シェア自転車の山の前をシェア自転車に乗って通り過ぎる男性。福建省廈門市、2017年12月13日。
Reuters
一時はシェアリングエコノミーの火付け役ともてはやされながらも、2018年に入って経営危機が再三報じられている中国シェア自転車大手のofo。ユーザーが保証金返還を求めて本社に押しかける“取り付け騒動”も起きる中、普段はメディアの前に姿を現さず、公的な発言も少ないテンセント(騰訊)の馬化騰(ポニー・マー)CEOが、ofoの失敗について自説を披露し、注目されている。
創業者、アリババ、滴滴、VCが拒否権を保有するofo
滅多にニュースになる発言しないテンセントのCEOが、ofoの敗因について持論をコメントした。
12月20日、テンセントの従業員と思われる人物が、同社が運営するSNS微信(We Chat)で「誰がofoを死に追いやったか」と題する記事をシェアしたところ、馬CEOが「この手の分析を最近よく見るけど、誰も本当の原因に言及していない」とコメント。
投稿者が「ofoはスマート化を進めなかったから、世の中がスマート化に進む中で持ちこたえられず、資金力も限界に達した」と返信すると、馬化騰CEOはさらにコメントを足した。
「そうじゃない。(私は)veto right(拒否権)のことを言っている」。
馬CEOが発した「拒否権」という言葉がネット上で話題になる中、中国の著名起業家・李学凌氏もSNSで同様の指摘をしていたことが明らかになった。
「(ofo創業者の)戴威(ダイ・ウェイ)、アリババ、滴滴出行、経緯中国(MatrixPartners China)が皆拒否権を有している。こんな状態では、何も通らない。多くのスタートアップは法律の決まりに注意を払わないが、法律の細部の見落としが、ofoのような状況になったとき、会社に致命的な危機をもたらす」
モバイクとの合併交渉でも拒否権発動か
ソーシャルコミュニケーション業界で成功を収めた起業家、李学凌氏も拒否権について言及していた。
黒字化が見えないにもかかわらず、独立運営を追求してきたofoの創業者・戴威CEOは、同じくシェア自転車大手で、後にテンセント傘下の美団点評(Meituan Dianping)に買収された摩拝単車(モバイク)との合併や滴滴による買収、アリババへの事業譲渡が議題に上がるたびに、拒否権を行使してきたという。
また、今年秋にはofoがソフトバンクグループから大規模資金調達をすると報じられたが、滴滴が賛成をせず、棚上げになったとも言われている。
ofoの取締役会は従来、戴威CEO、最大株主の滴滴、同じく出資者のベンチャーキャピタル経緯中国、ofoの幹部朱啸虎(ジュー・シャオフー)氏が、それぞれ議案を否決できる拒否権を有していた。現地メディアによると、その後、経営方針を巡って対立した朱氏が2017年12月にofoを去る際に、保有する株式の大部分をアリババに売却した。
現地メディア・中国企業家の3月の報道によると、朱氏がofoを離れた後、取締役会の構成はofoのメンバーが5人(戴威CEOが全ての投票権を行使)、滴滴が2人、アリババが1人、経緯が1人となっており、各陣営が拒否権を有している(アリババは「拒否権」保有を否定している)。
中国経済週刊によると、2017年秋、ofoの最大株主である滴滴と、モバイクの最大株主であるテンセントが主導する形で、ofoとモバイクの合併交渉が始まった。当時、シェア拡大のため消耗戦を続けてきたofoとモバイクは、共倒れの危険を感じ、合併交渉のテーブルについたという。だが、ofoの元従業員によると、戴威CEOが合併後の自身の発言権の低下を懸念し、拒否権を発動した。
結局モバイクは、2018年に美団に買収される道を選び、当面の資金面の心配は遠のいた。
創業者は「絶望」の中でも事業継続に執念
サドルが外され放置されたofoの自転車。創業者は事業継続に執念を見せる。
李華傑撮影
滴滴はofoの経営を立て直すため関与を強めたが、戴威CEOがこれに反発。両社の関係が悪化したことから、ofoは滴滴からのこれ以上の資金援助が難しくなり、2018年に入るとアリババに助けを求めた。
そうこうしているうちに、滴滴は自社で不祥事が連発し、ofoを支援したり買収する余裕はなくなった。アリババも支援当初から、ofoの評価額を低く見積もっており、地方都市でシェアが大きい別のシェア自転車企業を傘下に収めた。
ofoの経営危機の原因は、採算や実際の需給を考えず、資金調達に任せて大規模投資を続けてきたことなどと分析されている。しかしテンセントの馬CEOは、利害が対立する各プレイヤーに拒否権が与えられたことで、ofo内部の意思統一が極めて困難になり、他社との提携機会を逃したことがofoの敗因と考えているようだ。
戴威CEOは12月19日、従業員向けに「昨年末から今年初め、外部環境の変化に対して正しい判断ができず、この1年は資金繰りに終われるだけとなった。この数日は、圧力はさらに大きくなっている」としながら、「絶望や苦痛の中にあってもあきらめない」と事業継続に執念を見せている。
(文・浦上早苗)