【ゴーン前会長事件】裁判所元幹部が語る日本の司法が変わる可能性

日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(64)が、私的な損失を日産に付け替えて損害を与えたなどとして、ゴーン前会長を会社法違反(特別背任)の疑いで東京地検特捜部に再逮捕された事件。

刑事司法に携わる人たちを驚かせたのは、再逮捕の前日に検察が求めたゴーン前会長の勾留の延長を、東京地裁が認めなかったことだ。

東京地検

東京・霞ケ関の東京地方検察庁

撮影:小島寛明

特捜部が捜査する事件で、裁判所が容疑者の勾留延長を認めないのは、極めて異例だ。東京地裁はさらに、勾留の延長を認めなかった理由も報道各社に公表した。

裁判所の要職を歴任してきた元裁判官が匿名を条件に取材に応じ、

「司法制度改革を契機に、身柄の取り扱いを含め日本の刑事司法は変わりつつある。かつては、検察が勾留を延長したいと言えば、裁判官もよほどのことがなければ認めてきたが、身柄の取り扱いに関する判断は厳格化し、可能な限り身柄の拘束を回避しようという流れが生じている」

と話した。

2度の逮捕はほぼ同じ犯罪事実

ゴーン前会長が最初に逮捕された容疑事実は、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)で、2010年度〜2014年度の5会計年度分の役員報酬を50億円ほど少なく有価証券報告書に記載したというものだった。

そして、2018年12月10日に再逮捕された際の容疑事実は、2015年度〜17年度の3会計年度分の報酬についても、約40億円を有価証券報告書に記載していなかったとされる。

2度目の逮捕は、1度目の逮捕容疑とほぼ同じ犯罪事実だが、直近の3会計年度分を立件した形だった。

通常、特捜部が逮捕した容疑者については、10日間の勾留をさらに10日間延長し、20日間の勾留を経て起訴することが多い。

ゴーン前会長についても、1度目の逮捕では20日間の勾留を経て12月10日に起訴され、同じ日に再逮捕された。

裁判所の元幹部は、

「ほぼ同じ事実での再逮捕は、いわば本丸として立件を目指していた特別背任を固めるうえで、もう少し時間がほしいという検察の慎重さの現れだったのでは」

とみる。

2回の逮捕の間に容疑者を勾留できる期間は、最長で40日。この間に「本丸」の特別背任容疑でゴーン前会長を逮捕する証拠を固めたい、というのが検察の意図であったと推測され、これまでは裁判所も、結果として検察側の求めるまま、勾留を認めてきた面があった。

裁判官も説明責任意識の流れ

CarlosGhosn

再逮捕の容疑は、リーマンショックで生じた私的な投資での損失を日産に付け替えた疑いだ。

REUTERS/Regis Duvignau

しかし、2度目の逮捕の最初の勾留期限だった12月20日、東京地裁はゴーン前会長の勾留延長を認めず、勾留を認めなかった裁判官の決定を不服とした検察側の準抗告も退けている。

さらに、12月21日付のNHKの報道によれば、東京地裁は準抗告を棄却した理由も報道各社に明らかにしたという。この報道によれば、東京地裁は「2つの事件の争点と証拠が重なり合い、勾留期間を延長するやむをえない理由はない」などとの理由を示しているという。

これまでは、2度の逮捕であれば、検察側には40日間の「持ち時間」があったことになるが、今回の事件では、2度の逮捕による勾留は計30日間で打ち切られる形になった。

この結果、検察は12月21日にゴーン前会長を特別背任の疑いでの再逮捕に踏み切っている。

勾留を巡る手続は、原則として非公開で手続が進む。このため、準抗告を棄却した理由を裁判所が明らかにするのも、異例の対応だった。

裁判所の元幹部は、

「準抗告を棄却した合議体において、社会全体が説明責任を重視する流れがある中で、社会に対して説明をする必要があると判断したのではないか」

と話す。

いつまでも拘束はしていられない

東京地裁

東京・霞が関の東京地方裁判所。身柄拘束を巡る司法の変化の流れは、捜査のあり方そのものを変える可能性がある。

Reuters/Toshiyuki Aizawa


司法制度改革で、2009年5月から裁判員裁判が導入された。日本の捜査当局による長期の勾留は、以前から海外からも批判されてきたが、日本の司法制度全体を見直す流れの中で、容疑者の身柄の取り扱いのあり方も少しずつ変化している。

裁判所内部では、身柄の取り扱いなどをテーマとする裁判官たちの勉強会も開かれてきたという。裁判員裁判導入から間もなく10年になるが、裁判所の元幹部はこの10年で、身柄の取り扱いを厳格に判断する傾向が強まっていると指摘する。

「勾留するかどうかを判断する際に、もっとも考慮される理由が、証拠を隠してしまうなどの『罪証隠滅のおそれ』だが、最近は捜査当局が『こういうおそれがある』ということを具体的に示さなければ、裁判官が認めない傾向がある。いつまでも身柄は拘束していられないという前提で、捜査のあり方も変わっていくのではないか」

(文・小島寛明)

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