沖縄・辺野古への土砂投入停止を訴える請願署名を始めたハワイに住む日系4世のミュージシャン、ロバート梶原氏。
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ハワイに住む日系4世のミュージシャンが始め、沖縄・辺野古の海への土砂投入停止を訴える請願署名が、驚くスピードで世界に広まっている。
「工事開始の日が近づくにつれて、不安も増す一方で、希望も失せていました。日本とアメリカの政府は、沖縄の人々と、玉城デニー県知事の声を無視したのです。でも、工事反対のデモを毎日している人々のことを考えると何もしないわけにはいかず、少しでも彼らのことを知ってもらえればと、ほとんどやけくそで始めたのです」
と、ロバート梶原氏(32)は、署名活動を始めたきっかけをBusiness Insider Japanに語った。
全米の日本領事館の前で集会
米軍普天間飛行場移設に伴う沖縄県名護市辺野古の新基地建設工事はついに12月14日、土砂投入という形で強行された。
防衛省による土砂投入を海外の市民やメディアは、沖縄・辺野古問題が異なる次元に突入したととらえた。米メディアが素早く反応し、梶原氏が始めた請願には16万5000人以上が署名した(米東部時間12月25日現在)。
梶原氏が署名を始めたのは12月8日、ホワイトハウスが設ける請願サイト「We The People」を利用し、新基地の是非を問う2019年2月24日の県民投票まで、工事停止をトランプ米大統領に求めている。
「世界には150万人のオキナワンがいます。10万の署名は簡単ではないでしょうか」(梶原氏)
この請願サイトは署名開始から30日以内に10万署名が集まれば、ホワイトハウス内で検討され、60日以内に回答が来るという制度だ。サイトはソーシャルメディアで拡散し、10日間で10万人を達成。署名を呼びかける中にはタレントのりゅうちぇるやローラも。この日、梶原氏はYouTubeでこう語っている。
「わずか10日で10万集まったということは、多くの人が沖縄をサポートしているし、多くの人が辺野古に基地を望んでいないという表れだ。強いメッセージだ」
梶原氏は母方が沖縄県中城(なかぐすく)村出身の日系4世で、子どもの頃から祖父母から沖縄の文化と歴史を聞き、自分のアイデンティティの一つと考えるようになった。辺野古にも何度も訪れ、ウチナーグチ(沖縄の方言)も話す。
梶原氏はまた、辺野古基地建設反対を訴えるため「沖縄と結束しよう」と、12月18日に各地の日本国総領事館前に集まることをYouTubeで呼びかけた。この結果、ワシントン、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、サンフランシスコ、シアトル、ホノルルなど、全米各地で集会が開かれている。
デニー知事を歓迎したアメリカ市民
クリスマスを前にニューヨークでも12月18日、辺野古基地建設反対を呼びかけるデモが行われた。
撮影:Yoshi Higa
10万署名を集めたのち、梶原氏はすでに次の目標を立てている。
- ホワイトハウス請願サイトで最多の署名を集めること(12月21日現在7位)
- アメリカの主要メディアに取り上げてもらい、アメリカ人の署名をもっと集めることで、ホワイトハウスの理解を得やすくすること
「工事の停止は、民主主義と平和主義に基づくものです。もし人々が望まなかったら、政府はそれをするべきではないのです」
と、毎日、基地建設反対を訴えるYouTubeビデオをアップしている。
梶原氏は今、辺野古問題に関心がある人々の間で、リーダーのように見られている。署名スタートから30日の1月7日には署名を提出するため、梶原氏をワシントンのホワイトハウスに送ろうという計画も持ち上がっているという。実現すれば、辺野古問題で市民の声がアメリカ政府に直接届けられることになり、画期的だ。
防衛省による土砂投入を海外の市民やメディアは、沖縄・辺野古問題が異なる次元に突入したととらえた。沖縄タイムスによると、有力紙ワシントン・ポストは土砂投入から20分後に、AP通信の記事をサイトに掲載した。ニューヨーク・タイムズもこれに追随。
その“予兆”は11月中旬の玉城デニー沖縄県知事の訪米から始まっていたのかもしれない。玉城知事の訪米はこれまでの歴代沖縄県知事や名護市長の訪米とは驚くほど異なる歓迎を受けた。
玉城デニー沖縄県知事の訪米時、沖縄ゆかりのアメリカ市民は「We love Denny」と書かれた紙を持って知事を歓迎した。
撮影:Keiko Tsuyama
工事の停止を訴えるため、安倍首相を何度も訪問している玉城知事は連帯を訴えるため、ニューヨークとワシントンを訪問。沖縄ゆかりの市民に、「アイ・ラブ・デニー!」と熱狂的な歓迎を受けた。
玉城知事はニューヨークの集会で市民約150人を前に、「多様性の威力と沖縄民主主義の誇り」と題したスピーチを行い、「(基地問題を)沖縄だけに解決策を問うのではなく、日米の市民が自分のこととして、とらえてもらいたい」と訴えた。
「(基地問題は)沖縄の民衆の意思に関わらず、押し付けられてしまった。日本が沖縄の問題を無視したままでは、民主主義国家ではない。そこにさらに、辺野古の基地増強という負担を強いているわけです」
「また、(ハーフという)私のような存在が、沖縄の魂でもアイデンティティでもある。この多様性を誇り、それをアメリカにも尊敬してもらいたいのです。アメリカが自国の民主主義を誇りに思うなら、それを沖縄にも実現してもらいたい」(玉城デニー沖縄県知事のスピーチより)
として、沖縄県、日米政府の3者会談を強く希望していると強調した。
アメリカ人は環境問題に敏感
玉城知事を歓迎する垂れ幕を持った市民たち。
撮影:Keiko Tsuyama
集会に来ていたハーフのアリス・クリマさん(24)は、知事のスピーチを笑顔を浮かべながら聞き入り、「希望が湧いてきた」とコメントした。
「日米の民主主義を尊重するという戦略は、今まで聞いたことがなかったし、いろんな行動を起こすことで、基地問題を解決していく道につながるのでは、と思い始めた」
また、アジア・パシフィック・ジャーナル編集者のマーク・セルダン氏は、玉城知事はこれまでと異なる知事として期待できるとして、こうコメントした。
「辺野古の問題をアジェンダとして当選したが、この問題を解決するために、民主主義というキーワードなど新しい言語を見つけようとしていると思う。さらに、アメリカ人は環境問題についてとても敏感です。沖縄は、太平洋戦争で『戦争のキーストーン』でしたが、今後は環境に優しく『平和のキーストーン』になると主張していけると思います。そういった新しいメッセージを期待しています」
署名活動は1月7日まで続く。梶原氏らは、オノ・ヨーコなどアメリカのセレブが署名し、アメリカ人がこの問題に関心を抱いてくれることを期待している。
(文・津山恵子)