日テレ版朝ドラは女子を舐めてませんか?「あるある」だけでは盛り上がれない

日本テレビが12月10日から始めた朝ドラ「生田家の朝」を見ている。開局65周年の記念番組で、「企画・プロデュース=福山雅治、脚本=バカリズムという強力布陣」だとスタート前から宣伝していた。

生田家の朝

「生田家の朝」ホームページより。

朝5時50分から放送されるワイドショー「ZIP!」の終了10分前、7時50分頃のスタートとしたのは、8時に始まるNHKの朝ドラを意識してのことだろうが、このところ視聴率でテレ朝に押され気味の朝のワイドショー枠へのテコ入れだとも言われている。

「ZIP!」の最後のコーナー「もてなしMOCO」を休んでの放送だ。速水もこみちを愛する女子をそのままスライドさせ、福山の歌う主題歌「いってらっしゃい」で福山ファンをがっちりつかむ。バカリズムの独特の着眼点で、ドラマ好きをうならせる —— 。

という戦略は、さすが日テレだと思う。

家族の「あるある」だけが描かれる

夫がユースケ・サンタマリアで、専業主婦の妻が尾野真千子。子どもは2人で姉が中学生、弟が小学1年生。そんな4人家族が念願の一軒家に引っ越してきて……。そんな設定だ。

他に登場人物はいない。事件も起きない。それどころか、朝ご飯の様子しか描かれない。でも必ず「家族(または家庭)あるある」が浮かび上がるから、気づけば視聴者がはまっている——。

という狙いも、すぐわかった。

だけど、これがあまりうまくいっていない。というか、おもしろくない。時に不愉快だったりする。なんというか、共感できないのだ。

NHKの朝ドラは、半年という長いスパンで「女性の一代記」を描くのが基本。日テレは「民放の雄」として、逆に小さく小さく朝ドラを作る。たった13回だけど、強力布陣で。ここまでは大正解だと思う。だからこそ、「小ささ」が命綱、勝敗を左右する。

目のつけどころになるほどと感心させ、ああ、そういう風に切っていくかとさらに感心させる。そうなれば勝ったも同然。だが、どうもそうならない。

初回から12月17日放送の6話まで「生田家の朝」が描いた「あるある」と、切り口としての「落ち」を書いてみる。

  • 1話 ダイニングテーブルを使ってない→夫を見送る妻の超濃厚なキス
  • 2話 妻が納豆についてくるカラシをためている→捨てたけど、他にもためてる物あり
  • 3話 見た夢のせいで、妻が朝から不機嫌→超濃厚なキス
  • 4話 ペットを飼いたい母と子→何を飼うかまとまらず、延期
  • 5話 父親のことがウザい娘→父、どんより
  • 6話 たまに作る夫の料理がまずい→翌日伝えるが、めげない

「朝からブチュー」はどうなのか

ZIP!

若年層を狙う「ZIP!」。今回のドラマは女子層を狙ったのか。

「ZIP」公式ホームページより

一つひとつを熱心に解説しないけれど、まずは初回が失敗だったと思う。

引っ越してきたばかりの生田家で、夫の心の声が聞こえてくる。こだわりのダイニングテーブルを買ったのに、ずっとコタツで食事をしている。ソファーもこだわりだが、いまや変なシールを貼られている始末だ、と。

不満はあっても思うだけの優しい夫。いつもと変わらないよい朝だ、妻の見送りも変わらないと心の声が続き、最後のシーン。

「いってらっしゃい」と言うと尾野真千子がユースケ・サンタマリアにキスをする。「ブチューって感じで」と台本のト書きに書いてあったか、演出家が言ったか。そんなキス。しかも尾野は体をググッと寄せて、足を上げる。引いたり寄ったり、かなり長く映る。

ね、意表を突かれたでしょ、みなさん、NHKとは違うでしょ、おもしろいでしょ。そんな声が聞こえてくるのだが、発しているのはバカリズムなのか日テレなのか。

朝のワイドショーの中でも、「ZIP!」は若い視聴者層を狙っているはずだ。「生田家の朝」も20代、30代の女性を念頭に置いていると考えるのが普通だろう。だとすれば、これから仕事に出かける人も多いだろうし、子育て真っ盛りの人も多いだろう。

そういう女性は、ああいうキスを見てどう思うだろうか。そのことを考えているかなあ、と思う。意表を突くという狙いが先行し、視聴者の気持ちをないがしろにしているように思う。私は若い女性ではないので、みんながそう思ったと言い募るつもりはないが、正直、気持ち悪かった。

「女であることの哀しみ」と朝ドラ

ドラマ「カーネーション」

NHK朝ドラで尾野真千子が主演を演じた「カーネーション」。戦前戦後を通じて、洋服に人生を賭けた女性を演じた。

「ファミリー劇場」ホームページより

実はNHKの朝ドラが大好きだ。『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』という本も出している。本を出した後、「一番おすすめの朝ドラは?」と尋ねられることが増えた。「カーネーション(2011年放送)」と答えている。

娘3人を「コシノ三姉妹」と呼ばれる有名デザイナーに育てた小篠綾子をモデルにした一代記。「女であることの哀しみ」を底にたたえた、とてもよいドラマだった。主役は尾野真千子。 7年たって生田家の尾野は、ブチューっとキスをさせられている。「している」と思えないのは、私が「カーネーション」に思い入れているからだろうか。

もちろん「生田家の朝」が「カーネーション」である必要など、全くない。「あるある」から入って「落ち」に行くという流れが鮮やかなら、それでよいのだ。納豆のカラシをためている妻に着目する。それは分かる。だけど、「ためてるよねー」「ためてる、ためてる」以上になっていない。

私は納豆のカラシを使わない時はためずに捨てる。だが、捨てるたび小さな罪悪感に苛まれる。だからためている人がいても、ちっとも不思議じゃない。なので、「ためてるよねー」「ためてる、ためてる」では盛り上がれない。

ところが「生田家の朝」は全体に、入り口で盛り上がってしまっているのだ。頭で考えて、それでよしとしている感じ。

「夢で不機嫌になるってあるよねー」「夫の料理がまずいって、言いにくいよねー」

10分ほどのドラマだから、13回だけのドラマだから、それで「もつ」と思ったのだろうか。全然、もってないと思う。

男だから、女だからと言うつもりはない。だけど、こう思う。「あるある」だけで満足するほど、日々の生活は単純じゃない。


矢部万紀子(やべ・まきこ):1961年生まれ。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、「AERA」や経済部、「週刊朝日」などに所属。「週刊朝日」で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長を務めた後、2011年退社。シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に退社し、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』。

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