Tik Tokは無理でも、インスタなら中年の入る余地あり?
Worawee Meepian,shutterstock
筆者は2018年秋、社会人向け大学院で情報発信をテーマにした講義を担当しました。一昔前なら、情報発信の手段と言えばマスメディアへの情報提供や広告出稿でしたが、昨今はTwitter、インスタグラムなどSNSが大きな力を持ち、瞬く間に流行や炎上を巻き起こします。
講義を履修してくれた社会人学生の中心層は40代、50代のおじさまたちでした。Twitterとインスタの利用状況を尋ねたところ、アカウント所持率は2割に届きませんでした。
彼らはSNSの影響力について認識し、ビジネスでも活用しなければ、とは思っていましたが、これまで何もしてこなかったし、相当の圧力がないとこの先もやらないでしょう。そこで筆者は単位取得の条件として、以下の課題を設定しました。
「SNSのアカウントを開設(ただし、Facebookは除く)。1人でも多くのフォロワーを獲得してください」
「期限は1カ月。最終授業で、獲得フォロワー数と実行した施策、効果を口頭で発表し、レポートにまとめてください」
シニア相手の寡黙な鍼灸師が、半月でフォロワー648人
佐藤さんのアカウントのプロフィール(12月31日現在)。40代のおじさんであることは明かしてますが、意外におじさんっぽさはありません。
最終講義の日、皆さんの成果発表を行いました。Twitter、インスタなどSNSでアカウントをつくり、1カ月後で獲得したフォロワー数は平均15人ほど……。息子の友達に頼んでフォローしてもらった50代の男性。自分と同じ姓のアカウントをフォローしまくり、フォローバックを期待したアラフォー男性(ちなみに、1000人フォローしてフォローを返してくれたのは約30人だったそうです)。発表では皆さん、“敗戦の弁”を語っていたので、想像以上に苦戦したのでしょう。
しかし最後に発表を行った佐藤敏夫さん(仮名)は、何とアカウント開設の10月20日から11月8日までの半月ちょっとで648人のフォロワーを獲得していました。佐藤さんはその後もインスタを続け、12月5日にはフォロワーが1000人を突破しました。しかも、これまで投稿した写真は16枚だけです。
佐藤さんは都内で鍼灸整骨院を経営する45歳の独身男性。普段接する人は、腰痛やひざ痛の治療に訪れるシニアが中心で、自分を「人見知り」と分析するシャイな性格でもあり、これまでSNSとはほとんど縁がない生活をしていました。
一体どんな手法をとったのか(もちろんフォロワーを買うようなゲスなこともしていません)、誰でも真似できるものなのか、詳細に聞いてみました。佐藤さんに許可をもらった上で、その戦略を紹介させてもらいます。
アイコンとプロフィールで安心感創出
1日100人ずつこれらのアカウントをフォローするだけ。結果は?
「SNSのフォロワーを増やすというお題に対して、最初に考えたのは企画物だったんですよ。例えば、山手線一周の駅の周りの何か特徴的なモノの写真を撮るとか、神社仏閣を巡り、各所でもらったご朱印をアップするとか。でも、物理的にそんな時間がなく、内容が偏るとフォロワーの範囲も限定されるかもしれないと、断念しました」
実は今回の講義でも、多くの社会人学生が、フォロワーを思うように増やせなかった理由に、「時間がない」「投稿するようなネタがない」を挙げました。若い人たちが息をするように使っているSNSも、時間がないうえに、周囲に同じSNSをやっている人が少ないおじさんたちにとっては、かなりハードルが高いツールなのです(Facebookを除く)。
そこで、佐藤さんはインターネットなどで公開されているインスタ運用のノウハウに一通り目を通し、短い時間でフォロワーを効率的に増やすため、「フォローバック(フォローを返す)すると公言しているアカウントを、1日100人ずつフォローする」作戦を実行することにしました。
また、「フォローされたインスタグラマーはほぼ必ず相手のコメント欄と投稿されている写真をチェックし、フォローバック、スルー、ブロックなどその先の行動を決める」と仮説を立て、手始めに「万人受けし、安心感につながる」アイコン(猫)、趣味や世代など自分の属性をある程度公開したプロフィールをアップし、写真を数枚投稿しました。
「リムったらリムります」に???
佐藤さんは日々のフォロワー数の推移と気づき、感想を記録していました。最初はフォロー数がフォロワー数を圧倒的に上回っていましたが、その差は少しずつ縮小していきました。
アカウント(nono37jose)を開設した10月20日夜、佐藤さんはまず、「#フォロー100%」というようなハッシュタグを検索して、ヒットされたアカウントを100件フォローしました。翌日も、その翌日も、この地味な作業を繰り返す中で、相手のプロフィールでちょくちょく見かける「リムったらリムります」という謎の文面に気づきました。
「リムとはフォローを解除するということで、相手がフォローをやめたら自分も外しますよという宣言ですね。フォロワーを増やすことだけを目的に、相互フォローしあったらすぐに自分だけフォロー解除するアカウントがあるんですよ。相手のフォロワー稼ぎだけに利用されないための防御策です」
佐藤さんも、専用アプリで相互フォロー相手に解除されたら通知が来るように設定し、解除し返すようにしました。
「#follow」検索し外国人と相互フォロー
相互フォローしてくれそうなアカウントを検索し、地道にフォロワーを獲得していった佐藤さんですが、5日目に入ると早くも、めぼしきアカウントをフォローし尽くしてしまったそうです。
次に目を付けたのは外国人。「#follow」で検索して他国の人たちをフォローするのです。そうしているうちに、「#fff」「#f4f」「#lfl」「#l4l」といったハッシュタグの存在にも気づきました。fff (f4f)はfollow for followで相互フォロー歓迎の意味。lfl (l4l)はlike for like でいいねし合いましょうという意味合いのようです。
フォロワーの数=信頼
佐藤さんによると、フォロワーが200人を超えたころから、見ず知らずの人からのフォローされるようになったそうです。投稿した写真への「いいね」も増えていきます。ちなみに、12月に入ってからは忙しくてインスタアカウントをほぼ放置中だそうですが、フォロワーはなだらかに増えているそうです。
「フォロワーの数が一定数あると、それだけで信頼感や価値が高まるみたいで、こちらがフォローしていない人からもフォローされるようになっていきました。また、フォローしている人の数がフォロワーよりも多いと、相手もフォローバックを期待してフォローしてくれるのかもしれません」
写真の統一感よりフォロワーの数
佐藤さんは“インスタチャレンジ”を始める前に、ネットで一通りノウハウをチェックしましたが、その中には普通の中年には簡単ではないもの、面倒なものもたくさんありました。例えば、「投稿する写真には統一感を」「フィルターはなるだけ同じものを」といたアドバイスです。
しかし、佐藤さんのプロフィールに並ぶ写真は旅先の風景、動物、コンビニのサラダ、ただのテレビの画面……と、実に統一感がありません(フィルターも使っている気配がない)。要するに普通の日常記録です。それでも、1枚あたりのいいねは100件近くついています。
佐藤さんは、「セルフブランディングのためには統一感出した方がいいんでしょうけど、お付き合いでいいねしてくれる人も多いし、フォローついでに数枚にいいねしてくれる人もいるから、結局はフォロワーの数がものを言うと感じます」と話す。それでも、友人からもらった「インスタ映えするドーナツ」を投稿したら、いつもの1.5倍の「いいね」がついたため、「インスタ映え」の威力は侮れないという実感もあるとのこと。
また、佐藤さんは、他の人の投稿に「いいね」は一切つけず、相手が自分の写真にコメントしてくれた時には「いいね」を返すだけで、返信はしませんでした。フォロワーとの交流はあるに越したことはないですが、なくてもデメリットは感じなかったそうです。
相互フォローしてくれるのは中学生
インスタ映えするスポットに出かけるのも、中年にはハードルが高いのです。
Sorbis,shutterstock
また、佐藤さんは「必ずフォローバックします」と宣言しているアカウントに中学生が多いことを発見しました。フォローを返してくれそうな人をフォローしていった結果、「私のタイムラインは、中学生と外国人の投稿でいっぱいです。45歳の自分と中学生だと親子の差なんですが、インスタの世界では世代の垣根が低いと感じます。犯罪に巻き込まれないか、心配にもなりますけどね」という。
ちなみに、1日アカウントを100件フォローするために費やした時間は平均して30分ほど。課題のためにフォロワーを増やそうとした佐藤さんにとっては、「かなり地味な作業」だったそうですが、インスタ映えする場所に行って、構図をあれこれ考えて撮影し、編集する手間を考えると、効率的かもしれません。
100%相互フォローしてくれるアカウントが、情報拡散力としてどの程度の価値があるのか、その問いについて佐藤さんはこう言っています。
「やってみて分かったのですが、必ずフォローバックしてくれる人はまめですし、いいねもつけてくれるので、結果的に自分の投稿を見てもらう範囲は広がります。フォロワーの数は、SNSの世界では信頼を担保しますしね」
(文・浦上早苗)