LINEの出澤剛社長。LINEにとっては怒涛の発表が続いた2018年後半。2019年はどう舵を切っていくのか。
撮影:林佑樹
ここ最近のさまざまな企業の経済ニュースの中で、2018年初頭と2018年末で最も評価の変わった企業の1つがメッセージングサービス最大手のLINEだ。
「LINEって昔ほど勢いがないよね」
2018年の前半のLINEには、そんな声が聞こえてきた。国内最大のメッセージングサービスを築き上げてきた大企業、LINE。次の事業の柱を作り上げるため、投資のアクセルを踏むが、近未来のLINEの姿は見えにくい。
株式市場では、LINEの収益面における成長を懸念する声が聞かれた。2018年第3四半期まで(1月〜9月)の営業利益は、前年同期から約72%減った。「FinTech」「AI」「コマース」の戦略事業への投資が利益を圧迫した。
LINE「平成30年12月期 第3四半期決算説明会 プレゼンテーション資料」より。コア事業および戦略事業ともに売上は上がっているが、営業利益は伸び悩んでいる。
出典:LINE
しかし、2018年6月28日に開催された事業戦略発表会「LINE CONFERENCE 2018」以降は、LINEに漂う暗い雰囲気が消えたように感じられたのも事実だ。
LINE Payでの中小店舗向け手数料ゼロ戦略やAIアシスタント「Clova」とトヨタとの提携。2018年11月には、みずほフィナンシャルグループと手を組み、銀行設立準備を進めるなど、新しい世界へと進むLINEの動きが目立ち始めた。
LINEが進めた2018年の挑戦は2019年にどう進化していくのか? LINE社長の出澤剛氏に話を聞いた。
怒濤の発表はあくまで「タイミングの問題」
2018年の発表の中心となったテーマ「Redesign(リデザイン)」。
撮影:小林優多郎
── 2018年後半、LINEは数えきれないほどのプレス発表を行いました。どんな1年でしたか?
出澤剛社長(以下、出澤):いろいろありました。前半(編集注:6月のLINE CONFERENCE)では「Redesign」をテーマにショッピングや決済革命などのサービス、後半(編集注:11月のLINE FinTech Conference)では銀行業参入やスコアリングの話をしました。
2011年からサービスを開始し7年経ったLINEも原点回帰をして、本当に今のユーザーにとっていいものに変えていくことと、まだスマホやインターネットが浸食していないエリアを我々が能動的に変えていく。この2点をRedesignとして、2018年は注力してきました。
とくに金融事業は、足がかりを作れた1年だったと思います。
── 2018年6月以前、LINEの成長を不安視する声もありました。後半の立て続けの発表は意図していたものでしたか?
出澤:例年、6月のCONFERENCEで発表をまとめている影響で、その直前は少しシーンとしていると思います。世の中のトレンドが云々というより、我々は常に新しい取り組みを用意しており、それが発表後、広がっていきました。
ユーザー離れが起きているという話もありましたが、MAU(月間アクティブユーザー)を見てみると、日本国内では常に10%ずつぐらいユーザーが増えている状況でした。なので、(発表や展開の重なりは)単純にタイミングの問題でした。
金融分野は「素早いLINE」が腰を据える価値がある
LINEとみずほフィナンシャルグループは新しい銀行の創設に向け「LINE Bank設立準備株式会社」を立ち上げる。
撮影:小林優多郎
── 2018年で見えてきた課題は?
出澤:LINEはグローバルで7000人以上の社員を抱えており、昔と比べると機動性が失われているところもあります。
そこの機動力をいかにして上げていくか。それが、2019年に解決したいポイントです。
──「素早く開発し、素早く展開。ダメならやめる」がLINEのやり方の1つです。一方で、2018年で勢いづいた金融分野やブロックチェーン分野は、すぐに結果が伴うものではありません。これらの分野にも同様な手法をとるのでしょうか?
出澤:やり方は変わらないですが、金融事業に関しては、より長期的な目線が必要だと考えています。
例えば、シンプルなコンシューマー向けのサービスは、評価のサイクルが相対的に短くなっています。しかし、金融系のサービスは根本の部分だったり、許認可の問題もあり長いスパンで取り組む必要があります。
それだけ、(金融業は)長い時間をかけて投資するに足る、世の中へのインパクトやビジネス的に見込める大きさがあると判断しました。少なくとも3年以上はかけて取り組んでいきます。
「米中デジタル冷戦」は今までも起きていたこと
2018年1月、格安SIMを展開するMVNOのLINEモバイルは、ソフトバンク傘下となった。
出典:LINE
── 2018年12月は「米中デジタル冷戦」のあおりを受け、日本国内での5G(次世代通信規格)導入の遅れの懸念も指摘されています。LINEもこのうねりの影響はあるのでしょうか?
出澤:その点については、世界のすべてのプレイヤーが影響を受けていますよね。
ただ、我々の中では米中の対立といったものは既に2~3年ほど前から起きていたという認識です。
優秀な人材は今まではシリコンバレー、これからは中国に行くかもしれません。人とお金が集まって、さらにデータが不可逆的にいま二極に集中する。今後はなおさらそうなっていきます。
日本からも優秀なエンジニアは海外を目指しつつあります。いまはインターネットのサービス単位の話ですが、数年経ってくるとほとんど国力の問題です。1ユーザーからしてみると便利な世の中かもしれないが、国家単位で見ると基幹となる産業が空洞化していきます。
しかし我々は、それぞれの地域に根ざした新しい価値感をインターネット上でも出せると考えています。
例えば、日本語でのVoice User Interface(声を使った操作体系)は、日本の会社が開発した方が長けているものが生まれる可能性がありますし、金融みたいなところはもともと、ローカルビジネスに寄った部分があります。
このうねりの中に我々は常にいて、何もやらなければ大きいプレイヤーに収れんされていくことは自然に考えればわかります。そこでいかに切り口を考えながらチャレンジしていくか、それがLINEという会社の深い部分のテーマでもあります。
2019年は「動」から「激動」へ、お金の習慣が変わる
2018年が「動」なら、2019年は「激動」になると語る出澤氏。
撮影:林佑樹
── 日本漢字能力検定協会が発表した2018年「今年の漢字」は「災」でした。出澤さんが1つ表すとしたら、2018年はどの漢字にされますか?
出澤:「動」ですかね。インターネット業界自体は動きの速い業界ですが、2018年はさらに加速度がついたイメージです。
── 2019年はどのような文字の年になるでしょうか?
出澤:「動」から「激動」へと変わる年だと思います。
2019年は、決済の領域が世の中で一気に変わっていく年になります。それは、LINEの有無に関わらず、お金のまわりの習慣が大きく変わるでしょう。
例えば、PayPayさんのようなすごいプレイヤーが登場して、競争というよりお互いに認知度が上がっていくでしょう。規制緩和という面でも、消費増税に対するポイントバックや給与支払いがデジタルウォレットへ入るようになる動きがあります。
いまは“現金で”と言っていることが、ピンポイントでガラッと変わる。そのタイミングが2019年もしくは2020年だと思っています。
LINEもそもそも電子メールや他のメッセージングサービスでいいじゃん、と言われていたところからスタートしました。しかし、スマホというフィールドで使いやすいものを定義していきました。そういったことが、金融サービスや決済の分野でも起こしていけるとひしひしと感じています。
(文・小林優多郎、佐藤茂 撮影・林佑樹、小林優多郎 図版・さかいあい)
次回、1月2日は出澤氏が「ガラッと変わる」と言及した決済分野のLINE Payのキーパーソンに直撃します。