女性の健康は“経営課題”である——リテラシーを高めることで企業も社員もHappyに

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労働力人口総数に占める女性の割合は43.7%(厚生労働省「平成29年版働く女性の実情」)となっている。しかし、東京大学医学部附属病院産婦人科教授の大須賀穣氏によれば、これまで日本では男性における健康管理が重視され、がん、循環器疾患、糖尿病などに対しては多くの予算や法的整備がなされてきたものの、女性特有の健康問題は後回しになっているという。 女性自身においても自らの健康に対するリテラシーは決して高いとはいえない。

日本医療政策機構「働く女性の健康増進調査2016」によると、乳がん検診の受診率は、アメリカで81%であるのに対して日本では41%。子宮頸がん検診もアメリカは85%に対して日本は42%。全体の30%が「婦人科検診に行ったことがない」と回答している。女性が婦人科疾患で働けなくなれば、経済的損失額は6.37兆円にものぼると試算されている。また、 同機構の『働く女性の健康増進調査2018』によると、「PMS(月経前症候群)や月経随伴症状によって、元気な状態のときと比較して仕事のパフォーマンスが半分以下になる人が約半数」、また「ヘルスリテラシーの高い人の方が、仕事のパフォーマンスが高い」という結果も出ている。企業は、女性の健康にもっと目を向けるべきではないか——。

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2018年12月12日、東京・千代田区で働く女性の健康増進を考えるイベント「『女性の健康×経営』で生産性が上がる〜先進企業に学ぶ〜」が行われた。登壇者と講演テーマは以下のとおり。

山本宣行(経済産業省商務・サービスグループヘルスケア産業課 課長補佐) <第1部:各企業における健康に関する取り組みの重要性>

大須賀 穣(東京大学大学院医学系研究科(産婦人科)教授) 小山田万里子(日本医療政策機構 副事務局長/COO)<第2部:「働く女性の健康増進に関する調査2018」ヘルスリテラシーと労働生産性調査発表>

齋藤 明子(株式会社ポーラ経営企画部マネージャー)大須賀 穣、小山田 万里子 <第3部:健康経営の先進企業に学ぶ>

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経済産業省ヘルスケア産業課課長補佐の山本宣行氏。「健康経営銘柄や健康経営優良法人の選定・認定要件に“女性の健康”が加わった」と解説。

個人事業主も対象に手厚い健康支援を実施

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東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座教授の大須賀氏。「女性の一生は波乗りの連続」と話す。

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日本医療政策機構 副事務局長/COOの小山田万里子氏。データで示されたリテラシー格差に、参加者が真剣に見入る。

ポーラでは女性従業員が約70%を占めている。社員だけでなく、ビューティーディレクターと呼ばれる個人事業主を全国に4万6000人抱えている。そのほとんどが女性で100歳以上のビューティーディレクターもいるという。

そのため女性の健康は社のテーマであり、充実した健康メニューを提供。2018年には「がん共生プログラム」を立ち上げ「がん治療と就労の両立」にも取り組み始めた。

子宮頸がん検査は全年齢が補助の支給対象。乳がん検査も30歳以上が補助の対象となり、早期発見に取り組んでいる。さらに健康問題を相談する健康管理センターを設置、産業医、婦人科医、心理専門スタッフからの助言を受けられる体制を整備しており、従業員は気軽に相談できる。個人事業主のビューティーディレクターには、がん検診の費用補助や、各種手当の保証制度があり、安心して治療に向き合える環境を整えている。

「数年前、健康管理センターのスタッフが20代、30代の首都圏の女性従業員に対して自分の体とキャリアに関する面談を1人30分行い、どれだけ自分の体を知ることが 今後のキャリアやライフスタイルにつながるかを親身になって伝えていったことが婦人科がん検診率上昇につながった」(齋藤氏)とのこと。

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ポーラ経営企画部の齋藤明子氏。

大須賀氏によれば「検診率が高ければ病気の早期発見だけでなく、安心感にもつながる。もし不正出血があっても慌てずに適切な対処ができる」と言う。

女性のホルモンの動きを男性管理職も知る

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小山田氏も 「今回の調査結果を踏まえると、女性の体と健康に対するリテラシー(※)を上げるためにはまず女性の体に関する知識を得ることが重要だということが分かった。しかし、企業で研修を行っても任意だと、参加者がすでに興味関心のある人に限定されると聞く。1時間でも必須の研修としてほしい」と語る。

ポーラでは女性に対する啓発だけでなく、男性に向けても積極的に女性を知ってもらおうと取り組んでいる。そのひとつに男性限定セミナー『女性を取り巻く健康事情』がある。そこまで踏み込んだセミナーを男性に向けて開催するのは珍しい。

「女性のホルモンのゆらぎや月経血の量がどれくらいか画像で紹介。参加者は管理職を中心に10名強。当初は参加を戸惑っていた社員が多かったのですが、健康管理センターのスタッフが『女性社員のマネジメントには健康リテラシーが重要』と一人ひとりを説得しました。参加した方はみなさん『知らなかった』『もっと早く知るべきだった』と驚いていました。今後も継続して開催していこうと考えています」

(※) 女性が健康を促進し維持するため、必要な情報にアクセスし、理解し、活用していくための能力を指す。

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月経についてだけでなく妊娠出産の知識についても管理職は詳細を知らないことが多い。妊娠の経過は個人差が大きい。臨月まで普段と同じように仕事ができる人もいれば、初期からずっと不調で通勤がつらくなる人もいる。

「妊娠したからと言って腫れ物に触るように仕事を大幅に減らしてしまう管理職もいますが、元気な方は普通に働けます。同じ方でも妊娠期間によって体調が変化することもある。まずは基本を知るべき。その上で個別に対応してほしい」と大須賀氏が語るように、それぞれの事情に合わせた対応まで手が回っていない企業があるのが実情だ。

「当社は育児休暇後の復帰率がほぼ100%。部下が妊娠した場合、上長含めて産休・育休前から復帰までのスケジュールを話し合います。回数を重ねるごとに男性管理職も知識が増えてきており、今ではかなり理解が深まっています」(齋藤氏)

女性管理職も自分の経験だけでなく知ることが重要

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最後の懇親会でも名刺交換などが活発に行われた。

会場からは不妊治療について「サポート制度を導入している企業もあるが、プライベートの問題に踏み込みすぎではないか、費用の補助も予算として難しいという意見もあるが……」という質問もあった。

「当社では不妊治療に対する方針が明確にあるわけではありません。時間単位の有給制度、健康相談センターの利用、健康関連費用のカフェテリアポイントによる補助といった制度がありますが、用途は不妊治療に限っていません。今後どうするべきか、相談しやすいオープンな雰囲気を作る必要はありますが、プライベートの問題ですので慎重に検討していきたい」(齋藤氏)

その上で齋藤氏は先進企業として、今後もさらにいっそう積極的にこの課題に取り組んでいく姿勢を見せた。

「当社でも管理職研修の中で健康に対するテーマを取り上げていこうと計画が進んでいます。男性だけでなく女性管理職も多数いますが、自分の経験論だけでなく、女性管理職でもそれぞれ違うということをきちんと伝え、社員のキャリアステップを考える必要があります。企業としても従業員のスキルやモチベーションを高めるだけでなく、社員の健康と、そのために体を知る取り組みを推進していきたいですね」

「働く女性の健康増進のためのプロジェクト」の詳細はこちら

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