイン・ジャパンの調査から見えてきたのは、自己肯定感が低く失敗を恐れる日本人の姿だ。
自信がないからスキル求める
出典:「仕事で実現したい機会に対する意識調査」リンクトイン・ジャパン
リンクトイン・ジャパンが「仕事で実現したい機会に対する意識調査」の結果を公表した。同調査は2018年9月から10月にかけて、日本、オーストラリア、中国、香港、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポールの9カ国に住む18〜60歳の都市部に住むビジネスパーソン1万1000人を対象に、インターネット上でアンケートを行ったもの。
元ヤフー執行役員でCMO(チーフモバイルオフィサー)から、リンクトイン・ジャパン代表に就任して1年が経つ村上臣さんは言う。
「仕事における『成功』の意味合いが変わってきたと感じることが増えたので、それをもっと明らかにしたいというのが今回の調査のきっかけです。中でもAPAC(アジア太平洋地域)は世界でもGDPの伸びが速く、すでにマーケットが成熟した国と発展の最中にある国とで意識にどんな差があるのか知りたかった」(村上さん)
関連記事:LinkedInでLinkedIn日本代表に転職——元ヤフーCMO村上臣「今の僕は第二新卒」
リンクトイン・ジャパン代表の村上臣さん。
撮影:竹下郁子
「仕事の機会を得て、それを実現していく自信があるか」という質問では、急速に経済成長が進むインドネシアとインドがそれぞれ1位と2位だった。
最も低かったのが日本だ。年齢ごとに見ると、最も自信が低いのは50~60歳と30歳~39歳(23ポイント)、次いで40~49歳(28ポイント)。すべての世代の中で最も自信が高かったのは18~29歳(31ポイント)だった。
また日本の特徴としては性別による差だ。男性は33ポイントだったのに対し女性は20ポイントと低く、調査対象国の中で男女間の差が最も大きい結果になった。
村上さんは日本人のこうした自信の無さは「想定内」のことだと話す。
一方で、日本人が最も実現したいのは「新しいスキルを学ぶ」(20%)ことだ。
「楽しみながら良い仕事をするには、もっと自己肯定感を高める必要があると思います。スキルへの欲求は自信をつけたいという気持ちの現れではないでしょうか。そのためにリンクトインとして何ができるか考えないと」(村上さん)
同社がいま力を入れているのが、村上さんが「仕事版のネットフリックス」だという「LinkedInラーニング」だ。語学や効果的な1on1の方法、動画編集ソフトの使い方からプログラミングなど4500コース以上の講座をオンラインで学べる。職種や肩書きなどLinkedInのプロフィール情報を元にレコメンドしているほか、企業の社員研修や大学の授業など法人利用も広がっているそうだ。
成功のフィルターバブルにビビらないで
起業したいと考える日本人はいまだ7%にとどまる。
出典:「仕事で実現したい機会に対する意識調査」リンクトイン・ジャパン
村上さんが驚いたのは、将来、仕事で実現したいこととして、ワークライフバランスやスキルをしのぎ、「生活における選択肢を持つ」が約4割と最も多かったことだ。
これまで会社の辞令を受け入れさえすれば出世できた時代が長く続いてきたが、右肩上がりに経済成長する時代が終わったことや副業解禁の動きもあり、自分の意思でキャリアを選ぶ動きが色濃く出てきたと見ている。
一方で、起業したいと考える日本人はいまだ7%にとどまるなどまだまだ保守的な面も。
転職、社内での出世、自身のやりがいなど、日本で実現したい仕事の機会を阻む要因として「個人の財務状況」(26%)に次いで多かったのは「失敗に対する恐れ」(24%)だった。
「私がビジネスカンファレンスなどでヤフー時代も含めてこれまで失敗した話をすると、驚かれることが多いんです。失敗談があまりメディアに出てこず、成功ストーリーのフィルターバブル状態になり、挑戦することをためらう人が多いと感じています。ゼロイチではなく自分が許容できるリスクの幅を増やすことで、失敗を恐れないで欲しいです」(村上さん)
(文・竹下郁子)