迫る「定年レス時代」は若手とバブル世代にとってハッピー?

勤め人たち。

「定年がない時代」には、一直線の階段を上り、下っていくようなキャリアは望みにくくなる。

撮影:今村拓馬

今や「人生100年」。平均寿命が延びる一方、年金や医療といった公的サービスは財政難による切り下げが避けられず、「老後は仕事せずのんびり」という生き方はますます難しくなる。間近に迫る「定年がない時代」。あなたにとって幸せなのだろうか?

「1社に人生ゆだねる方がハイリスク」

岸本輝樹さん

メイテックの技術者として今はベンチャー企業に派遣されている岸本輝樹さん。

撮影:庄司将晃

「定年まで12年。逃げ切れる、と思っていたのに……。甘かった」

大手事務機メーカーの首都圏の事業所で技術者として働いていた岸本輝樹さん(48)は2018年の年明け早々、勤務先の事業再編に伴う希望退職募集といったリストラ策が発表された時、こう痛感した。

大学院で光工学の修士号を取得後、勤めていた大手電機メーカーの所属部署が大手事務機メーカーに買収され、2003年にそのまま転籍した。

「今度こそ、ここで定年まで勤めるのだろう」

当たり前のようにそう考え、業務用大型プリンターの開発・設計に打ち込んできた。

そこへ寝耳に水のリストラ策発表。岸本さんには専業主婦の妻と、5歳と3歳の子どもがいる。会社に残る選択肢もあったが、すぐに希望退職への応募を決断した。

「自分が60歳になっても子どもは高校生。技術者としてできるだけ長く働けるスキルを身につけるには、今動くしかない」

このところ開発費は絞られ、新しく図面を引いたのに試作品が作れなかったり、新しいテーマに取り組むことが難しくなったりしていた。このまま残っても、自分の価値は下がっていくだけだ——。

技術者派遣大手のメイテックに2018年8月、正社員として採用された。今は「画期的な家電製品」の開発を目指すベンチャー企業に派遣され、製品設計を担当する。

これまでの経験が活かせる一方、「今の仕事の半分くらいは新しいことへの挑戦」(岸本さん)だ。今後、ニーズが高いスキルをさまざまな派遣先で身につけていければ、年齢と関係なく昇給も期待できる。

「一つの会社に人生をゆだねる方がハイリスク」

今はそう思う。

年功制にとどめを刺す「定年消滅」

街を歩くお年寄り。

今後、年金や医療といった公的サービスが細れば、働ける限り働かざるを得ない人は増えていく。

撮影:今村拓馬

正社員の年功制や新卒一括採用などを柱とする「日本型雇用」。若いころは賃金を抑える代わりに、子どもの教育や自宅の購入で物入りな中高年になると賃金が増え、定年時にはまとまった退職金ももらえる。

一つの会社に長くいるほどトクするこの仕組みによって、勤務地も仕事も選べない代わりに正社員は「生涯の安定」が保証され、企業も使い勝手の良い人材を囲い込めた。

ただ、日本では正社員の解雇はそう簡単ではなく、いつまでも居座るシニア社員が出てきかねない。だから、ある年齢で一律に社員のクビを切る定年制がセットになっている。

そんな日本型雇用が崩れ始めた、と言われて久しい。

バブル崩壊を境に経済が右肩上がりだった時代が完全に終わり、正社員のリストラは珍しくなくなり、非正規の働き手が大きく増え、家族のかたちも多様化したことが背景にある。

それでも老舗の大企業を中心に日本型雇用は根強く残っていたが、いよいよとどめを刺される時が来そうだ。決め手となるのが「定年消滅」だ。

政府は2018年10月、「70歳までの就業確保」を企業に求める方向で検討を始めた。

今は法律で「65歳まで」が企業に義務付けられているが、健康な人にはもっと長く働いてもらい、年金を受け取らずに制度を支えてほしい、という狙いだ。そもそも今後、年金や医療といった公的サービスが細れば、70歳以降も働かざるを得ない人は増えていく。

国立社会保障・人口問題研究所の予測によれば、2030年代半ばには3人に1人が65歳以上。元気なシニアには「戦力」になってもらわないと職場も回らなくなる。

岸本さんのように「逃げ切る」つもりだった世代も、キャリア観を根本的に見直し、厳しい選択を迫られる時代はもう来ている。

「転職したらいくら」で賃金を決定

松井隆幸さん

サイボウズの松井隆幸さんは、週1日、会社公認でサイトの運営という副業をしてきた。

撮影:庄司将晃

定年消滅を「むしろチャンス」とポジティブにとらえる見方もある。

「40年後にサイボウズという会社があるかどうか、誰にも分からない。副業を通じて社外でマツイの名前を売り、市場価値を高められれば、何かあった時に攻めの転職ができますからね」

IT企業のサイボウズでクラウドサービスの営業とマーケティングを担当する松井隆幸さん(28)はさらりと話した。サイボウズに◎歳で退職、といった定年はないが、松井さんに「終身雇用」の意識はゼロだ。

2013年に新卒入社。2018年3月からは会社公認で週1日、自社のサービスを使う際の便利な「裏技」を紹介するサイトを個人で運営する副業に取り組んできた。

サイボウズでは「多様な個性を活かす」(青野慶久社長)ため、それぞれの働き手が柔軟に勤務日や時間、働く場所を選ぶことができ、副業もOK。「この人が転職したら、市場ではこのくらいの賃金が提示されるはず」という水準をベースに賃金が決まる。社員は常に時価評価される、というわけだ。

働き方は千差万別、中途採用も多い社員を公平に評価するにはどうすれば良いか?試行錯誤の末、今はこのやり方を採用する。

「賃金でも人事でも年功序列は一切なし。年齢による差別である定年制もありません」

青野社長の論理は明快だ。

「時価評価」にさらされ続ける時代が来る

都会のビル群。

撮影:今村拓馬

年功制を維持する限り、中高年社員はコスト高だ。今の時点で企業の義務とされている「65歳までの雇用確保」の現実は「60歳でいったん定年退職させ、嘱託社員などとして賃金を大きく下げて再雇用する」といった事例が目立つ。

これでは職場の中核として働き続けるシニアのモチベーションは維持できない。

日本総研の山田久理事は「シニアの力を活かすためには、中堅以降を中心に、賃金制度を年功主義から、その時々の職務の内容や成果に応じて決める手法に変えていかざるを得ません」と指摘する。

サイボウズの青野社長も言う。

「年功制の会社は若手の賃金を上げられず、良い人材を採用できなくなる。制度を変えるか、それができないなら消えていくしかありません」

定年がない時代には、年齢にかかわらず実力次第で道を開きやすくなる一方、自身の時価評価を巡る競争にさらされ続ける覚悟が問われそうだ。

「厳しい」とうんざりするか、「チャンスだ」と奮い立つか。あなたはどちらですか?


(文・庄司将晃)


平成の30年間で、もっとも大きな変化はインターネットの台頭。そして今、小さな頃からデジタルに慣れ親しんできたデジタルネイティブ世代が職場や社会の主役になりつつあります。ただし、デジタルネイティブな平成生まれと、上の世代は時に価値観のギャップですれ違いも。平成が終了し新たな時代の始まる2019年、ズレやギャップの向こう側を探ります。

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