「ちょうどいいブス」抱く男と「酔ったらイケる女」目指す女子。それでいいの?

放送前から大炎上したドラマ「ちょうどいいブスのススメ」。タイトルを「人生が楽しくなる幸せの法則」に変えたものの、引き続き炎上中だ。原作は「酔ったらいける女」を目指せと説くが、いや、本当にそれでいいの?

私、誰にとって「ちょうどいい」んですか?

ちょうどいいブスのススメ

「人生が楽しくなる幸せの法則」の番組HP。同局は「主人公たちのポジティブな 試行錯誤を視聴者にお届けしたい」そうだが……。

出典:読売テレビホームページ

「ちょうどいいブスのススメ」(改題後は「人生が楽しくなる幸せの法則」)はお笑い芸人の山﨑ケイさん(相席スタート)の同名エッセイが原作だ。連続ドラマは読売テレビ(日本テレビ系)で2019年1月10日から放送開始予定。

当初の番組ホームページによると、商社で働く「自己表現下手くそブス」「融通利かないブス」「開き直りブス」の3人の女性社員の前に「ちょうどいいブスの神様」こと山﨑ケイさんが現れ、「ちょうどいいブス」になるための手ほどきをするという内容だ。

ドラマの制作が発表されると、ツイッターは荒れに荒れた。ねとらぼの調べによると、ドラマ化が報じられた12月4日から6日までの同ドラマに対する反応の92%が「ネガティブ」なものだったという。

まずはタイトルから連想される「容姿いじり」や「自虐」への批判だ。ありのままの姿を受け入れながら自分の好きなメイク・ファッションを楽しもうという時代の流れに逆行する、日本メディアへの絶望が多かった。

「大多数の女性は自虐ネタを言うことに嫌悪があるんだよ…必要以上に卑下することに対しての嫌悪」

最も多かったのは、女性たちに「ちょうどいいブス」を目指そうとうたうことで得するのは誰なのか、ということだ。

「誰にとってちょうどいいんだろうか? 自尊心がなくモラハラ傾向のある男?

「もう頼むからこれ以上女を呪うなよ、男に対して『自分をちょうどいいブスだと主体的に位置付けて謙虚に生きることで幸せになれるよ』とか言わないでしょ」

「私なんかブスだし美人じゃないし能力ないしなんて言ってたら、お給料が不当に安くてもモラハラやDVされて自分をどんなにすり減らしても、私だから仕方ないって諦めに繋がる。でも自己肯定感が低い女は、それを利用する人達には好都合だから求められるわけ」

メデイアがこうしたメッセージを発する責任は問われるべきだが、一方で、自虐をすることも女性の「生存戦略」だという主張もあった。だが、それは本当に自身で決めたことなのか、そうせざるを得ないのは社会の問題なのにではないか? という問いもまた必要だろう。

「『ちょうどいいブス』なんて称号は女が真実『主体的に』選び取ったものではない、そんな位置を選び取らないと仕事、結婚、あらゆる尺度において楽に生きられないからそうしているだけなのだ…」

「架空のオリジナルストーリー」と言いつつタイトル変更

カップル

ドラマHPからはタイトル変更と同時に、一部「ブス」という表記が「女子」に改められた。

shutterstock/MAHATHIR MOHD YASIN

批判の声を受けてか否か、読売テレビは番組タイトルを「人生が楽しくなる幸せの法則」に変更した。しかし「テーマや内容が問題だったわけで、看板変えればいいという話ではないのだが」「『炎上したんでとりあえず火消ししとくか、仕方ねぇな』っていう何も理解してないオッサンたちの声が聞こえてくる」と、ツイッター上でも引き続き女性たちの怒りは収まらない。

タイトルの変更に合わせてホームページも変わり、当初デカデカと踊っていた「まずは自分が思っている以上に、自分がブスであることを受け入れなさい!」という文字は消えた。

読売テレビにタイトル変更の意図を尋ねると、以下のような回答が返ってきた。

「本ドラマに登場する人物やストーリーは原作には存在せず、山﨑ケイさんとドラマスタッフがその内容・意図をもとに創り上げる架空のオリジナルストーリードラマです。 視聴者の方々によりドラマの内容を理解していただくために、ダイレクトに、より良い、より楽しい積極的な生き方を提案するドラマのコンセプトを生かした方が良いと考えました」(読売テレビ)

同局にはドラマについて「さまざまなご意見が寄せられて」いるそうで、「社内で慎重に検討を重ねながら番組制作を進めている」とのこと。

「主人公たちのポジティブな 試行錯誤を視聴者にお届けしたいと思っております。ドラマを見ていただければ、そのような制作者たちの意図を理解していただけると考えております」(読売テレビ)

内容も変更したのか尋ねたが、明確な回答は得られなかった。

「ちょうどいいブス」とは何なのか

バー

『ちょうどいいブスのススメ』表紙には「モテない美人よりモテるブス」というキャッチコピーが。

shutterstock/Taku

ドラマの原作になっている『ちょうどいいブスのススメ』は、一言でいうと“モテテクニック”を紹介した本だ。

「世の中の女性って、自分のことを『美人じゃないけどブスでもない』ぐらいに思っている人が大多数だと思うんです。でもね、ブスなんですよ、だいたい(笑)。中にはブスなのにいい女ぶってる人すらいますよね。(中略)

勘違いせずにちゃんと自分の立場をわきまえるって重要なことです」(『ちょうどいいブスのススメ』より)

「ブスでトイレットペーパーを換えないなんていうのは、人として終わってる」そうで、同書には「最低限、女性としての身だしなみは整える」「下ネタで笑いをとり、男性との距離を上手に縮める」など、「謙虚ないい女」と男性に思わせるためのテクニックが満載だ。

そもそも「ちょうどいいブス」とは何なのか?同書に繰り返し出てくる定義は「酔ったらいける女性のこと」だ。

同書では30〜40代の男性100人に「今まで関係を持った女性、美人とブスの割合は何対何でしたか?」と尋ねている。最も多かったのは「美人2:ブス8」で4割強だったそうで、理由は「とりあえず間口が広いのがブスだから、飲んだときとかに気づけば性欲に負けてしまった」から。この調査を山﨑さんは「“酔ったらいける”論理を証明する結果」と結び、「僕たちがちょうどいいブスを抱いた理由」という男性3人のエピソードを紹介している。

「酔ったらいける女」を目指す上で、特に重要なのがお酒の席だそう。

居酒屋で男性から「何飲む?」と聞かれたら「何飲む?」と聞き返し、お酒をあまり飲めない女性も「『ウーロン茶ください』などと打ち止め制限はしてはいけない男性が飲み続けている限りは飲み続け、「大丈夫? ソフトドリンクにする?」と聞かれても、「一緒に飲むの楽しいから、ついていきたいんです!」とアピールした方がいいという。

山﨑さんはこれを「お酒が飲める従順な子犬作戦」と名付けている。

男性視点の広告を制限する動き

テレビ朝日

「ブスだってI LOVE YOU」の1シーン。

出典:テレビ朝日ホームページ

同書を読んだ感想は「ヤバい」の一言に尽きる。徹底して「男性目線」で女性の行動を縛りつけるのは女性の自己肯定感や自尊心を奪うことに他ならないし、特にお酒の席についてのアドバイスは危険だ。無理して飲む必要なんてないと声を大にして言いたい。

同ドラマや原作がなぜここまで批判されるのか、それは「見た目」で優劣をつけるのみならず、その序列に従って「生き方」まで制限しろと押し付けてくるからだ。

イギリスではジェンダーステレオタイプや若い女性の性だけをことさら強調する広告、身体を変えることで恋愛がうまくいくことを示唆するような広告が2019年6月から禁止になると報じられている。他者、特に男性からの評価で自分をはかる価値観を脱しようというのが世界の流れだ。

翻って日本。2018年12月27日に放送された「ブスだってI LOVE YOU」(テレビ朝日系)は、わかりやすく言うと“美人とブスの価値観が逆転した世界”を描いたドラマだ。自身がブスだと悩んでいた主人公は、急に美人扱いされてしみじみと言う。

「やはり、見た目で人生は決まる。美人はこんなにイージーモードなのだ」

だって、レストランの会計が足りなくても店員のほっぺにキスをしたらOKなのだから。紆余曲折を経ても「やっぱり見た目がすべて」とでも言いたげなこのドラマは、番組ホームページによると「平成最後の年の瀬に、新時代を背負っていくにふさわしい若手クリエイターたちとタッグを組んだ2つの超・挑戦的ドラマ 」らしい。

これ、テレビ・ネットでいいの?

ブスTV

おぎやはぎの『ブス』テレビ、「メリークリスブス!Hなブスサンタがやってくる♡」回より

出典:AbemaTV

AbemaTV(アベマTV)のトークバラエティ「おぎやはぎの『ブス』テレビ」(毎週月曜日)では2018年12月24日放送回で「クリスマスイヴに見たブス」というテーマで街頭インタビューを行い、こんな男子の声を紹介していた。

「予定ないのをバイトのせいにする勘違い系ブス。おかんと2人でケーキとかちゃうん? ブスはコタツで寝とけって感じ」(男子)

「彼女の家でクリスマスを過ごして、ヤッた瞬間冷めた。その瞬間からブス。 起きたときの(彼女の)目が貯金箱みたいな細さで、ほんとブスだった。もう会わない」(男子)

発言者の顔が見えないように撮影していたのが、つくづく残念だと思った。

これが2018年のテレビ、ネットテレビの現状だ。

「ちょうどいいブスのススメ」、改め「人生が楽しくなる幸せの法則」の話に戻そう。

ホームページによると、山﨑ケイさん演じるちょうどいいブスの神様は「『ちょうどいいブス』を世に増やすキャンペーン中」だそう。2019年にこんなキャンペーンがマスメディアを通じて始まってしまうことに暗澹(あんたん)たる思いだが、誰が何と言おうと私たちは可愛いし、最高だ。

(文・竹下郁子)

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