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ソフトバンク上場、“米中冷戦”でSBグループのドル箱が直面する視界不良

ソフトバンクグループの稼ぎ頭で通信会社のソフトバンクが12月19日、国内最大規模の株式上場を果たした。その高い配当性向が多くの投資家を魅了する一方で、激化するアメリカと中国のデジタル産業における覇権争いは、成長を続けてきたソフトバンクの前にたちはだかる。

ソフトバンク・宮内謙社長

2018年12月19日、東京証券取引所でソフトバンク上場セレモニーに出席する宮内謙社長。

小林優多郎

売り出し総額は約2.6兆円で、1987年にデビューしたNTTの規模を上回る過去最大のIPO(新規株式公開)となった。19日、ソフトバンク株は1株1463円の初値をつけた後、一時1344円まで下落。公開価格の1500円を下回った。時価総額は、約6兆6700億円。配当性向が純利益に対して約85%と、ライバルのNTTドコモ(56.9%)やKDDI(38%)の水準より高く、長期で株を保有する投資家たちを惹きつけた。

配当を目的に長期間にわたり保有していこうとする投資家にとって、ソフトバンク株は魅力的な銘柄であろう。一方、ソフトバンクの成長性を左右する2つの大きな要因は今後、株価に影響を与え得る材料として市場から消えることはない。

ファーウェイ排除で5G普及に遅れは?

ドイツテレコムの会長兼CEOのティモテウス・ヘットゲス氏

ドイツテレコム(Deutsche Telekom)の会長兼CEOのティモテウス・ヘットゲス氏(2016年2月に撮影)。

REUTERS/Wolfgang Rattay

一つ目は、世界で第5世代無線通信システム(5G=5th Generation)への本格的なシフトが進む中で激化する、米中のデジタル覇権をめぐる争いだ。5Gネットワークを築き上げる上で、ファーウェイを含む中国企業のプレゼンスは大きく、5G導入計画の見直しを余儀なくされる通信事業者が後を絶たないことが予想される。

対イラン制裁に違反したと主張するアメリカの要請で、カナダ・バンクーバーでファーウェイ(華為=Huawei)の経営幹部が逮捕されると、欧米諸国を中心とするテレコム企業はたちまちファーウェイ製品の利用を回避しようとする動きを始めた。

ドイツの巨大通信会社、ドイツテレコム(Deutsche Telekom AG)が、採用するベンダーに関する方針を見直すと発表すれば、フランスの通信会社、オランジュ(Orange S.A.)は、開発中の5Gのネットワークにファーウェイ製品を採用する計画はないとの考えを明らかにしている。

ソフトバンクも現在の通信規格「4G」の設備で、ファーウェイを含む中国製の基地局をなくす方針を固め、5Gでも同じく中国製を排除すると、日本経済新聞が12月に報じた。ソフトバンク・広報担当はこの報道に対して、「決まった事実はない」とした上で、「(日本)政府の方針に従う方向で、あらゆる手段を検討していく」とコメント。「5Gにおいても当然、複数のベンダー(マルチベンダー)を採用していくが、実際に採用する企業は決めていない」と加えた。

5Gは2024年に世界の17%に

エリクソンCEO

スウェーデンのテレコム大手、エリクソン(Ericsson)CEOのボリエ・エクホルム氏(撮影:2018年10月)。

TT News Agency/Photo Claudio Bresciani/via REUTERS

4G規格の一種であるLTEに比べて、高速で、遅延することが少なく、多数同時接続を可能にする5Gは2019年から世界的に普及していく。

12月6日にソフトバンクで大規模な通信障害が起こり、その原因とされた交換機のソフトウェアを開発したのがスウェーデン通信大手のエリクソン(Ericsson)だが、そのエリクソンが「エリクソン・モビリティーレポート:2018年11月(Ericsson Mobility Report November 2018)」と題する報告書で、5Gの将来を予測している。

レポートは、世界のモバイル契約数が2024年終わりまでに89億件まで増える一方、5Gは2020年からその普及が急ピッチに進み、4年後には全体の約17%にあたる15億件に増加すると予想。また、2024年における5Gの契約率は、北アメリカで55%に上り、西ヨーロッパ地域で29%、北東アジアで43%になるという。

計画では、日本でも2019年4月をめどに要望のある国内企業各社(楽天を含む通信4社)に、5G向けの周波数帯が政府から割り当てられ、5Gの商用化は2020年からスタートする。世界的な5Gへのシフトが進む中でソフトバンクの事業性を考える際、米中デジタル冷戦の動きから目が離せない。

楽天参入と国内市場の行方

楽天・三木谷浩史会長

2018年2月、スペイン・バルセロナで開かれた「モバイル・ワールド・コングレス」に出席した楽天会長の三木谷浩史氏。

REUTERS/Sergio Perez

2つ目の要因は国内にある。NTTドコモ、ソフトバンク、auの3強体制が続く国内の通信業界だが、2019年に第4のプレイヤーとして楽天が参入する。競争の激化が予想される一方、政府は国内の携帯電話料金の引き下げを要請しており、通信会社の利益率にはさらなる下方圧力がかかる。

携帯電話の普及率を見ると、国内市場は飽和状態に近い状況であり、マーケットが今後大幅に拡大することは考えにくい。さらに、5Gネットワークの投資コストは膨らみ、国内の通信事業環境を揺さぶる大きな変化が予想される。

1986年に設立されたソフトバンク。現在では、1万7000人を超える従業員が働き、年間3兆7000億円(2019年3月期予想)を売り上げ、7000億円の営業利益を稼ぎ出すが、飽和状態の国内市場や料金の値下げ圧力が強まる中、社員9000人を携帯事業以外の新ビジネスに配置転換することも明らかにしている。

前途多難とまでは言わないが、国内外で不透明感が漂う中でのデビューとなった。

(文・佐藤茂)

(編集部より:ソフトバンクの株価を追加し、記事を更新しました)

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