ファルコン9ロケットの打ち上げを見守るイーロン・マスク。
National Geographic/YouTube
- イーロン・マスクは2018年5月、スペースXは今年、どの国よりも多くのロケットを打ち上げると述べた。
- スペースXはその目標を達成できなかった。中国は少なくとも35回、ロケットの打ち上げに成功した。
- だがスペースXはこれまで(12月21日時点)に20回のロケット打ち上げを行い、商業ロケットの年間最多打ち上げの世界記録を更新した。
- 同社は年内にもう1回、打ち上げを予定している。
- スペースXの2018年の全ミッションを見てみよう。
今年はスペースXにとって素晴らしい1年になった。
2018年、スペースXはこれまで(12月21日時点)に20回のロケット打ち上げに成功。数多くの衛星を軌道に送り、衛星インターネット計画「スターリンク(Starlink)」のテスト衛星2機も打ち上げた。また、車さえも火星を目指す軌道に乗せた。
同社は年内にもう1回、打ち上げを予定している。
2018年5月、イーロン・マスクはスペースXの2018年の進捗状況に満足した様子で、同社は今年、「どの国よりも多くのロケットを打ち上げる」可能性があると語った。
だがそうはならなかった。中国は2018年、長征(Long March)ロケットの打ち上げに35回成功している。さらにまだ数回の打ち上げを予定している。
だがスペースXは今年、同社が持つ商業ロケットの年間最多打ち上げ記録を更新した。同社が年間18回という記録を樹立したのは2017年。それ以前は、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(United Launch Alliance)が2009年に記録した16回が最多記録だった。
2018年のスペースXの全打ち上げを振り返ろう(日付はすべて現地時間)。
1. Zuma:1月8日
SpaceX/Flickr (public domain)
2018年、最初の打ち上げは謎に包まれていた。
政府の機密衛星(恐らくスパイ衛星)がファルコン9ロケットで打ち上げられた。だが、予定軌道に達しなかったと報じられた。
4月、事故調査の結果、ノースロップ・グラマンが製造したペイロード・アダプターに原因があると伝えられた。
2. GovSat-1/SES-16:1月31日
SpaceX/ Flickr
スペースXの打ち上げミッションのほとんどは、ほぼ定型化されている。
衛星を軌道に打ち上げ、その後、ロケットブースターはコンクリート製の着陸パッド、もしくは海上のドローン船に自動的に戻ってくる。ブースターを回収することで、数千万ドルのブースターを使い捨てにせず、再利用できる。これにより同社は打ち上げコストを削減している。
スペースXはGovSat-1(通信衛星)の打ち上げ後、少し変わったことにチャレンジした。貴重なブースターを意図的に海上に落とし(船の上にではなく)、回収を試みた。
この実験は帰還中のブースターに不具合が生じたり、着陸地点を外してしまった場合を想定した緊急対応計画を作るためのものだった。
3. ファルコン・ヘビーとスターマン/テスラ ロードスター:2月6日
SpaceX/Youtube
宇宙服を着せた「スターマン」と名づけたマネキンをテスラの真っ赤なオープンカーに乗せ、火星を目指す軌道に打ち上げた。
この打ち上げはファルコン・ヘビー・ロケットが世界で最もパワフルなロケットであることを証明し、ロケット業界を騒然とさせた。
4. Pazとタンタン(Tintin)A/B:2月22日
衛星インターネット「スターリンク」のための2機の実験衛星、「タンタンA」「タンタンB」。
SpaceX/YouTube
大型衛星Pazの打ち上げは、ある点以外は典型的な打ち上げだった。タンタンA/Bという2機の実験衛星を一緒に打ち上げたことを除いて。
2機の人工衛星は、地球上のあらゆる場所での高速インターネット接続を目指すスターリンク(Starlink)計画のための実験衛星、スターリングには約1万2000機の人工衛星が必要となる。
これは今、地球の周りを飛んでいる人工衛星よりも多い数。だがマスクはスターリンク計画について多くを明らかにしていない。
5. ヒスパサット30W-6(Hispasat 30W-6):3月6日
SpaceX/Flickr (public domain)
バスと同じくらいのサイズのヒスパサット衛星(通信衛星)の打ち上げは、ファルコン9の50回目の打ち上げとなった。
6. イリジウムネクスト-5(Iridium NEXT-5):3月30日
SpaceX/Flickr (public domain)
イリジウムネクスト計画の通信衛星10機を1度に打ち上げた。
この計画では老朽化しつつある現行の通信衛星よりも高速な衛星を75機打ち上げる。今回が5回目。
7. CRS(商業補給サービス)-14:4月2日
NASAのCRS-14ミッションでISSに到着したドラゴン貨物宇宙船。2018年4月4日。
NASA via Flickr
スペースXはNASAと契約している企業の1つで、ISS(国際宇宙ステーション)への物資の供給と回収を請け負っている。
CRS-14はCommercial Resupply Service(商業補給サービス)mission 14の略。3トン近い物資をISSに運んだ。
8. トランジット系外惑星探査衛星(Transiting Exoplanet Survey Satellite:TESS):4月18日
打ち上げ前のTESS。フロリダ州ケープ・カナベラルにて。
NASA
トランジット系外惑星探査衛星(TESS)は、小さく、岩石を主成分とした、水が存在し、生命が存在する可能性がある太陽系外惑星を捜索中。
9. バングラディッシュ・サテライト1(Bangabandhu Satellite-1):5月11日
SpaceX via Flickr (public domain)
バングラデシュ初の通信衛星の打ち上げだったが、スペースXが新しい革新的なロケットをデビューさせたことで注目を集めた。
このミッションはファルコン9ブロック5モデルの初打ち上げとなった。ブロック5のブースターは約100回の再利用が可能。マスクはこのモデルは基本的にファルコン9の「最終版」になると述べた。
今後、同社は火星に行くことができる、より大きく、より高性能なロケットの開発に注力する。
10. イリジウムネクスト-6とグレースFO(GRACE-FO):5月22日
SpaceX/Flickr (public domain)
2018年10回目の打ち上げ。イリジウムネクストの衛星5機とNASAの衛星2機を打ち上げた。イリジウムネクストの打ち上げは6回目。
グレース・フォー・オン(GRACE-FO:Gravity Recovery and Climate Experiment Follow-On)の目的は、地球の重力場の小さな変化を観測することで、地球の水と氷の含有量を分析すること。
11. SES-12:6月4日
SpaceX/Flickr (public domain)
今年、最も単純な打ち上げだった。約1万2000ポンド(約5トン)の衛星を打ち上げた。
だが、再利用可能なブースターを着陸させることはしなかった。古い、ブロック5ではないブースターだったため、そのまま海に落とした。
12. CRS(商業補給サービス)-15:6月29日
Joey Roulette/Reuters
CRS-15ミッションでは、サイモン(CIMON)と名付けられた、浮遊して会話ができる丸いロボットも運んだ。
サイモンはISSで宇宙飛行士たちの話し相手となった(同時に監視もしていた)。
13. テルスター19ヴァンテージ(Telstar 19 Vantage):7月22日
SpaceX/Flickr (public domain)
1万5600ポンド(約7トン)の通信衛星テルスター19ヴァンテージを打ち上げた。過去最大級の通信衛星の打ち上げ。
14. イリジウムネクスト-7:7月25日
イリジウム・ネクスト-7の打ち上げのために発射台に運ばれるファルコン9ロケット。
SpaceX/Flickr (public domain)
7回目のイリジウムネスクトの打ち上げ。これまでで最も素晴らしいブースターの着陸シーンを見ることができた。
悪天候で海が荒れていたにもかかわらず、ブースターは無事、ドローン船上に着陸した。
15. メラ・プティ(Merah Putih):8月7日
ファルコン9ロケットの上に赤くぼんやり見える火星。
SpaceX/Flickr (public domain)
メラ・プティはインドネシアの通信衛星。この打ち上げでは、初めてファルコン9ブロック5のブースターが再利用された。
16. テルスター18ヴァンテージ/Apstar-5C:9月10日
テルスター18ヴァンテージの打ち上げ。フロリダ州ケープ・カナベラル。
SpaceX/Flickr (public domain)
東アジア、オーストラリア、太平洋諸島の島々に通信サービスを提供する衛星を打ち上げた。
17. SAOCOM 1A:10月8日
SAOCOM-1打ち上げのタイムラプス画像。
SpaceX/Flickr (public domain)
アルゼンチン初の地球観測衛星を打ち上げた。
18. エスヘイル2号(Es'hail-2):11月15日
ファルコン9ロケットの9基のエンジンの炎。エスヘイル2号の打ち上げ時。
SpaceX/Flickr (public domain)
NASA承認済みの新設計のヘリウム圧力タンクがデビュー。
スペースXは最終的にファルコン9ロケットで有人飛行を行う計画。だがNASAは有人飛行の前にこのタンクを使って少なくとも7回の打ち上げを行うよう求めている。
19. SSO-A(SmallSat Express:スモールサット・エクスプレス):12月3日
着陸するファルコン9ロケットのブースター。ヴァンデンバーグ空軍基地からの打ち上げの後。
SpaceX/Flickr (public domain)
1度に64機の小型衛星を打ち上げた。このうち3機は密輸、密漁、海賊行為といった海上での違法行為を宇宙から監視する構想をテストするためのもの。
SSO-Aはまた、スペースXが持つ2017年の年間18回という打ち上げ記録を更新したミッションとなった。
20. CRS(商業補給サービス)-16:12月5日
SpaceX/Flickr (public domain)
ISSへの実験機器や物資の直近の補給は見事なものだった。
スペースXはブースターをフロリダ州ケープ・カナベラルにある着陸パッドに着陸させようとした。だが、ブースターは激しくスピンし、海に落下した。
失敗は4つある制御用の「グリッド・フィン」の1つがうまく作動しなかったため。マスクはその後、ポンプの動作不良が原因のようだと述べ、着水の際の動画を公開した。
奇跡的に ── おそらく1月31日、GovSat-1の打ち上げで同社が実施した着陸実験の成果と思われるが ── ブースターは無傷だったとマスクは述べた。実際に回収され、港まで運ばれた。
今後のスターリンク衛星の打ち上げに再利用される可能性もある。
21. GPS IIIA-01:12月23日(予定)
軌道上のGPSブロックIIIA衛星のイメージ図。
USAF
スペースXは年内にもう1回、打ち上げを予定している。GPS IIIA-01は米軍のGPSのカバー領域を広げる。
当初、打ち上げは18日の予定だったが、天候の影響などで何度か延期され、現時点では23日の予定。
この打ち上げはライバルのULA(ユナイテッド・ローンチ・アライアンス)に勝って獲得した。スペースXの打ち上げ価格は数千万ドル安かったことがその理由。
2019年、ロケット打ち上げの史上最高の年となるか?
スペースXのクルー・ドラゴンの予想図。
Kennedy Space Center/SpaceX via Flickr
そして再び2019年にスペースXはこれまで以上のロケットを打ち上げる。すべてが計画通りに進めば、おそらく22回となる。
これにはNASAの宇宙飛行士を乗せたクルー・ドラゴン宇宙船の初の打ち上げも含まれている。
他の国や企業も多くの打ち上げを予定しており、2019年は記録を塗り替えるレベル。これまでの年間最多記録記録は126回。1983年と1984年に記録された。
だが2019年はその記録を破ることになる。173回もの打ち上げが計画されている。
※敬称略
(翻訳:Ito Yasuko、編集:増田隆幸)