アマゾンいわく、日本ならではアレクサの用途は「風呂の湯はり」? 日本展開を副社長に直撃

Echo Spot

日本でも競合他社に先駆けディスプレー付きスマートスピーカーをリリースするなど、アマゾンのEcho・Alexa部門の躍進は続いている。

日本でも2017年11月に上陸し、直近では最新の大型ディスプレー搭載機も出荷が始まったアマゾンのスマートスピーカーEchoシリーズ。

Echoシリーズは現在14の国と地域で展開されており、その出荷台数は数千万台規模とされる。アマゾンによると成長の勢いは今も続いており、2018年11月にブラックフライデーと合わせて開催したキャンペーン“サイバーマンデー”では、エントリーモデルの「Echo Dot」の販売台数が過去最高を記録したという。

Daniel Rausch

米アマゾンでスマートホーム事業担当のバイス・プレジデントを務めるダニエル・ラウシュ(Daniel Rausch)氏。

Echoシリーズの肝であるAIアシスタント「Alexa(アレクサ)」は誕生からも4年が経過。アレクサに機能やサービスを追加する「スキル」(スマートフォンで言うアプリ)も順調に増加している。このスキルの数は、全世界では5万以上。現在では国内でも約1500種類以上が使える。

アマゾンがスマートスピーカー/AIアシスタントの普及の先に描くビジネス像とは何か? 米アマゾンでスマートホーム事業担当のバイス・プレジデント、ダニエル・ラウシュ(Daniel Rausch)氏に聞いた。

声の操作は圧倒的な利便性を生む

Echo Show

12月12日に日本でも出荷がスタートした「Echo Show」。ディスプレー付きのモデルでタッチも可能だが、基本的な操作は「声」で行なう。

アマゾンのEchoに限らず、グーグルの「Google Home」やアップルの「HomePod」など、アメリカでは数々のスマートスピーカーが市場に登場している。

一方で、多くの消費者はスマートフォンを既に持っている。スマートスピーカーのVUI(Voice User Interface、声の操作体系)でできる多くのことは、スマートフォンのアプリでも実現できるように思える。それなのに、なぜここまでスマートスピーカーが急速に普及を進んでいるのか。

ラウシュ氏はVUI普及の背景を以下のように語る。

ラウシュ氏「音声ではるかに楽になることがいくつか存在する。その1つの例として、スマートホームが挙げられる。

スマートフォンでスマートホーム上のデバイス、例えば照明などを操作したいとき、まずはポケットからスマートフォンを取り出し、ロックを外し、専用のアプリを立ち上げることで、ようやく操作できる。

でも、スマートスピーカーであれば今家にいる誰であってもすぐに操作できる。これはまさに機能が常に偏在しているユビキタス的な環境が実現できていて、電気のスイッチより楽かもしれない。

この成功のおかげで、現在では1日あたり数百万回もアレクサ経由で家の何らかのデバイスの操作が行われている」

日本ならではのユースケース「湯はり」

リンナイ リモコン

リンナイ製の一部リモコンでは、湯はりや追い炊き、床暖房の操作などをアレクサを通して実行できる。

ただし、考慮しておきたいのは日本とアメリカの住環境の違いだ。例えば、宅内の温度管理ひとつとっても違う。アメリカでは、室温管理のハブ装置(サーモスタット)があるが、日本では各部屋のエアコンが担っており、さらに使わないときはオフにしている家庭が多い。

そのため、アメリカではスマートホーム化の筆頭デバイスであるネットワーク対応サーモスタットも、日本では全く売られていない。日本では、スマートホーム導入の決定打と言えるようなデバイスがあまりないように思える状態だが、日本市場のこれからの伸びをラウシュ氏はどう考えているのか。

ラウシュ氏「使い方は異なるものの、日本もアメリカと同じ傾向で伸びていくのではないか。

スキル自体も現在まで1500まで増えているし、アメリカと同じようなユースケースである照明機具の制御も、アイリスオーヤマの比較的導入しやすい価格の製品の登場によって伸びていくと思う。

また、日本ならではのソリューションもある。その1つがリンナイの製品だ。アメリカではシャワーが一般的だから、湯はりを自動でやるという発想があまりない

VUIは老若男女問わず自然の操作がしやすい

Alexaスキルアワード2018

Alexaスキルアワード2018の個人開発者向け最優秀賞が授与されのは、折り紙の折り方を教えてくれるスキル「みんなのおりがみ」だった。

また、ラウシュ氏はスマートスピーカーのユーザー層がいわゆるアーリーアダプターだけではないことにも注目。まさに大人から子どもまでのコミュニケーションの橋渡し的なニーズをスマートスピーカーが叶えていると話している。

ラウシュ氏「(スマートスピーカーのような機器を)早い段階では採用しないような人も、すでに購入してくれている。子どもにも大人気で、例えば日本では(『ピカチュウトーク』スキルを使って)ポケモンとよく話しているようだ。

また、世界共通の課題だと思うが、遠方の親戚とのコミュニケーションに使っている人も多い。新しいEcho Showなどはビデオチャットにも対応しているので、例え料理をしている最中でも音声操作で別の家で暮らしている母親に連絡をとることもできる。

Echoシリーズのカスタマーレビューでは、スマートフォンやPCのキーボードが使いづらい人でも使えているという声をもらっている」

実際、日本で初めて開催され、9月に表彰が行われた開発者向けコンテスト「Alexa Skill Award 2018」では、ドローン連携などのガジェット的なものに限らず、絵描き歌や折り紙の折り方を教えてくれる子ども向けのものや、血圧手帳やセンサーなどを駆使したみまもり機能などのシルバー向けスキルが数多く登場していた。

未来のアレクサは家の外に広がる

ソニー ヘッドホン

9月にドイツ・ベルリンで開催されたIFA 2018では、ソニーがアレクサを内蔵したワイヤレスヘッドホンの参考出展を行っていた。なお、ヘッドホン自体は既に日本でも発売中の「WH-1000XM3」と変わらず、参考出展段階でのアレクサ対応はファームウェアのアップデートで対応しているとのこと。

グローバルでスマートホームを中心に人間の生活を変えてきたアレクサだが、今後はどのような領域に挑戦するのか。ラウシュ氏はその1つを「Outside Home(家の外)」と表現した。

ラウシュ氏「車やビジネスでの利用など、Outside Homeは大事な領域だ。アメリカでは既に法人向けに“Alexa for Business”を展開している。個人も、対応するヘッドホンやウェアラブルデバイスを通してアレクサを使うことができる。

また、2018年の春にはホテル向けに“Alexa for Hospitality”(日本未展開)もリリースした。泊まっている部屋の近くのレストランはどこにあるのかなど、音声操作は知らない土地で調べ物をするにも向いている」

アマゾンと提携している自動車メーカー

アマゾンと提携している自動車メーカー。日本のトヨタや三菱、日産も含む。

ちなみに、Alexa for Businessについては日本への上陸の準備を進めている段階であると言う。例えば、会議室の操作デバイスとしての活用などを想定しており、実際アマゾン社内では800台以上のEcho Dotが稼働しているそうだ。ラウシュ氏は「仕事をする上でなくてはならない機能」と語る。

また、自動車関連の取り組みとしてアマゾンはトヨタや三菱、日産を含む15社以上のメーカーと提携。車にアレクサを埋め込み、音楽の再生やガソリン残量のチェックなどを実現するという。

アレクサ対応機器の増加も成長の鍵

Daniel Rausch

「一番大事なのはお客さん1人1人に満足してもらうこと」だと語るラウシュ氏。

その他にも、ラウシュ氏は今後の展開として同社が10月に発表した「Alexa Connect Kit」の普及にも触れた。Connect Kitはひと言で言えば、機器に組み込むことで、簡単にアレクサ対応のスマート機器を開発できるIoTモジュールで、ラウシュ氏によると「アレクサを展開しているどの国の規制などにも対応しており、各国のメーカーとの交渉を始めている」とのこと。

Connect Kitが広まれば市場には今よりさらにスマートホームデバイスが市場にあふれ、その操作は家の内外にある存在できるアレクサを通して行えるようになる。そのための準備をアマゾンは着実に進めており、ラウシュ氏も「これからますます進化発展していく。ロードマップに注目してもらいたい」と語った。

(文、写真・小林優多郎)

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