働く女性の世代間格差はなぜ生まれる?私たちは誰に罪悪感を持っているのか

将来不安からの共働き志向、企業の子育てとの両立支援制度の整備などを背景に、女性が仕事を続けることが当たり前になってきた。企業も時短勤務やリモートワークなど多様な働き方を採用し始めている。

働く女性

撮影:今村拓馬

だが、いまだ働く女性の不安は消えない。消えるどころか、20代ではますます大きくなっている印象すらあるし、その悩みの内容も変化してきている。世代による悩みギャップは、むしろ働く女性たちの問題の解決を複雑にもしている。

働く女性の世代間格差はなぜ生まれるのか。『「育休世代」のジレンマ』著者でシンガポールを拠点に活動するジャーナリスト、中野円佳さんと『働く女子と罪悪感』を出版したBusiness Insider Japan統括編集長の浜田敬子が対談。司会は普段から働く女性の問題を取材している副編集長の滝川麻衣子が担当。本音全開のトークを繰り広げた。

書けなかった、夫への罪悪感

中野円佳さん

シンガポールから帰国したタイミングで実現した中野円佳さん(左)とBusiness Insier Japan統括編集長、浜田敬子の対談。働く女性の世代間ギャップはなぜ生まれるのか、徹底的に語り合った。

滝川麻衣子(以下、滝川):浜田が男女雇用機会均等法世代、司会の私が氷河期世代、中野さんが育休世代の当事者として、働くことに対する感覚の世代間の違いがなぜ生まれるのかを語っていきたいと思います。私はふだんから20代の女性たちも取材しているので、彼女たちの考えも代弁できればと思っています。

育休世代とは:1999年の改正均等法、2001年の育児・介護休業法の改正を経て、女性の総合職が増え、制度も整備されてから入社した世代。(中野さんの著書『「育休世代」のジレンマ』より)

中野円佳(以下、中野):その前に、浜田さんの『働く女子と罪悪感』を読んで、私から浜田さんへの質問というか、ツッコミがあるのですが……。語弊を恐れずに言えば、何をそんなに気にしているんだろうって。

本の中に、働くことに対する「罪悪感」や後ろめたさ、申し訳なさ、自信のなさのようなものが度々見え隠れしているのですが、浜田さんのように仕事を楽しくやってきたであろう方がそんなに気にされているのが意外でした。読後感として、少し解せないというか、思った以上に気にされているなと思いました。

浜田敬子(以下、浜田):本には書けなかったことが実はあるんです。夫とのこと。多分、それが私が一番気にしていること。自分の中でもうまく消化できてないから書けなかった。子どもができてから、母・妻といった役割が乗っかってくる。自分がその役割を十分にできていないことを夫に許されていないのではという気持ちがあるんですね。相手がどう思っているかはわからないのだけど。

中野さんはどうですか?中野さんも夫との関係はあんまり語ってないですよね。

働く男性

働く女性を取り巻く環境は、平成の30年間で大きく変わった。

撮影:今村拓馬

中野:夫には夫の人間関係や仕事があるので、書きにくいですよね。我が家は産後クライシスのようなものもご多分に漏れず経験してますし、「もう離婚したい!」と思う局面もありましたけど、今はわりと落ち着いているかなという感じです。私たちは同じ業界で同じ競争をする組織にいて、私が一回そこから抜けた形になったことで、夫との関係はちょっと改善した気がします。浜田さんはずっと最前線にいるから難しいのかも。

浜田:中野さんのキャリアを中断させてしまったという負い目のようなものは、彼にはないですか?

中野:よくも悪くもないと思いますよ。夫は7つ上で、組織の中で優先されるキャリアは彼の方という感じだったのに対して、私のキャリアは浅くて、組織内で役割やポストが見えていたわけではなかったので。一方で、私の方は自分の名前で本も出していたので、組織の中でというよりは自分の名前で立つという方向に進んでいき、夫はそれを純粋に応援してくれていると感じます。

浜田:時間の奪い合いもなくなりました?多くの女性たちの話を聞いていると、夫は自由に働いていい、どんどん昇進もしてもいい、だけど家事育児はやってくれ、自分(夫)の時間は奪わないでと言われると。それじゃ、なかなか思い切りは働けない。

中野:それは我が家もいまだにあります。今夫の海外赴任に帯同する形でシンガポールにいるのですが、残業に対する調査研究などから海外に行ったら日本のようには働かないだろうと思っていたのに、いざ来てみたら、夫は出張だらけで不在がち。子どもが2人休みで家にいるときに私が胃腸炎になったりして、私が精神的にまいり始めていた時はかなり険悪になっていました。

夫が現地の仕事に慣れて落ち着いてくるにしたがって、夫婦間でコミュニケーションがとれるようになって改善しましたが、最初の状態がずっと続くと、こっちも辛かったと思います。

中野円佳さん

「何をそんなに気にしているのか」という中野さん(左)の問いかけに、統括編集長の浜田が答えたのは、夫のこと。

浜田:私は本の中で氷河期世代の後輩が夫にすごく遠慮していると書きました。みんななぜここまで全部自分で家事も育児も担っているんだろうと。

最近ようやく分かってきたのは、均等法世代と比べて、氷河期世代は子どもを自分でみたいと思う人が多いということ。均等法世代は子どもや子育てがあまり得意ではない、それよりも仕事が好きと割り切れていたから、シッターや自分の親に頼ることに躊躇しなかった。でも今は子育てしたい人も働き続けるようになってきた。それなのに夫との関係はあんまり変わっていない。

中野:そうですね。だからこそ、本で浜田さんが「子育てが苦手で子どもは他の人が無事に育ててくれればいいです」みたいな割り切り方をスパッと言ってくれてもいいのになと思ったんですよ。それが意外と「そんな割り切り方しちゃだめ?」と誰かに確認しているように見える。

子どもへの罪悪感

子育て

対談では、子どもや夫への「罪悪感」もテーマに。

撮影:今村拓馬

浜田:私は子どもに関しては、ある程度割り切っているんだと思います。実はあんまり子どもには罪悪感はないです。

滝川:中野さんはないですか?子どもへの罪悪感。

中野:上の子が3歳くらいの時に下の子を妊娠、転職、子どもの転園などが重なって、上の子が荒れて手をつけられない状態になりました。だましだまし、1年くらいその状態を続けていたんですけど、私の生活も子どもの荒れ具合も限界だなっていう時に、夫のシンガポール赴任が決まったので、もう即行こうと思ったんですよ。

浜田:何かを変えたい、と。

中野円佳さん

「私の生活も子どものあれ具合も限界のときに、シンガポール行きを決めた」と、中野さん。

中野:いったん子どもからのSOSが出て、それに対応できたことはよかったという感じです。その時のことを思い出すと、子どもに対して罪悪感というか申し訳なかった気持ちはありますが、それは変えられたから、いまはバランス的には満足していますね。

浜田:私は早くから自分がどれだけ仕事が好きか子どもにきちんと話しておけば良かったと反省してます。きちんと向き合って話すことなく、ツギハギで子どもと接してきてしまったので。たとえ子どもに「あまり家にいないくせに」とか反抗されても、きちんと根っこのところで一度伝えているかどうかは大事だなと思っていて。

中野:読みながら思ったのは、浜田さんは自分のやり方を人に押し付けたくはないとおっしゃってますよね。そういうスタンスには納得感があるのに、意外とご自身がどうあるかっていうことに対して周りの目を気にしているのがすごく気になります。

浜田:やっぱり夫の存在かなあ。私、世間にどう思われるかはあまり関心がないんだけど、一番近い人に理解されないのでは?というのはちょっと苦しいんですよね。

「そこまで仕事に賭ける意味がわからない」という20代

20代の女性 働き方

雇用均等法第一世代、氷河期、育休世代そして20代と、女性が仕事や生活に抱く不安や悩みは変化しつつある。

撮影:今村拓馬

滝川:いま私が取材する20代の人たちには、「そこまで仕事に賭ける意味が分からない」っていう声も結構あります。

浜田:女性が働くことが一般的になったんだと思います。仕事が大好きな女性だけが働いていた時代から、みんなが続けようと思えば仕事を続けられる時代に変わった。だからこそ、いまは仕事が大好きな人の特殊性がより強く映るという、逆説的な世の中なのでは。

滝川:20代は男性も含めて、仕事に対するスタンスがもうちょっとゆるくて、「大変すぎる」と仕事をネガティブなものとして捉えてしまう。よくも悪くも悲壮感を持って戦うとか、勝ち取るみたいな気概があんまりなく。だから、上の世代の苦労を見せられると不安になって、そうならないようにいろいろ保険をかけて、プランニングして武装している感じがします。

浜田:早婚もそうですよね。おそらく仕事とのセーフティネットとして早く結婚するのかもしれない。

滝川:選択肢も自由度も高まっているのに、より保守的になっている感じがあります。なぜそうなのかと聞くと、働き続けてきた女性像についてネガティブな情報が多すぎると。

中野円佳さん

「そこまで仕事に賭ける意味がわからない」という20代に、中野さん(左)、統括編集長の浜田が思うこととは。

浜田:今回の本のタイトルに使った「罪悪感」という言葉に「分かります」と反応するのは、30代後半以上の人。20代にはタイトルを見ただけで「いや、いいです」と言った人もいると聞いてショックでした。「そんなに罪悪感を持たなくてもいいよ」という意味を込めたつもりが、やっぱり大変な部分ばかりが記憶に残ってしまう。

取材などを通じて、20代女子の悲壮感がより強まっていると感じています。生き急いでいる感じ。ライフデザインの情報が行き届きすぎていて、何としても30歳までに出産したい。そのために25歳までに結婚、それに合わせてキャリアも逆算する。

背景としては、キャリア教育の弊害もあるのでは、と思っています。「こうならねばならない」という刷り込みが強すぎて、キャリアの正しい道は一つしかないと思っている感じです。

中野:ちょうど私が大学に入ったころにキャリア教育が必要だと言われ始め、キャリア教育を担うNPOを手伝ったりもしたんですが、学生の内面からやりたいことを引き出して、それを目標にさせて走らせるというのが、果たしていいのかなと疑問に思っていました。「やりたいこと」につながるような原体験が皆にあるわけではないし、学生の時点で一つに決めた方がいいというわけでもないじゃないですか。

滝川:取材で20代の男性から「僕らは検索世代だから」と言われました。最短時間、最短距離で正解を求めるのに慣れているから、失敗や回り道を時間の無駄に感じる、と。だからその計画から外れた時の終わった感がすごい。最初の想定から外れた時の失敗、挫折感が大きくて、「もっとどうにでもなるよ」と、上の世代、その道を歩んできた人たちが発信すべき時なのかなと思いますね。

ロールモデルはいらない

結婚

就活も、結婚も、出産も、確定を急いでいるように見える20代の理由とは。

撮影:今村拓馬

中野:女性活躍の文脈で感じることとして、シンガポールではそもそも「ロールモデルがいる、いない」という話を日本ほど聞かないように感じます。

大学を出て、就職して、その企業で上がっていくのかどうか、というのをベースにした日本の単線型のキャリアデザインやライフデザインだと苦しくなるし、そこから外れるのも怖くなる。でも、ちょっと世界に目を向ければ、そもそもその場で決めていくしかないし、ロールモデルなんてもともと求めないだろうなという気はします。

浜田さんが30代前半の女性から「上の世代が頑張りすぎるからしんどいです」と言われたというシーンに、なぜ浜田さん世代の生き方を自分ごとにしちゃうのかなと。そういう同質性みたいなものはすごく感じました。

浜田:「私たちはこうやってきたから、こうやりなさい」と下の世代に絶対に求めてはいけないと意識的に自制してきたつもりですが、それでも20歳くらい下の世代にもプレッシャーになっていたのは、ちょっとショックでした。

滝川:30代前半ぐらいまでは仕事への感覚がそんなに乖離(かいり)していない気がします。均等法世代って30代、40代からは確かに頑張りすぎた人たちに見えて、あんなに戦えないって思うんですけど、もっと下の世代から見ると遠すぎて自分ごとにすらしていない感じです。むしろ行き当たりばったりで自由に見える部分もある。情熱があって自由でパワフル。ある意味、“珍獣”みたいな感じになっていますよ。

一同:(爆笑)

年齢や人生のフェーズによって違う

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育休世代の人たちは、企業も柔軟になり、子どもも成長する中で、悩みの質も変わりつつあるという。

Shutterstock.com

中野:ちょうどいま、育休世代の人たちに再インタビューをしようと思っています。意外とみんな、会社を辞めてないですね。子どもも成長して企業側も柔軟になってきているので、気持ちとして上がってきている感じはあります。

でも一方で悩みは、やっぱり子どもの教育問題や子どもと過ごす時間の確保。子どもが小学生になってくると、勉強ができていないとか、宿題を見てあげる時間がない、夏休みをどう過ごすか、とか違う悩みが出てきている。

以前は、やりがいのある仕事と時間、残業ができないという仕事とのバランスで苦しんでいたけど、これからは子どもの教育を夫と自分のどちらがやるのか、どこまで親がやらないといけないのかというところで悩むのかなと感じています。

浜田:先日、朝日新聞時代の先輩、稲垣えみ子さんと公開対談したんですけど、むしろ私たち世代は稲垣さんの本(とくに『魂の退社』)に共感する人が多いなと思いました。早期退職といった言葉も現実味を持って響く。もうそろそろ会社という存在との根本の付き合い方を見直すために、生活スタイルを見直す。人のタイプと年齢、人生のフェーズによって、どこに共感するかは相当違うなと感じましたね。

育休世代の人もいま、やっと会社との距離感がうまくつけられるようになってきた。そしてここから管理職になるか、さらにその先に進むかどうかとなった時にもう一度会社との距離を迷う時期が来るんだと思います。

滝川:今の20代はその悩む時期が早い。組織に対する帰属意識が薄くて、2、3年で会社を辞めようとしている。でも、その年数でどんなキャリアが身につくのかなという疑問もあります。キャリアを見直したり、組織を離れたりするタイミングが早くなっているのは20代の特徴だと思います。

中野:ネガティブな状況を抜け出すことは大事なので、ブラック企業に見切りをつけて辞めること自体はいいと思います。若いうちにいろいろな組織を経験しておくのは、そこから柔軟なやり方を見いだせる可能性が大企業にいるよりもあると思いますし。10年会社にいたら確実に何か身につくかっていうと、余計なものも身についたりするじゃないですか(笑)。

叩かれることを恐れずに自分語りを

中野円佳さん

「日本はインフラ的な部分で足りないものも多いから、その奪い合いみたいになっているのでは」と話す、中野さん。

滝川:ある女性起業家の記事で、「お手伝いさんと一緒に子どもがおやつを作っています」と書かれて、叩かれたという話がありました。「お金があるからできるんだ」「お手伝い雇う金があるなら、(仕事するより)もっと子どもと過ごす時間をつくってやれ」とか。

中野:悪循環ですよね。それでますます語らなくなるし。

浜田:でも、ある程度もう何を言われてもいいと開き直っていかないと、状況は全然改善されないと思う。私は時間のやりくりで本当に大変なら、週1のお掃除を外注したら?と後輩には勧めてます。もっと大っぴらにみんなが罪悪感なく使えるようになればと思います。

中野:日本はインフラ的な部分で足りないものも多いから、その奪い合いみたいになっていて、それを取りにいけない人が妬む構造もあるのかなと思います。保育園問題もそうで、パイがいっぱいあればみんなで使えるのに、ちっちゃいパイを奪い合うから対立関係が生じる。

炎上問題もどうにかならないのかなと思います。東洋経済オンラインで書いている連載「専業主婦前提社会」の記事コメントを読んでいると、「こんな女と結婚したくない」というものもあるんです。これはすごく面白いと思いました。みんなに「結婚したい」と思われることに私自身が価値を見出してないのに、そうじゃないって否定することが私のダメージになると相手は思っているんです(笑)。

滝川:全方位外交の人、みんなに批判されない人っていうのが理想になっているところがありますよね。

浜田:だから、結局みんなが何も言わなくなって、働く女性の実態が伝わらなくなり、周辺の情報ばかりが伝わるから、若い世代が不安になる。細かい解決策が伝わらず、漠とした不安しか伝わらない。もう少しみんながフランクに私の場合はこうだったと語られるようになるといいですよね。個人のストーリーとしていろんな人が自分の経験を語ることが、若い世代に多くの選択肢と希望を与えてくれるんだと思います。

(構成・岩本恵美、写真・竹井俊晴)

中野円佳(なかの・まどか):1984年生まれ。東京大学を卒業後、日本経済新聞社に入社。育休中に通った立命館大学大学院時代の修士論文をもとに2014年9月『「育休世代」のジレンマ』を出版。厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」委員などを務める。2017年4月よりシンガポール在住フリーランスで、東京大学大学院博士課程在籍。東大ママ門、海外×キャリア×ママサロンなどを立ち上げる。2児の母。

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