【米中デジタル冷戦】日本は米国忖度だけでいいのか——ファーウェイ排除の根拠は?

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通信メーカーの中での圧倒的な存在感を示すファーウェイ。日本からの部品調達も6000億円にのぼる。

REUTERS/Yves Herman

「日本政府が来年(2019年)3月、華為(ファーウェイ)を本当に5Gから排除するかどうか見守っています。実際に排除しそれに中国が報復したら大変なことになる」

ファーウェイCFOがカナダで逮捕(保釈中)された直後、旧知の中国外交消息筋はこう言った。穏やかな口調とは逆に、「報復」に妙なリアリティを感じた。

まるで「ココム」再来

「米中貿易戦」は、トランプ政権がファーウェイなど中国製品排除を同盟国に求めたことで、「デジタル冷戦」の新次元に足を踏み入れた。まるで米ソ冷戦時代の「対共産圏輸出統制委員会(ココム)」の再来を思わせる。

ココムで西側は共産主義陣営への軍事技術や戦略物資を禁輸し、世界経済を東西に二分した。冷戦が終わり経済面で「地球は一つ」になったはずだが、逆行するのだろうか。デジタル技術・製品を軸に世界が米中2ブロックに分かれて争う時代、日本は将来をかけた岐路で選択を迫られる。

米中首脳会談

5G技術を巡って、中国製品排除を議会としても決定したアメリカ。デジタル時代の覇権争いが激化している。

REUTERS/Kevin Lamarque

日本政府は、第5世代(5G)移動通信システムの周波数割り当て審査基準に、「情報漏えい」など安全保障上のリスクを盛り込み、ファーウェイと中興通訊(ZTE)の中国大手二社を事実上排除する方針だ。ソフトバンクなど携帯各社もこれをすんなり受け入れ、2社の製品を採用しない方針を決めたと伝えられる。

幹部逮捕は人質と同じ

ファーウェイは創業30年で売り上げ10兆円を達成。世界の通信基地局の約28%を占め、スマートフォンの売り上げも世界2位。ソフトバンクが2017年度に調達した同社の基地局は6割近い。ソフトバンクは既設の4Gの基地局も別製品に置き換える方針という。

一方、ファーウェイの年間調達額は半導体だけで約1.5兆円。日本の電機、部品メーカーからの調達額は2018年約6700億円(2017年は約5000億円)相当にものぼる。ファーウェイの部品調達先を見ると日本だけでなく、アメリカ、韓国、台湾、欧州と幅広い。ファーウェイ排除が複雑なサプライチェーン(供給網)への打撃になるのは間違いない。

孟晩舟氏

ファーウェイCFOの孟晩舟氏。身柄の引き渡しを巡って政治的な取引の材料とすることに、トランプ政権内からも異論が出ている。

. Picture taken October 2, 2014. REUTERS/Alexander Bibik

排除の背景には、高速大容量の5Gでの米国勢の出遅れがある。それにしても、ファーウェイ社幹部の身柄のアメリカへの引き渡しについて、トランプ大統領が「介入の意思がある」と述べたのは異様だ。英経済紙「フィナンシャル・タイムズ」は

「ファーウェイCFOを貿易交渉のカードとして人質に取っているのと同じだ。アメリカの法の支配とは、大統領の気まぐれに左右されるのか」

と批判した。

ハッキングはアメリカが先行

一方、排除の根拠になっている「安全保障」に道理はあるのだろうか。

在京の中国消息筋は「もしリスクがあるなら具体的な証拠を示してほしい。ソフトバンクが利用してきた4G基地局でも問題はあったというのか」と反論。さらに在カナダの中国大使は、カナダ紙「グローブ・アンド・メール」(12月13日付)への寄稿で、

「安全上のリスクと言うなら、西側諸国の電気通信設備メーカーが生産した設備にも同様のリスクがある」

と書いた。

同大使はアメリカのハッキングの例として、米国家安全保障局(NSA)が2007年から始めた極秘の通信監視プログラム「PRISM」を挙げた。NSA元職員・エドワード・スノーデン氏は2013年6月、「NSAは中国本土も含め世界中でハッキングを行っている。監視対象者は11万7000人」と明かし、日本政府に対しても監視システムを譲渡したと暴露した。

ドイツの排除しない理由

エドワード・スノーデン

元NSA職員のエドワード・スノーデン氏は、米国家安全保障局によるハッキングを暴露した。

Getty / Handout

日本と同様、アメリカ同盟国のドイツとフランスは、ファーウェイ排除には同意していない。

ドイツはファーウェイと5G技術への移行の協議を進めている最中だ。週刊誌「シュピーゲル」は不同意の理由について、

「民間企業に制裁を加えるのは異常。情報窃取というならその証拠を示さねばならない。証拠がない以上ドイツは制裁しない」

と書く。ファーウェイを排除しても、「安全保障確保などで期待する効果は薄い」というのが、通信情報専門家の間では囁かれている。

ファーウェイ幹部逮捕への「報復」として、中国政府はカナダ人2人を拘束。カナダのフリーランド外相はポンペオ米国務長官に対し「容疑者の移送を政治化したり、他の問題を解決する道具に使ったりしてはいけない」と、クギを刺した。「日米同盟基軸」で思考停止の対米追従外交を続ける安倍政権は、果たして注文をつけられるだろうか。

米中、日中の股裂き状態

前出の中国消息筋は、こう疑問を呈する。

「安倍首相は言行が一致しない。先の訪中では脅威とならない、自由で公正な貿易を、と主張しながら、ファーウェイではこういう対応をする」

米中対立と日中改善 —— 相反するベクトルの中で、安倍政権は股裂き状態にある。

この夏アメリカ上下院を通過した「2019年度国防権限法」は、2020年8月以降、ファーウェイやZTEとの契約を米政府に禁じた。

ある経産省OBは「デジタル技術・製品をめぐり米中のブロック化が始まるかもしれない。固く閉じたアメリカ・ブロックと、その外側を取り囲む緩やかな中国ブロックの争い」という構図を描き、さらにこう続けた。

「コスト面では中国ブロックが勝るに違いないが、それでも日本は中国排除に『ノー』は言えない」

日米同盟基軸の「究極の忖度」

日中首脳会談

中国は今や日本の最大の貿易相手国になった。中国製品排除方針が日本経済に与える影響は計り知れない。

Nicolas Asfouri/Pool via REUTERS

財務省貿易統計によると、日中貿易額は2004年に日米貿易額を上回り、中国は日本の最大の貿易相手国になった。2017年の対中貿易額は往復37.5兆円と、対米貿易額の23兆円を上回った。中国貿易額の世界シェアも、やはり2004年にアメリカを抜き、2017年は24.4%を占める。中国市場抜きに日本経済は成り立たないことは一目瞭然である。 

防衛省の元高官は、日本政府のファーウェイ排除は、「日米同盟機軸」に異を唱えられない「究極の忖度だ」と解釈する。米一極支配体制が崩れパワーシフトが進行する今、少なくとも日米安保体制を相対化する努力をしてはどうか。

日中国交正常化や平壌共同宣言は、同盟下でも独自外交を展開できた好例だ。忖度だけでは生き延びられない岐路にある。

岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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