多くの企業が人材不足・採用難に直面する“超売り手市場”の時代。
「自分らしい働き方」を模索し続けるミレニアル世代は、従来とは違う価値観で企業を選んでいる。「来てほしい人材がなかなか集まらない」「どうしたらビジョンに共感してくれる人材が集まるのか」という悩みを抱える人事担当も多い。
ミレニアル世代の働き方、キャリアの描き方を、彼らに選ばれている“採用強者”企業はどのように捉え、どのように共感を生む採用方法と情報発信を実践しているのだろうか。
左から、メルカリの石黒卓弥氏、DeNAの大西絵満氏、サイボウズの中根弓佳氏。
2018年11月21日に行われたBusiness Insider Japan編集部主催イベント(協賛: Indeed Japan株式会社)「メルカリ、サイボウズ、DeNA……“採用強者”企業から学ぶ!ミレニアル世代の共感を生むリクルーティングとは」では、優秀な人材が集まる企業として注目される、メルカリ、サイボウズ、DeNAの採用リーダーがパネルディスカッションに登壇、それぞれの取り組みを率直に語った。
急成長、多角経営、高い離職率……事情ふまえた方法確立
まず、それぞれの企業は採用において何を最も重視しているのだろうか。
メルカリは「メルカリ」「メルペイ」「ソウゾウ」3社を合わせ、メルカリグループという形で採用をしている。重要視するのは、「『大胆にやろう』『全ては成功のために』『プロフェッショナルであれ』というバリューに沿っているかどうか」だと、メルカリ People Partners マネージャー・石黒卓弥氏は語る。
メルカリPeople Partners マネージャー・石黒卓弥氏。
石黒氏がメルカリに入社したのは2015年1月。当時社員は60人ほどだったが、今はグローバルで1300人を超える。規模が急激に大きくなっても共有している価値が薄まらないように、社内においても「企業のミッションとバリューは『また聞いたよ、もうわかったよ』というくらいしつこく言う」(石黒氏)ことを常に意識しているそうだ。
部門ごとに採用を行う「部門最適人事」を実践しているのはDeNA。ヒューマンリソース本部キャリア採用グループマネージャー・大西絵満氏によると、DeNAは幅広く事業展開をしているため、各部門によってほしい人材のスキルや伝えたいメッセージがまったく違うという。
「各部門に最適な人事、採用を行うため、いくつかの部門にHRBP(人事ビジネスパートナー)と専門の採用チームを配置し、各部門の人事戦略や採用広報、リクルーティング活動など多くの権限を委譲しています」
DeNAヒューマンリソース本部キャリア採用グループマネージャー・大西絵満氏。
さらに、この体制のポイントとして次の点を挙げた。
「各部門の連携や協力体制の構築。これはヒューマンリソース本部が中心となって仕組みづくりを担っています。このように事業に資する人材獲得ができるよう部門最適人事を行っています」
サイボウズ執行役員事業支援本部長・中根弓佳氏によると、実はこの3社は「エンジニアの取り合いをしている(笑)」のだという。その上で、
「会社の中で人材を確保しておくのは世の中のためにならない。私の将来的な大構想としては、人事同士で人材情報を共有。『この人材は今あなたのこういう事業にマッチすると思うけどどう?』ということができると1人1人が幸せにつながるのではないか」
と大胆だが実に合理的な構想を述べた。
サイボウズが採用で重視するのは、「理想への共感」「多様な個性を重視」「公明正大」「自立と議論」の4点。多様な個性を重視する大切さに気づかされたのは、かつては離職率が高かったからだという。
「今は100人いれば100通りの働き方があると採用も多様化させています」(中根氏)
具体的には、新卒/キャリア採用、第2新卒を対象としたU29(ユニーク)採用。キャリアブランクがある女性を対象としたママインターン、副業を認める複業採用なども進めている。
エンジニアから始まった社員による採用
サイボウズ執行役員事業支援本部長・中根弓佳氏。
3社ともリファラル採用(社員の紹介による採用)も活発だ。一般にエンジニアは横のつながりを持つ人が多く、サイボウズではもともと開発部門が積極的に採用に参加していたという。
「開発部門が自主的にネットワーキングを実施してくれているのを見た営業部門やマーケティング部門が『僕らもやろう、開発部門がなぜうまくいっているのかリサーチしよう』となり、みんな積極的に採用活動に関わってくれるようになりました。採用に関わることへのトップの評価ももちろん高く、みんなが気持ちよく採用に関わってくれることが喜びです」(中根氏)
仲間を増やしていきたいと社員が自主的に思えるような会社の雰囲気づくりや評価制度がリファラル採用を促進していることがわかる。
人気企業でも若手の離職に頭を悩ませている。早期離職は採用コスト、教育コストの増大にもつながる。入社後「会社と合わない」といった価値観のミスマッチを避けるため、3社とも自社情報の積極的な発信にも力を入れている。
メルカリは「メルカン」、サイボウズでは「サイボウズ式」という会社としてのメディア、DeNAでは全社メディアの「フルスイング」のほかクリエイター向け「DeNA DESIGN BLOG」、ゲーム開発向け「GeNOM」、エンジニア向け「Technology of DeNA」など部門ごとにメディアを運営している。
社内外の情報格差をなくす
「いいところだけでなくそうでないところも伝え、社内と社外のイメージの格差を極力なくそうと心がけています。適切な課題があることが候補者にとって『よし、私の出番だ』と思ってもらうことにつながるので、そこを丁寧にお伝えできるようにしています」(石黒氏)
「サイボウズ式は、自分たちが価値があると思うものを皆さんにも伝えていこうという観点でつくっています。それが結果的に採用にもつながっている形です」(中根氏)
「採用メディアとして転職の顕在層・潜在層に向けたメッセージを発信するだけでなく、そこに自社の社員が出ることで自分たちも誇りや自信が持てるインナーブランディングにもつながっています」(大西氏)
メディアには外部へのアピールはもちろん、社員のロイヤリティを高める働きもあり、結果的にモチベーションの維持、離職率の低下という効果があるという。各社とも自社メディアの存在により「マッチする率がよくなりました。候補者が増えるだけでなく、私たちの価値観にマッチした方に来てもらえる」(中根氏、石黒氏)、「面接の中での候補者の質問の質が変わり、お互いに率直に深いところまで話せるようになりました」(大西氏)と語る。
最後に、大西氏は次のように語った。
「求人票は候補者や転職の潜在層の方への企業からのお手紙だと私は思っています。お手紙に思いを込めることは、足元からできること。各企業いろんなカラーが出たほうが面白い。一般的なテンプレはありますが、それを崩してみてもいいのではないか。伝えたいことをもっと伝えていいと思います」
(文・安楽由紀子 撮影・佐坂和也)