メガバンク辞めた僕らが銀行にできること—— SMBCベンチャー会に現役幹部も参加

川元浩嗣さん

SMBCベンチャー会の発起人の一人、川元浩嗣さん。三井住友銀行出身者らが、曲がり角を迎えたメガバンクのために立ち上がるという。その理由とは。

安定、高収入の勤務先とされてきたメガバンクも、AIやフィンテックの登場で先行きに危機感をもつ人が増えている。若手を中心に人材流出が深刻化しているが、とあるメガバンクでは、出ていった元銀行員の起業家やベンチャー社員たちが、現役の銀行員とタッグを組んで、「時代の変化に翻弄されるメガバンクを変えたい」と動き出した。

年功序列の大企業では、時として“裏切り者扱い”されかねない「元社員」が、それでも古巣のために動き出す。

辞めるのが大変な組織

2016年10月の小雨の降る夜、月額会員制コミュ二ティーを運営する株式会社Mi6代表の川元浩嗣さん(35)は、三井住友銀行(SMBC)時代の同期の齋藤健司さん(35)と、東京・六本木の居酒屋で向かい合っていた。

「辞めるのは、本当に大変だった」

そう話す齋藤さんは当時、2006年に入行した三井住友銀行を辞めて、ITベンチャーのVISITS Technologiesで働き始めたばかり。そもそも銀行は、辞める人間に厳しい空気がある。その上、銀行員のエリートコースともいえる人事部にいた齋藤さんは本来、採用する立場でもあった。風当たりも相当、強かった。

川元さん

メガバンク離れとされる現状に、辞めた人間の心境は複雑だと話す、川元さん。

一方、同期入行の川元さんは、8年半の銀行員時代、都心の花形とされる法人営業部で、大口顧客を相手とする営業を担当。その後、ベンチャーキャピタル部門を経て、思うところあって2015年に起業した身だ。

川元さん自身は銀行を辞める時に「周囲に応援してもらえた」と感じているが、同時に、それがレアケースであることを痛感していた。

退職交渉が難航してすり減る人、退職をめぐるやり取りで互いに喧嘩腰になり「これで縁が切れてしまった」と感じる人など、銀行という業界で、辞める時のハレーションのエピソードは事欠かない。

ただ「それでもメガバンクを出た人間は、育ててくれたことに感謝しているし、何かをしたいと感じている人は多いと思います」(川元さん)。

「何かをしたい」とは何なのか ——。

隣で飲んでいるおじさんが頭取という場

川元さんは起業家として仕事をする中で、メガバンク出身者たちの層の厚さを実感していた。

齋藤さんも銀行人事にいたときから「今の時代、いかにいい人材を確保し続けられるかが、銀行の未来を左右する。それには、辞めた人間が元いた組織といい関係を築き、それがまた人を集めるという循環をつくれないか」という、強い気持ちがあった。

そんなことを元同期同士で話すうちに、「駆け出しの起業家が、隣で飲んでいる年長者にビジョンを語ったら、『応援するよ!』と言われて、それが実は銀行の頭取だった……。というような(銀行の中の人と銀行出身の起業家らが)フラットに交流できる場をつくれないか。齋藤と二人で意気投合したのが始まりです」(川元さん)。

そうして2016年秋、同じメガバンクを辞めた同期2人で立ち上げたのが、三井住友銀行(SMBC)出身者が集まる、SMBCベンチャー会だ。

「メガバンク離れ」という風潮に思うこと

メガバンク

この1、2年で、メガバンクから転職する若手が急増している。

転職市場が活況となる中、近年、メガバンク出身の転職希望者が増えている。「たとえ年収が下がっても、大手金融からスタートアップへ転職していく」といった声が、複数の転職エージェントで聞かれる。

マイナス金利の長期化によるメガバンクの構造不況に加え、AI導入で「仕事が将来なくなるのでは」といった不安、さらには銀行が後手に回っているフィンテックの台頭といった、複数の要素が絡み合い、将来性への危機感が高まっているという。

そうした先行き不安は、就活人気ランキングで上位からの転落にも表れている。就活生からは「銀行は終わってる」という声すら出る。

ただ、こうした「メガバンク離れ」「銀行叩き」ともいえる風潮に対し「メガバンク出身者たちは、複雑な思いを抱いている」と、川元さんは言う。

「正直、寂しい気持ちがあります。銀行の中には優秀な人たち、熱い思いでがんばっている同僚たちがいますから」(川元さん)

「今でも自分はSMBCがなければ存在し得ないし、ここまで成長することもなかった。自分と同じように心の底では銀行に感謝の気持ちを持っていて、どんな形であれ『恩返しをしたい』と思っている人は少なくない」(齋藤さん)

SMBCベンチャー会は、そうした思いを抱く人たちが徐々に集まり、設立から2年あまりで現在、約140人が在籍。2カ月に1度の交流会の形で続けられ、議論や情報交換の場となっている。

“卒業生”が銀行にできることとは

夕暮れを歩く人。

辞める時にいろいろあったとしても、出身者が口にするのは「感謝」だ。

そこで聞かれるSMBC卒業生たちの声は、熱く切実だ。多くが「感謝」を口にする。

「社会人のイロハを教えてくれた銀行には恩を感じている。SMBCを卒業してチャレンジしている人を裏切り者と考えるのではなく、銀行では身につかない知識やスキルをもった人財と捉えてほしい。会が銀行の視野を広げるきっかけになれば」(オンライン決済サ−ビスのStripe勤務、千綿開道さん)

「外から見ると、銀行の組織体制、マネジメント、世の中の動きに対する理解は遅れている。恩義を感じているからこそ、何か力になりたい」(採用支援のワンキャリア、寺口浩大さん)

次の銀行の姿を描いているのも特徴だ。

「ベンチャー企業と銀行は、互いの苦手を補完しながら、刺激を与え合っていくことで、社会課題解決や経済活性化の近道になるはず」(クラウド会計のfreee勤務、金子郁代さん)

「SMBCはもう一度新卒で就活するとしても有力な選択肢。(時代を動かすサービスを生み出す人材を輩出した米企業の)ペイパルマフィアならぬ『SMBCマフィア』がベンチャー界を盛り立てることで、SMBCブランドも上げることになり、恩返しになる」(スポーツフィールド取締役CFO、永井淳平さん)

SMBCベンチャー会で注目すべきは、単なる卒業生の会にとどまらず、30〜40人の現役銀行員が加わり、今では役員や部長クラスの現役幹部も顔を出すようになっていることだ。

お互いを役職ではなく「さんづけ」で呼ぶなど「あくまで肩書を外して一人の人間として参加することが条件」(川元さん)というフラットな意見交換の場をキープしているという。

男性の手元

50代の現役行員の男性。SMBCベンチャー会の特徴は、年代を越えて現役行員も参加していること。

「銀行に30年いた僕らと、今の若手の銀行員とでは見ているものが全然、違ってきている」

設立初期から、川元さん、齋藤さんと共に会を運営し、SMBC出身者と現役行員の橋渡し役となってきた、50代のSMBC行員の男性は言う。

「残念ながら今の銀行には、閉塞感がある。若手が理想と現実のジレンマに悩み、年収もキャリアもかなぐり捨てて、外に出る時代です。ただ、そうした卒業生たちと出会う中で、(銀行の)中にいる自分が勇気をもらったのも事実です」(50代のSMBC行員男性)

銀行が人材輩出企業となる日

2019年1月9日、川元さんたちが立ち上げたSMBCベンチャー会の13回目の集まりには、これまでで最大規模のSMBC出身の起業家らが集まる。現役SMBC行員や幹部も、プライベートの立場で参加する。これまで内々でやってきた活動も、2019年は外へ発信していくつもりだ。

その視線の先にあるのは、「銀行を人材輩出企業にするために、外から何かできないか」という一つの大きなテーマだという。

就職氷河期に新卒でSMBCに入行した経歴をもつ、シェアリングエコノミーのココナラ創業者で社長の南章行さんは言う。

「がんばれば昇進・昇給もできるし、事業もどんどん伸びる時代ではない今は、働く理由を見い出せていない人は苦しい。そういう点で、今の銀行は若い人に働く意義を持たせづらいかもしれません」

しかし、人材が一方的に「流出」するのではなく、卒業生と出身銀行がネットワークを築く、人材の『輩出』企業であれば、それは決して悲観すべきことではない。

むしろ、いい人材を集める循環にもなるはずだ。

会社を飛躍させるものとは

SMBC

東京・丸の内の三井住友銀行本店。辞めた人間に厳しいとされる銀行は、卒業生たちのメッセージをどう受け止めるか。

外資系銀行や外資コンサルにはすでに、卒業生たちと元の会社をつなぐ「アルムナイ」ネットワークがあることで知られている。出身者たちの活躍が、元の会社のブランドになっている。「生涯1社に勤め上げる」時代ではもはやない今、伝統的な日本の大企業の典型であるメガバンクも、その例外ではないはずだ。

発起人の川元さん、齋藤さんは言う。

「銀行が自分たち卒業生を必要とするのは『今』ではないかもしれません。けれど、われわれ銀行を卒業した人間たちも、古巣への義理と人情を忘れずに、いつかどんな形であれ恩返しをしたい。卒業生の愛は会社と、その先にある社会を、大きく飛躍させる可能性を持っていると思います」

(文・滝川麻衣子、写真・今村拓馬)

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