撮影:今村拓馬
「若者のクルマ離れ」「アルコール離れ」、若者はモノではなく、体験(コト)にお金を払う……。それって本当?平成育ちはただ、お金を持っていないというだけでは?
お金があれば、都心に住んでるよ!
「モノを買わない」平成育ちだって、ブランドものが欲しくないわけではないのだ。
Sergio Monti Photography / shutterstock
「ねえ、ファーのコートを買わないで、亜紀さんはどうやってストレス発散するの?」
休憩時間中、ブランド品のウェブサイトをスマホでスクロールしながら上司が放った一言に、亜紀さん(32、仮名)は耳を疑った。
亜紀さんの職場は、都内の大手出版社だ。上司はブランド品が大好きな典型的なバブル世代。年収は軽く1000万円を超えている。
一方で亜紀さんは業務委託だ。職場には、20代や30代前半の非正規社員と、40代や50代のプロパー(正社員)という、見えないキャリアの格差が存在した。机を並べて同じ仕事をしていても、亜紀さんの月の給料は手取りで20万円ほど、もちろんボーナスもない。
上司がそれを知らないはずがない。「バカにされてるな」と感じた亜紀さんは、怒りを抑えながら「私、ストレスたまっていませんので」と突き返した。
この例に限らず、職場では上司世代(40〜50代)からの無神経な発言が多かった、と亜紀さんは振り返る。
「(東京の23区外に住んでいる人に)どうして都心に住まないの?」
「(海外の長期バカンスが当然、というトーンで)年末年始、どこに旅行にいくの?」
「お金があったら、都心にも住んでるよ!って。『格差社会ですからね〜』と軽く言ってみても、それがイヤミだとすらわかっていない」
浪費癖は、消費の楽しさを伝えるため?
モノより思い出をインスタでシェアが基本の、平成育ち。
撮影:西山里緒
上の世代の無神経な浪費自慢にはウンザリとしている20代〜30代だが、コミュニケーションの断絶を埋めるのは、なかなか難しそうだ。
30代では毎年のようにイタリアに足を運び、グッチやフェラガモなどのブランド品を買ってきたというフリーライターの美智子さん(52、仮名)。
今はかつてほど買い物に熱をあげることはなくなったが、消費を繰り返してきたからこそ「いいものをいいと言える感覚が染み付いた」と、自分の過去をポジティブに捉えている。
「私は、すごくいい時代に生まれたなって思う。だけど環境の影響は大きいから、世代によって(消費の傾向が)変わるのは仕方がない。(下の世代は)かわいそうだなって思います」
また、1966年生まれで『負け犬の遠吠え』などで知られるエッセイストの酒井順子さんは、2018年12月に発売された『駄目な世代』で、こんな風に語っている。
「次第に、『バブルって感じですね〜っ』と言われることにも、慣れてきた私。(中略)我々が消費の愉楽を下の世代に伝えないでいたら、我が国の内需はどうなる。お国の為に、我々は買い続けなくてはならんのだ!……と、単なる消費癖を、愛国心にすり替えたりもしているのです」
金融資産の8割が50代以上によって保有
出典:消費者庁「平成29年版消費者白書」
本当に若者は消費をしなくなっているのか?データを見ると、答えはイエスだ。
消費者庁が発表した「平成29年版消費者白書」によると、1カ月あたりの可処分所得に占める消費支出の割合は、ここ30年(1984年から2014年)の間、全体としてゆるやかな低下傾向にあるが、その中でも20代、30代前半の若者の低下幅が大きい。
30歳未満の単身世帯だけに注目してみると、特に男性では食費、女性ではファッションの支出が減っている。1999年と比較した場合、食費は毎月約12000円、ファッションでは約7500円も出費は抑えられている。
その一方で、金融資産の「年代格差」も、確実に存在している。
財務省が2015年に発表した、日本の個人資産分布を年代ごとに表したデータをみてみると、30歳未満が保有する金融資産の割合は日本人の資産全体のわずか0.5%に過ぎない。30代でも6.3%だ。その一方で、50代以上が保有する資産の割合は8割を超える。
「コト消費」傾向にもフクザツな若者世代
若者は「モノ消費よりもコト消費」と言われるけれど……。
撮影:西山里緒
上記の「平成29年版消費者白書」では、若者の消費について、モノにお金を払う「モノ消費」よりも体験にお金を払う「コト消費」に関心が移って来ていると指摘。
「デジタル化されたコンテンツが複製によって簡単に手に入るようになり、モノを所有することの意義が低下する、また、デジタル化されていない情報やコンテンツの価値が相対的に高まる影響が生じた」
などと分析している。
一方で、コト消費を牽引するといわれる20代や30代前半世代は、政府やメディアが切り取る安易な文脈とコトバに、違和感を感じている。
冒頭の出版社勤務の亜紀さんはこう語る。
「コト消費といっても、私たちは『スタバでドヤッ』とかそれくらい。服やカバンに何十万もかけていた世代とはレベルが違う。
私だって恵比寿にマンションがほしいし、3ケタ万円の指輪だってお金のことを気にせずに買ってみたい。『コト消費』という綺麗な言葉にくるまれて若者の生活の現状が隠されてしまうのは、どうかと思います」
(文・西山里緒)
平成の30年間で、もっとも大きな変化はインターネットの台頭。そして今、小さな頃からデジタルに慣れ親しんできたデジタルネイティブ世代が職場や社会の主役になりつつあります。ただし、デジタルネイティブな平成生まれと、上の世代は時に価値観のギャップですれ違いも。平成が終了し新たな時代の始まる2019年、ズレやギャップの向こう側を探ります。
Business Insider Japan編集部とYahoo!ニュースの共同企画による連載「平成生まれの逆襲」。1月2日から計5本を公開します。