平成の30年間で、もっとも大きな変化はインターネットの台頭。そして今、小さな頃からデジタルに慣れ親しんできたデジタルネイティブ世代が職場や社会の主役になりつつあります。ただし、デジタルネイティブな平成生まれと、上の世代は時に価値観のギャップですれ違いも。平成が終了し新たな時代の始まる2019年、ズレやギャップの向こう側を探ります。
「新年には振袖で出社」は時代遅れのマナー?
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年末年始の取引先からの「ご挨拶(あいさつ)」、企業ロゴ入りカレンダー、忘年会にビンゴ大会は当たり前?
職場のムダなビジネスマナーについて、27歳の筆者や同年代の周囲が感じるマナーのありなしと、上司世代の感覚は、微妙にギャップがあるようだ。世代間ギャップを越えて、平成を前にマナーの棚卸しはできないか。
「忘年会にビンゴ大会」は当たり前?
年末年始の職場飲み会は、若手社員にとっては悩みのタネだ。
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「今年の忘年会、ビンゴ大会はやらないの?」
年末進行でバタバタとしている12月のある日、上司(編集長)が突然そんなことを言い出した。
え、なんでいきなりビンゴ大会?
編集長はバブル世代。編集長の前職の大手新聞社では、忘年会では若手社員を中心に「幹事団」が結成され、1週間かけて出し物の準備やビンゴ景品の買い出しなどを準備し、盛大に忘年会を開催していたそうだ。
そういえば去年、私が忘年会の幹事をしたときは無難な飲み会でお茶を濁したのだけど、編集長はどことなく不満そうな顔をしていた。
ただでさえ、年末は通常の仕事でも忙しいのに……。
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「1年に1回、みんなが集まる特別な機会なんだから、ちょっとした工夫があったほうがいいよね」と編集長が今年の幹事(28歳男性)に、チクリとクギを差す。
職場は若手社員が少ないため、もし出し物をすることになったら私が駆り出されるのは目に見えている。ビンゴ大会、ムダじゃないですか?と正直に投げかけてみると、
「外資系の企業でも盛大にクリスマスパーティーとかをやってるでしょう。忘年会というのは仕事上のコミュニケーションを円滑にするためのもの。ビンゴ大会も遊びでやってるわけじゃないんだよ」
仕事だったら、もちろん景品は経費で落とせて、準備の時間に残業代はつくんですよね……?と聞きかけたが、答えを聞くのも恐ろしかったので、やめておいた。
企業ロゴ入りカレンダー・年末年始のご挨拶はムダ?
年賀状の習慣はさすがになくなってきているものの……。
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忘年会以外にも、年末年始はなにかと「ムダ」な礼儀やマナーが多い気がする。
一番「ムダだなぁ」と感じるのは、取引先などからの「新年のご挨拶回り」だ。
周囲の話を聞くと、大企業の担当者が特に用がある訳でもないのに年末年始のご挨拶に訪れる、というケースがけっこうあるようだ。「年末のご挨拶」の数日後に「年始のご挨拶」という、ダブルパンチをする企業もあるという。
さらに、年末になるとどこからか送られてくる、企業ロゴの入ったカレンダーも大きなムダではないか。
年末年始の「ご挨拶」の習慣も、ムダ?
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フリーアドレス(社員が固定席を持っていないオフィススタイル)なのでそもそも紙のカレンダーを置く場所はない(こういう会社は増えているはずだ)。その上、特定企業のロゴが入っているカレンダーは正直、使いづらい。
こういったカレンダーは「●●日までに持っていかなければ捨てます」と書かれたステッカーの貼られた段ボール箱に投げ込まれ、ともすればそのままゴミ箱行きになりがちだ。
周囲の人々に「年末年始のムダマナー」を聞いてみると、他にも以下のようなものが集まった。
- 新年に振袖を着て会社に行く
- 年始の朝礼で、経営者が垂れる訓示を聞く
- ノーアポで挨拶に行き、担当者がいなかったら、"謹賀新年"スタンプを押した名刺を置いていく
- 上司の席に「明けましておめでとうございます」と部下が一人ずつ“参勤交代”のごとく挨拶する
- 年内最終日の「納会」という名の社内飲み会、年始の神社への社員一同でのお参り
平成も終わるというのに、こういった「昭和っぽい」風習はまだまだ残っているように感じる。
ムダマナー撲滅に効果的なのは「空気」
職場のマナーの常識は、世代によって変わってきている。
写真:今村拓馬
こうしたビジネスマナーをなぜ私たちがムダと感じてしまうのか。「インターネットの出現によって通信手段が圧倒的に増えたために礼儀の定義が変わってきているから」と、VR(ヴァーチャル・リアリティ)を活用した企画・開発・コンサルティングを手がけるエクシヴィ社長のGOROmanさんは語っている。
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つまり、かつては相手のために時間を使うことが礼儀とされていたが(礼儀1.0)、相手に時間を使わせないことを礼儀とする(礼儀2.0)時代になってきていることが背景にあるというのだ。
インターネットの発達で、ビジネスマナーも変わってきている。
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ビジネスインサイダーが2018年7月に実施したアンケートでは600人以上が回答し、その約9割が職場にムダなビジネスマナーは「存在する」と感じていた。
その一方で、「慣習というものは、惰性で続けるよりもやめることのストレスは大きい」と、マナー保守派への理解も示すのは、30社以上の産業医として延べ数万人の社員を診てきた、産業医の大室正志氏だ。
「非合理的だとはみんなわかっているけれど、(ビジネスの慣習は)急に辞めるのは難しい。例えば、クールビズというのは日本人の慣習を変える上ですごくうまくいった例ですが、これは本音と建前がガチッと一致したんですよね。みんなが『じゃあ、やめましょうか』と言えるような大義名分をつくってくれると、社会は動きやすいのでは」
つまりみんながこれは「無駄」「なくなった方がいい」と潜在的に思っていると、何かきっかけがあればガラッと変わる可能性もあるということだ。そのためにも、既存のマナーの意義を考え直す「マナーの棚卸し」が職場にも必要で、そのためには、時代の「空気」をつくることが効果的だ、とも語る。
「働き方改革の時もそうでしたが、日本人はなんとなくみんながやってるからとか、世の中どうやらそうらしいといった、主語が曖昧なもののせいにしたがる傾向があります。その是非は置いておいて、効果的なのはやっぱり『空気』なんですよね」
ビジネスにも合理的な「文脈の理解」
「飲み会が少なすぎる」会社にも、メンタル不調者は多いという。
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大室氏は、興味深い事例も挙げている。
飲み会が多い体育会系の職場にメンタル不調者が多い一方で、「飲み会がなさすぎる」会社にもそういった傾向がある、というのだ。
「ビートたけしが『バカヤロウ!』と軍団に言った時に、多くの日本人はだいたいその『文脈』がわかりますよね。飲み会は一見非合理的に見えますが、実は人となりや『文脈』を理解する上ですごく大事なんです。そういった文脈は、普通に会社でメールのやり取りをしているだけでは、理解できない」
その人と打ち解けていれば電話一本で済むはずのコミュニケーションが、真意を測ることができないために悩んでしまう。それは逆にビジネスにおいても非合理的だ、と同氏は語る。
そう言われると「ビンゴ大会も遊びでやってるわけじゃない」という編集長の一言も、不思議と腹落ちした気がした。
テクノロジーで代替できるマナーは思い切ってムダを削減し、本当に対面コミュニケーションでなければ伝わらないものだけ、残していく。そういった基準でマナーの棚卸しをすれば、若手社員にとっても息苦しくない職場になるのでは。
(文、西山里緒)
Business Insider Japan編集部とYahoo!ニュースの共同企画による連載「平成生まれの逆襲」。1月2日から計5本を公開します。