女が甘やかすから九州男児はつけあがる?「悪循環は平成で終わりに」妻・母の誓い

最近知り合った会社員の田中和彦さん(仮名、44)。雑談の途中で、筆者と同い年、しかも同郷(福岡県)と判明し、地元ネタでひとしきり盛り上がった後、何気なく「年末はご実家に帰るんですか」と聞いた。

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イラスト:小迎裕美子

田中さんは首と両手を横にぶんぶんと振った。

「この3、4年ほどは帰っていません。妻が猛烈に嫌がるので……」

田中さん夫婦には、小学校低学年と幼稚園児の2人の子どもがおり、数年前まではお正月に福岡の実家に帰省していた。だが、実家でのんびりできるのは夫の和彦さんだけ。

「正月はうちの実家に親せきがたくさん集まって来るので、妻はずーっと台所で料理を作って、お客さんをもてなさないといけません。女は食事も台所の隅で済ますという感覚がまだ残っている家なので……。

妻が子どもをお風呂に入れようとしていたら、母(妻にとっては義母)に『子どものことは今日じゃなくてもできるでしょ。お客さんを優先してちょうだい』と言われ、我慢も限界に達したようなんです」

夫話の冒頭に「九州」がつくと悪口

人生の大部分を九州で過ごした筆者は、30代半ばの海外移住をきっかけに、九州では割と当たり前に受け入れられている振る舞いや言動が、他の地方、特に東京在住の女性たちの批判、いや、はっきり言うと「憎悪」の対象になっていることに気づいた。

山笠

勇壮な男たちが主役となる博多の祭り「山笠」。今回取材した九州の女性たちは、「俺についてこい、俺を支えてくれ的な男性がもてる土地柄ではありますね」と口をそろえた。

traction,shutterstock.com

「うちの夫は九州出身で」と、旦那話の冒頭に「九州」がつくときはたいてい悪口であり、その内容も「仕事を言い訳に、家事育児から逃げる(妻だって働いているのに)」「自分は飲み歩く癖に、妻が飲み会に行くと『母親だろ』と母性を押し付けて来る」と似たり寄ったりだ。

そして九州男を夫に持つ女性たちが日頃抱えているイライラは、年末年始の夫の実家への帰省で、「女たちが忙しく働いている傍らで、酒盛りして大声をあげて騒ぐ男たち」「夫に輪をかけて考えが古い夫の家族、親せき、その友達」を目にすることによってピークに達する。

実は九州だけでなく、他の地域も(目立たないだけで)似た状況なのではないかとの疑問もあるが、2016年にはTwitterで「#九州で女性として生きること」というハッシュタグが大盛り上がりするなど、ちまたでは「九州男児」が男尊女卑の代名詞的に使われるし、筆者もかつて、職場の熊本県出身の上司が「妻に仕事をさせたらいけない。女が経済力を持ったらつけあがるから」と発言したことに震撼(しんかん)した経験がある(仕事してる私に言うか?)。

昭和どころか平成も終わろうとしているのに、なぜ九州男はこうもふんぞり返っているのか。その“成分”を改めて検証してみた。

夫を立てて転がすのが九州妻の矜持

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イラスト:小迎裕美子

福岡市で美容師をしている加奈子さん(仮名、41)の夫は、「九州の島出身のこてこての九州男」だという。

「料理を出すと、品数が少ないときは『これだけ?』と言うし、自分の嫌いな料理は、箸で私の方向にはじくんです。何様だって思いますよ」

一番腹が立つのは、SNSで休日の家族サービスをアピールする点こと。

「行き先は勝手に決めて、私や子どもの意向は無視です。でも本人は、家族のためにやってるつもりだから、SNSでいい夫をアピールする。うんざりですよ、だけど……」

加奈子さんは、こう続けた。

「家計は私が握っているし、夫は私がいないと何もできない。外でいい顔をしようとする夫を立てて、実際は手のひらで転がすのが九州女の矜持、みたいな考え方はあるかもしれません」

東京の総合商社に勤務する男性(43)は、2000年代前半に福岡県に赴任。3年間の九州生活を「普通にしているだけで、女性たちに優しい優しいと言われた」と振り返る。

男性は現在、30代の妻と共働きで、3人の子どもがいる。妻は育休中とはいえ子育てに追われ、生活用品の買い出しや掃除は彼が引き受けている。年末の大掃除中にふと思い出すのは、福岡勤務時代に付き合っていた女性のことだという。

家庭風景

加奈子さんの夫は、嫌いな料理があると、子どもの前でも妻の方にはじくという。

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「家庭的で、いろいろと世話を焼いてくれて。これまで付き合った女性の中で一番甲斐甲斐しかった」と遠い目をして語りながら、「ああやって尽くして全部引き受けちゃうから、九州の男はつけあがるんじゃないかなあ」と指摘した。

たしかに、筆者がこの2年東京と九州を行き来する中で感じるのが、「九州男のオレサマ気質」なイメージは広く共有されている一方、「九州の女性」と、「九州外の女性」の受け止め方にはかなりの差がある点だ。あくまで筆者の周囲の話ではあるが、婚活中の男女を見ても、東京では共働きの将来設計がスタンダードになっているが、九州では、20代、30代、そして40代であっても女性から「結婚したら家庭に入り、夫を支えたい」との声をよく聞く。

前述の男性は、「九州男を増長させているのは、彼らを甘やかす妻や母なんじゃないですかね」と分析した。

「いい奥さんに」が夫をモンスターにした

筆者の周囲で「九州出身の夫」の横暴さを並べ立てる女性は、ほとんどが40代。「実家はお風呂もお父さんが一番最初でお母さんは最後」「女性は正月料理の残り物を食べる」というこてこての逸話も、よく聞いたら「昔見た光景」だったり、「親世代の話」だったりする。

世代が下ると多少は違うのでは……と思い、30代の夫婦に話を聞いた。

福岡市在住のウェブディレクターの明奈さん(仮名、35)は、IT企業勤務の夫、裕久さん(仮名、39)と結婚して2年になる。

家事

明奈さんはある教訓を得て、今の夫と幸せに生活している。

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「家事は夫婦で分担しています。私が料理をしている間、洗濯ものをたたんでくれたり。頼まなくても、気づいたことをちょこちょこやってくれます」(明奈さん)

明奈さんは結婚当初、夫が毎晩のように友人と飲みに行き、遅くまで帰ってこないことに不満を募らせていたが、文句を言ったら「夫が飲み会に私も誘ってくれるようになった。夫の会社の飲み会に呼んでくれるので、夫の事情も分かるようになり、孤独感もなくなった」という。

夫の裕久さんもこう明かす。

「僕は母子家庭で育ったので、母が仕事と家事で苦労しているのを見てきました。2人とも仕事をしているなら、家事も当然分担すべきだと思います。自分の周りはみんなそういう考えですよ」

今の30代はやはり違うのかと思っていたら、明奈さんがふいに、「実は私は一度離婚してて、裕久さんとは再婚なんです」という。

明奈さんは27歳のとき、10歳以上年上の男性と結婚。その男性も九州男児だった。

「当時はいい奥さんになろうと張り切って、自分が家のことを全てやっていました。結果、それが当たり前になり、夫を何もしないモンスターに育てあげてしまいました」

「私が残業を終えて夜11時に帰宅したら、元夫はソファに座っててテレビを見ながら、『ご飯はいつできる?』と聞いてきたんです。もう殺意ですよ。家のこともう少し手伝ってほしいと言うと、『俺は働いてほしいと頼んだ覚えはないのに、君が好きで働いているんだから、そっちで調整して』って。大して稼いでないくせに!」

結局、明奈さんは31歳で元夫と離婚。その後は、「妻の仕事を理解し、家事や育児を分担してくれる人」かどうかが、男性を選ぶ大きな基準になったという。

「息子を“九州男児”には育てたくない」

福岡市でIT企業の会長を務める佐々木久美子さん(40代)は、2人目の子どもを出産してほどなく離婚、起業した。結婚生活を振り返り、「子育てに関しては親の助けを借りたけど、家事は妻の仕事と思っていて、夫に手伝ってほしいと思ったことすらなかった」と話す。

起業後に海外を含む他地域のビジネスパーソンとの交流が増え、「自分の価値観が特殊、というか古いの?」と意識するようになったという。東京の友人に勧められて、最近家事代行サービスを定期利用し始めたが、「九州は家事のアウトソースに後ろ向きで、新規開拓が進まないと、(家事代行の)業者さんも言っています」。

佐々木さんの長男は小学生。ママ友と集まると、「自分の子どもは、“家のことを何もしない九州男児”にはしたくないね」と話す。

「九州男への批判って、結局そういう男性を育てた環境への批判ですからね」

(文・浦上早苗)

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