スマートスピーカーだけじゃない「LINE Clova」の真価とは。トヨタ提携で生まれた可能性を舛田氏が語る【LINEの逆襲】

舛田淳氏

LINE取締役 CSMOの舛田淳氏。

撮影:林佑樹

LINEが投資を進める事業の1つが「AI」。同社の代表的な取り組みで言えば、家電量販店でも販売されているスマートスピーカー「Clova」や「Clova Friends」などが挙げられる。

競合では米アマゾンが「Echo」シリーズ、米グーグルが「Google Home」シリーズを展開しており、グローバルではこの2社がシェア争いを繰り広げている。

LINEのClovaはまだ上記2社と比べて世界シェアを誇るほどの規模ではないが、デロイトが2018年12月11日に発表した「世界モバイル利用動向調査 2018」によると、日本国内での音声アシスタントの利用率はClovaが1位を獲得するなど健闘を続けている。

LINEがAIにまつわる機械学習などの技術に投資する理由は何なのか。Business Insider Japanは、同社の取締役 CSMOの舛田淳氏を直撃した。

2018年は、Clovaの「核」を磨いた年

Clova Friends

LINEのスマートスピーカーの1つ「Clova Friends(BROWN)」。

撮影:林佑樹

──LINEのClova事業にとって2018年はどのような年でしたか?

舛田淳取締役 CSMO(以下、舛田):私たちは2017年に「Clova WAVE」を日本で最初のスマートスピーカーとして発売しました。先に形にできたことは良かったのですが、さまざまの方からご指摘いただいたように、音声認識や音声合成の精度、レスポンス速度など、基本的な部分に関してまだまだ学習する時間が必要でした。

学習をきちんとして基本的な性能や品質を整えたのが、まさに2018年でした。アシスタントのClovaそのものだけでなく、Clovaを積んでいる「Clova Friends」や「Clova Friends mini」の性能も上がりました。

──発売初期の頃とは“別物レベル”と考えていいんでしょうか?

舛田:そうですね。初めの頃に手に取っていただいたユーザーの方々には、劇的な違いを感じられると思います。日々PDCAを回して学習させ続けつつ、技術的なトライアルもいくつもしてきました。

もう1つ、大きな判断としてウェイクワード(起動させるための言葉)の変更がありました。本当は「オーケー」とか「ヘイ」とか言わずにClovaを立ち上がらせたかったのですが、起動の品質を上げるために「ねぇClova」を追加しました(2018年4月12日以降)。

ワンタームでやることとツータームでやることでは、後者の方が認識精度が上がるということはもともと分かっていました。ただ、思いとしては頭に何も付けずに実行させたかったのです。

Clovaのウェイクワードについて

Clovaの学習データは、リリース初期より2.3倍にも増加しているという(2018年6月時点)。

撮影:小林優多郎

──ツータームにすることで、当初想定されていた親密度への影響はなかったのでしょうか?

舛田:頭に付ける言葉を何にするかは、非常に考えさせられました。結果的に「ねぇ」と付けたことで親密度は上がったんじゃないでしょうか。まさに話しかける対象という認識に昇華していったイメージです。

あと、「Clovaさん」「Clovaちゃん」もウェイクワードとして追加しました(2018年4月26日以降)。こちらはややマイナーですが(笑)。

これらの追加はファームウェア・アップデートですべての機種に適用させ、みなさんに少しずつ改善した機能をお届けしています。

──出澤社長にも聞いたのですが、2018年を漢字1文字で表すとどんな年でしたか?

舛田:LINE全体ではなく、Clovaに限って言うなら、「核(コア)」ですね。核となる部分をブラッシュアップしました。

スキル開発者との出会いで再発見したClovaの価値

CEKの配布

2018年6月の「LINE CONFERENCE 2018」では、Clova Extensions Kit(CEK)の公開により、サードパーティー製スキルの開発が可能になった。

撮影:小林優多郎

──2018年は「Clovaの開発環境のオープン化」も大きなトピックだったと思いますが、現状はいかがですか?

舛田:オープン化だけではなく、家電の操作に代表される「Clova Home」というパートナーの方に入っていただく一種の規格の進捗も大きかったと考えています。

スマートスピーカーのわかりやすいニーズには、やはり「声で家の中を操作できる」ことがあります。そのニーズに対して、Clovaは赤外線リモコンというかなり初歩的な装置も搭載していました(標準搭載はClova WAVEのみ、Friends/Friends miniは別売のDockが必要)。これ自体にもパートナー、操作できる家電が増え、学習するリモコンのような状態です。

加えて、クラウド経由でIoT家電につながっている規格もあります。家電メーカーの方にお話しさせていただくと、みなさん「すぐに対応します」と、交渉自体にあまり時間はかからなかったんですね。ただ、私たちの方で規格を作っていくのに時間がかかってしまったので、今(2018年12月下旬時点)も順次展開しているところです。

Clova Home

Clova Home規格で操作できる機器の例。

撮影:小林優多郎

そして、開発環境のオープン化によって生まれた「スキルストア」も拡大を続けています。まだ、初期的な段階ですが、目標としていた登録スキルの数はクリアーできています。

スキルを増やす過程で、スタッフがいろいろな地域に向かい、ハッカソンやアワードなどを実施し、開発者の方々と交流をしてきました。そこでは、私たちでは出せないようなスキルを含めて、新しいチャレンジとして参加していただいています。

開発者の方々からご提案いただいているものの多くは、Clova単体ではなく、メッセンジャーのLINEとClovaをうまく組み合わせたスキルが多くを占めます。おかげで、Clovaの魅力や価値が「LINEがやっているパーソナルアシスタントやスマートスピーカー」であるということを、私たち自身も再確認することができました。

これからさらに使いやすくする必要がある。その意味で、2019年はメインサービスであるLINEとの距離をどう近づけるかが、大きなポイントになると思います。

──LINE PayやLINEデリマなど、他のサービスとも連携を深めていくということでしょうか?

舛田:LINEの多様なサービスがつながってくるという意味ではそうですね。LINEが持っているさまざまのアカウントやBOTともどうやってつながっていくか、期待されるところだと思っています。

Clovaの開発で生まれた技術はLINEの各サービスへ

舛田氏とClova

舛田氏が描くClovaで実現する未来とは?

撮影:林佑樹

──Clovaを使った生活でどんな未来が描けると思いますか?

舛田:例えば、今はLINEを友だちとのコミュニケーションに使っている方が多いと思いますが、LINEとClovaが融合することで、LINEがパーソナルアシスタントと同じ役割を果たしてくれることは、1つのゴールだと思います。

何を進めるにあたっても大事なのは、「私たちがコミュニケーションの会社」であるということ。すべての離れているものをコミュニケーションの力で近づけていくというのが、私たちのミッションなのです。

パーソナルアシスタントとしてのLINEを経由することで、その先のモノとつながれる。当然、その中で音声で決済ができたり、デリバリーやショッピングができたり、いろいろなことが可能になるでしょう。

もう1つ、Clovaの研究開発を進める中で、色々なモジュールが生まれていることはとても重要なことです。細かく分類すると、音声認識、音声合成、画像認識、対話エンジンなどさまざまなものがあります。これらのモジュールをLINEの中へどんどん提供することで、描ける未来はどんどん広がっているのです。

SHOPPING LENS

2018年6月にリリースされた「SHOPPING LENS」。画像内に写っているものを認識し、オンラインのどの店でいくらで売られているかを教えてくれる。

──Clovaの開発で培った技術やノウハウを他の事業に活かすということでしょうか?

舛田:例えば、2018年に発表したものでは、LINEショッピングの中に「SHOPPING LENS」を加えました。これは画像認識技術の一種になりますが、ディープラーニングも活用していて、そもそもはClovaプロジェクトの中にあったものです。

また、LINE NEWSのコンテンツレコメンデーションなど、今後も「パーソナライズ(個人化)」が各サービスで広がっていくかと思います。これについても、Clovaプロジェクトから生まれたアルゴリズムを活用していきます。

つまり、ClovaプロジェクトはLINE全体のAIプロジェクトを担っているわけです。中には公開できるモジュールもあるので、それはネット上でデモを公開しています。

トヨタとの奥行きが広い提携

トヨタとの提携

「LINE CONFERENCE 2018」では、Clova分野におけるトヨタとの提携が発表された。

撮影:小林優多郎

──Clova技術で得た技術を他社に提供することは考えていないのでしょうか?

舛田:一部をAPIで公開したり、オープン化するといったことはもちろん考えています。

また、我々のコンシューマー向けサービスを見て、自社の製品に使いたいと考えていただける場合もあるかと思います。その際はパートナーシップを結ばせていただき、供給できる可能性もあるでしょう。

トヨタ自動車との提携も1つの例と言えます。車の中でLINEを使いたい、音楽を聴きたいというニーズがあって、より快適に、便利に、しかも安全にそれを満たすために、私たちの技術をトヨタさんに提供し、共同でプロダクトを作っていくといった形です。

トヨタさんとの提携で一番大きかったのはSDL連携で、すでにLINE MUSICが対応しています。次に控えているのはナビゲーションの部分。こちらは、トヨタさんがもともと進めていたナビのプロジェクトにLINEがジョインする形で進めています。

※SDLとは
Smart Device Linkの略。車載器とスマートフォンを連携させる仕組み。SDL対応の車載器とスマートフォンアプリを用意すれば、さまざまなサービスや機能が使えるようになる。米フォードとトヨタが設立し、マツダやスズキ、KDDIなどといった企業が参画するコンソーシアムで規格仕様が定められている。

車の中のLINE

SDL対応車載器とスマートフォンを組み合わせれば、LINE MUSICにアクセスできる状態がすでに実現している。

出典:LINE

──ナビアプリとして、LINEの強みはどう活きてくるのでしょうか?

舛田:LINEはUI(User Interface)に長けた会社でもあるので、より直感的で使いやすいものを提供したいと考えています。また、音声認識なども私たちが強みを持つ部分です。さらに、コンテンツも強みだと思います。

LINEには公式アカウントがたくさん存在するので、そのアカウントの店舗の位置などのローカル情報を非常に多く持っています。先々で言えば、それらの移動先で決済やクーポン、マイカードなどが使えるようになるでしょう。

また、これも可能性の話ですが、トヨタさんの持っている走行情報と、LINEが持っている使用許諾を得たユーザーの位置情報を合算すると、おそらく最大の移動データが完成すると思います。

この移動データからは、最も精度の高い渋滞情報予測が可能になるのではないでしょうか。こういったこともチャレンジできるものの1つとして考えています。

2019年、LINEは「もう一度始まる」「ナンバーワンにこだわる」

LINE経済圏

LINEの“仕込み”は幅広い業界で行われている(画像をクリックすると拡大して表示します)。

図版作成:さかいあい

──最後に、2019年はLINEにとってどんな年になるか教えてください。

舛田:まだ発表できないことがたくさんあります(笑)。

CEOの出澤も言っていたかと思いますが、LINE全体として総括すると、LINEが登場してから続いていた流れが2017年でいったん区切りがつき、2018年は仕込みの年だったと言えるでしょう。そのようなタイミングが訪れたのには、偶然の要素もあります。

例えば、モバイル決済は社会的に追い風をもらっているところですし、ショッピングなどもユーザーが増え、SHOPPING GOなどで領域も広げてきています。広告についても、旧来のアドシステムを今後5~10年の成長のためにあえて自社システムに入れ替え、つい先日からテストが始まりました。Clovaについても基盤となる部分を整えたのが今年でした。

仕込んだものがこの先広がっていく、それが2019年です。もう一度始まりなんだ、というのが私たちの捉え方です。

舛田淳氏

舛田氏がLINEの2019年のキーワードとして挙げたのは「ナンバーワンにこだわる」。

撮影:林佑樹

──舛田さんが考える、2019年のキーワードは。

舛田:「ナンバーワンにこだわる」ですね。すごく競争して、そこで勝者になりたい、という意味ではありません。私たちの生み出すモノやサービスで社会に影響を与えて、生活に「ビフォーアフター」を生み出すことこそ、私たちがやるべきことだと考えているから、ナンバーワンになるしかないのです。

オンリーワンはナンバーワンになるための手段だと思います。オンリーワンになれてフォロワーが出てこない領域というのは、市場規模としてそこまで大きくないということです。我々はアーティストではなく、事業や製品を生んでいく立場なので、ナンバーワンにこだわります。

そのためにも、もう一度プロダクトファーストに立ち返る、そこには必ず「Wow」、つまり私たちが「人に初めての体験として伝えたくなるような、思わず声が出てしまうようなこと」と定義しているものが存在します。

それを社内で浸透させるために、2019年には社内カンパニー制に移行し、それぞれをスモールチームにし、各部門ごとで権限と責任、ある種の熱量、スピードを持たせたいと考えています。

(文:小林優多郎、撮影:林佑樹・小林優多郎、図版作成:さかいあい)

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