金融庁がコインチェックを登録業者に認める決定的な「2つの理由」

巨額の暗号資産の流出事件が起きたコインチェックについて、金融庁が近く、仮想通貨交換業者として正式な登録を認める方針であることが12月19日、複数の関係者への取材で分かった。

※暗号資産……金融庁が「仮想通貨」としていた呼称を「暗号資産」に変更する方針を固めたため、組織の名称など一部を除き、本稿では暗号資産の呼称を使用する。

1月末の流出事件後、同社はハッキング対策など社内の態勢整備を進めてきた。金融庁は、登録の要件を満たす水準に至ったと判断した模様だ。

このタイミングで金融庁が登録を認めた背景には、大きく二つの要因がある。10月に正式な登録業者らで組織する自主規制機関が金融庁の認定を受けたこと、そして、暗号資産をめぐる課題への対応を検討していた有識者会議の議論が節目を迎えたことだ。

コインチェックの勝屋敏彦社長

2018年12月12日に開いた事業戦略説明会で、グループの戦略について話すコインチェックの勝屋敏彦社長。

撮影:小島寛明

コインチェック事件で上がった登録のハードル

2017年9月以降、16社が正式な交換業者として登録されたが、コインチェックは登録の要件を満たすことができず、「みなし業者」として運営を続けてきた。

約580億円相当の暗号資産が不正アクセスで流出した事件があっただけに、コインチェックがいつ、どのような条件で正式な交換業者となれるかは、国内の暗号資産関係者の注目を集めてきた。

事件をきっかけに、事実上、登録のハードルは大幅に上がった。

金融庁が設けたハードルは、利用者から法定通貨や暗号通貨を預かり、取り引きを担う業者が人材と資金、システムを備えることだ。

人材の面では、以前は数人〜20人程度のスタートアップ企業がひしめく業界だったが、複数の交換業者幹部によれば、金融庁は現在、登録の要件として「少なくとも40〜50人の人員」を求めているという。

コンプライアンス担当などの経験者を中心に、大手金融機関の経験者の採用も求めている。

このため、交換業者国内最大手のビットフライヤーでは、10月にホールディングス化した際に三井住友銀行の出身者が社長に就任した。新規参入を目指しているマネーフォワードフィナンシャルも、日銀の出身者が社長を務めている。

暗号資産の業界は、エンジニアが大半を占める企業が多く、この条件は業者側にとって、かなり厳しいものがあったようだ。暗号資産が注目を集めていた時期であれば、交換業者は大手金融機関から流出した人材の受け皿になり得たが、コインチェック事件後は「採用は、かなり厳しい状況になった」(交換業者幹部)という。

金融庁

暗号資産の監督官庁である、東京・霞ケ関の金融庁。

撮影:今村拓馬

マネックスグループの支援で社内の態勢は整う

金融庁はさらに、資金面を含め、財務基盤の手堅さも求めている。

コインチェック事件は、2017年末に暗号資産の価格が高騰した直後に起きたため、同社は大量の資金を保有しており、利用者への補償が可能だった。しかし、財務基盤がぜい弱な企業が不正アクセスを受けた場合、倒産のリスクは極めて高くなる。

実際、9月に70億円相当の仮想通貨が流出したテックビューロは、補償原資を確保できず、フィスコ仮想通貨取引所への事業譲渡に追い込まれた。

コインチェックは事件後の4月にネット証券大手マネックスグループの傘下に入ったが、正式な登録を目指すうえでも、この買収は大きな意味があった。

財務基盤の強化だけでなく、人材の面でも、大手金融機関の経験者がマネックスグループからコインチェックに出向したり、兼務したりすることである程度は確保できる。

マネックスグループによれば、現在、コインチェックは60人程度のエンジニア、利用者のサポート業務については100人ほどのスタッフを確保しているという。別の交換業者の幹部は「事件の結果、正式な登録業者を含めてもトップクラスの態勢が整備されたようだ」とみる。

業界内のルール整備もコインチェック登録の前提

日本仮想通貨交換業協会

記者会見する日本仮想通貨交換業協会の奥山泰全会長(中央)。

撮影:小島寛明

コインチェックの正式な登録が認められるには、同社内の態勢だけでなく、業界全体の態勢整備と、法改正を含む制度の整備も必要だった。

まず10月には、日本仮想通貨交換業協会が、正式な自主規制機関として金融庁の認定を受けた。変化の激しい暗号資産の世界では、政府による規制だけでは追いつかず、業界内部の自主規制が重要になるからだ。

コインチェックもこのころから、新規口座の開設など、事件後に停止していた業務を順次再開している。

制度面での検討も進んだ。金融庁は4月に有識者らでつくる「仮想通貨交換業等に関する研究会」を設置。コインチェック事件で浮上した、暗号資産をめぐるさまざまな問題について、議論を重ねてきた。

12月14日に開かれた11回目の研究会では、報告書案が示され、検討作業にも区切りがついた。

不正アクセスに備え、インターネットに接続した状態で暗号資産を管理する場合、その額以上の暗号資産を利用者への補償原資として確保する対応などを義務づける案などが盛り込まれた。仮想通貨の呼称も「暗号資産」に変更することとされた。

金融庁は2018年度内にも、法改正を含め、必要な制度改正の手続をとる方針だ。

コインチェックの登録が近く認められる見通しとなったことは、同社の社内、業界内、そして政府レベルの態勢が一定程度整ったことを意味している。

暗号資産浮上のきっかけになるか

マネックスグループの松本大社長

2018年12月12日に開いた事業戦略説明会で、グループの戦略について話すマネックスグループの松本大社長。

撮影:小島寛明

コインチェックの本格的な復帰は、暗号資産市場にとって好材料であることに間違いはないものの、世界的に利用者の暗号資産離れが進んでいると言われる現状において、どの程度の上昇要因となるかは不透明だ。

コインチェックの登録をめぐる一連の動きからはっきりしたのは、日本で暗号資産業界に新規参入するのは、極めてハードルが高いということだ。

マネックスグループは12月19日、「現在、コインチェック株式会社の登録について、審査中ではありますが、登録に関して発表された事実はございません」とのコメントを発表した。

(文、小島寛明)

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