“作り手見える電気”売るベンチャーとZOZO・ブランドがコラボできた理由

“顔の見える電気”を販売するソーシャル・エネルギー・カンパニーの「みんな電力」が11月、「アンダーカバー(UNDERCOVER)」と「ノンネイティブ(NONNATIVE)」「バル(BAL)」という日本を代表するアパレルブランドとのコラボを発表し、話題となった。

3ブランドが今回のために特別にデザインしたTシャツを、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」限定で12月25日まで予約を受け付け、発売するという取り組みだが、このコラボが生まれた背景には、単なる“キャンペーン”ではない大石英司・みんな電力代表(49)の思想が存在する。

大石英司さん。

“顔の見える電気”を販売するソーシャル・エネルギー・カンパニー「みんな電力」の代表、大石英司さん。

撮影:小田駿一

「電気は誰だって作れるんじゃないか」

「あの女の子が作った電気なら200円払ってもええ」

2007年頃、地下鉄有楽町線の車内で携帯の充電が切れそうになった大石さんは、目の前にいる女性がソーラー発電のついた充電器を使っている様子を見て、そう感じた。

「今自分が手がけている電子出版も電気がないと使えない。僕らは電気を使うことばかりに気をとられているが、電気は誰だって作れるじゃないか。大人も子どももみんなが電気を作って売れば、日本が元気になるかもしれない」

これが起業の原点だったと振り返る。

当時大石さんは凸版印刷で電子出版事業Bitwayなどの新規事業創出を担当しており、次の事業アイデアにしようと考えていた。

大石さんの実家は大阪・東大阪市にある町工場だ。父親は中小企業ならではの苦労から「起業なんかするもんじゃない」と常々口にしていたというが、思いついた電力事業について相談をしたところ、「そろそろ起業してもええかもな」と、珍しい返答がきた。それが、その後脳梗塞で倒れた父親と交わした、最後の会話になったという。

「電力事業なら東大阪の町工場を元気にすることだってできるし、今まで関わってきた全ての人に影響を与えられる。これは一生を捧げる価値のある事業だ」と、独立・起業を決めた。2011年、東日本大震災が起こる直前の決意だった。

震災後の電力への意識変化が後押し

事故から13日後の福島第一原発の様子。

東日本大震災によって起きた福島第1原発事故。この事故により原発だけでなく、電力そのものへの関心も高まった。

REUTERS / Air Photo Service

未曾有の災害による、想像を超えた東京電力福島第1原発の事故、そしてその影響による電力不足を目の当たりにし、誰もが電気を生み出す時代は近い、と大石さんは確信する。

当時はまだ電力自由化も決まっていなかったため、地下鉄での原体験をヒントに「手のひら発電器」を製造、販売した。この頃から“ギャルだって電気を作れる”というキャンペーンを打ち出すなど、今に通じる“生産者の見える化”に注力していた。

結果として500台程度を生産・完売したが、なんと定価3900円に対して、原価が5000円。全くの赤字事業だった。冷静に考えるとありえないことだが、「自分で作った電気を自分で使える。最終的には貧困問題の解決なんかにもつながると思い、とにかく突っ走っていた」。笑顔で振り返るほど、当時は迷いがなかった。

しかし、世の中は少しずつ、大石さんの思想に同調し始めた。震災後の電力に対する意識の変容に加えて、2012年7月には再生可能エネルギーの普及を目的とするFIT制度(固定価格買取制度)がスタート。

そんな流れの中で同社に興味を示した世田谷区の支援もあって、工場の屋根へのソーラー発電機設置が増加したり、SMBCベンチャーキャピタルの若い担当者が「僕も、ももクロが作る電気なら買いたい」と理解を示し、5000万円という大型の出資が決まるなど、少しずつ事業は拡大した。

2016年4月にはついに電力が自由化。新規参入の電力会社とも電気の契約ができる体制が整い、ようやく大石さんが描いていた「あの子が作った電気を送電線を使って販売できる」土台が整ったのだ。

“生産者の顔が見える電気”という仕組み

大石英司さん

“生産者の見える化”を実現している会社は世界中見渡してもほとんどないという。

撮影:小田駿一

みんな電力のメーン事業は、国内の多種多様な生産者から買い取った電気を“顔の見える形”で販売すること。現在は東北電力と東京電力、中部電力、関西電力、九州電力エリアに供給が可能。扱う電気に占めるFIT電気(太陽光や風力、水力、バイオマスなどの電気)比率は国内トップクラスだ。最初は5〜6カ所しかなかった生産者も今では約200社まで増加した。

しかし、電力供給の仕組み上、生産者と小売業者(みんな電力)の間には送電網を管理する電力会社などの地域事業者が存在するため、生産者から買い取る電気も全てミックスされた状態で小売業者に届いている。つまり、生産者が作った電気を純粋に分類して届けることはできない。

そこで大石さんが考えたのが“応援ポイント”だった。サイト上に生産者を明示し、消費者が「この人から電気を買いたい」と思った相手に応援ポイントをつける。ポイントが貯まった生産者は応援してくれた人たちを地域に招いたり、特産品を送ることでその恩返しをしたりする。

例えば、一定期間利用するごとにアンテナショップの商品券をくれる長野県企業局の水力発電所や地域の農産物を送ってくれる千葉県の市民発電「わたしの電気」発電所、電力自由化のテーマソング入りCDをくれる東京のドレミファSOLAR発電所など、個性派ぞろい。

電力の需給とは別の関係で生産者と消費者を結びつけ、「私はあの人の電力を使っている」という意識付けを可能にしたのだ。実際にこうした“生産者の見える化”を実現している会社は世界中見渡してもほとんどないという。

ブロックチェーン活用で電気の流れを記録

ソーラー発電式の「手のひら発電器」

起業当時に発売したソーラー発電式の「手のひら発電器」。

提供:みんな電力

今では生産者ごとの電気の生産量を30分ごとに管理をし、100%をみんな電力が買い取っている。直近ではブロックチェーンを活用してこの電気の流れを記録・証明するシステムの開発に成功。すでに発電事業者4社と需要4社による先行利用試験を経て、「電力トレーサビリティシステム」の商用化を開始した。

特に、事業運営を100%再生可能エネルギーで調達することを目指す「RE100(Renewable Energy 100%)」への賛同が高まる中で、「電力トレーサビリティシステム」に興味を示す法人は急増しており、すでにビームスや資本提携を結ぶ丸井グループなどが同社との契約を公表している。

「電力自由化後は価格を打ち出す同業他社が多い中、われわれのように電気にこだわりを持ち、“生産者の見える化”を標榜する企業は少なく、独自性を保つことができた」

「そもそも僕は『あの女の子から電気を買いたい』という不純な動機から事業をスタートした。電力自由化をきっかけに事業を始めた競合とはそもそも視点が違う。ブロックチェーンだけでなく、需給調整のためのクラウドシステムなど、IT投資にも注力してきた。だから、今後の策も異なるものになるだろうし、独自性は維持されるだろう」

「電気にこだわらないのはおかしい」と共感

zozotownのサイト上に表示されているアパレルとのコラボTシャツ

zozotownのサイト上に表示されているアパレルブランドとのコラボTシャツ。

今回のアパレルブランドとの協業は、クリエイターたちがこうした思想に共感してくれた結果、だという。構想から含めると、始まったのは2年ほど前から。大石さんはこう話す。

「例えば、エコカーに乗ることで自分の思想を自慢できるが、目に見えない電気をいくら選んでも自慢できない。これを可視化する手段を探した結果だった。デザイナーの方々も『ファッションにはこだわるのに、電気にこだわらないのはおかしい。選べること自体をもっと知ってもらうべきだ』という考えに共感してくれた。今回のコラボ商品はみんな電力への契約に関わらず購入できるわけで、メッセージ発信こそが狙いだった」

2019年には、固定価格買取制度の買取期間10年を迎える年で、多くの太陽光発電の余剰電力の買取期間が終了する。大石さんは、こう説明する。

「販売できなくなるなら、なおさら自分が知っている人に電気を使ってもらいたいと思うだろう。実家で発電した余剰電気を上京した子どもに送るような時代はもうすぐそこだ」

生産者の顔が見える野菜は今やスーパーでも当たり前に販売されている。「どうせ買うならあの人から買いたい」というみんな電力の思想は、大量生産・大量廃棄にようやく異を唱え始めたアパレル界をはじめ、小売業界全体でスタンダードなりつつある。

これまで透明だった電気というインフラまでもが、生産者の顔が見える時代になってきた。これは、大量生産による効率化に対して違和感を覚えるミレニアル世代にとっても、親和性の高いビジネスになる可能性はある。

角田貴広:1991年、大阪生まれ。東京大学医学部健康総合科学科卒業同大学院医学部医学系研究科中退。ファッション業界紙「WWDジャパン」でのウェブメディア運営やプランニング、編集・記者を経て、現在フリーランスに。ウェブメディアの取材・執筆をメーンに、IT企業のコミュニティプラットフォーム運営やソーシャルホテル事業など、メディア以外の編集に関わる。取材対象はファッションビジネス、EC、テック、ホテル、ミレニアルなど。

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