中国は既にロボティクス先進国へと歩み始めている ── 北京の「ロボット火鍋屋」に見る危機感

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日本国内でもロボットレストランのデビューは多いに話題になった。しかし、ショーではなく実用という点で、中国のロボット火鍋は時代の先を行っている。

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やがてはロボットやAIに仕事を奪われる……今、そんな漠然とした不安を抱いている人は少なくない。ロボットはAIを得て、本当に人間に置き換わっていく存在となるのか。シリコンバレー vs. 中国の最新技術動向を追った書籍『テクノロジーの地政学』(日経BP社刊)では、むしろ今注目されているのは、人と共に働く「協働ロボット」だと説明する。協働ロボットとはどのようなものなのか、同書籍の共著者、シバタナオキ氏と吉川欣也氏に聞いた。

人とロボットが協働する、中国のハイテク火鍋屋

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中国の首都・北京にできたロボットと人が協働する火鍋屋「海底撈」のエントランス。

写真提供:吉川欣也

── 『テクノロジーの地政学』のロボティクスの話のなかで、シリコンバレーで今研究開発が盛んな分野のひとつとして、「協働ロボット」というキーワードが出てきます。これはどういうものですか?

シバタ:僕がその講座でゲスト講師の方に話を聞いて、一番びっくりしたのは産業用ロボットのマーケットがすごく大きくなっていることでした。普段、僕らがあまり目にしない、いわゆる工場などで使われているロボットがものすごく伸びているんですね。じゃあそれらは人間の仕事を完全に置き換えるようなロボットなのか?……といったらそうではなくて、人間の仕事をサポートするようなロボットがすごく増えている。それが「協働ロボット」と呼ばれているものです。

吉川:表に出て人の目に触れるロボットの開発は、まだまだこれからという状況ですが、産業用ロボットには「Pepper」みたいな顔はいりません。シバタさんが言うとおり、すでに大きなマーケットになっています。

先日、中国の有名な火鍋屋チェーンの「海底撈」(かいていろう)のロボット店舗が2018年10月末に北京市内にオープンしたという事を聞いて、早速、見学に行ってきました。フロアで忙しく動く配膳ロボットだけでなく、レストランのバックヤードにも数多くのロボットがあり、予想以上に自動化が進んでいて大変驚かされました。

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ロボット火鍋店「海底撈」の店内。さすがに物珍しさからか、外国人観光客と思われる客も多い。

写真提供:吉川欣也

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配膳ロボット。動作を見ていると、ただ決められた机に届けるだけではなく、対物検知をして、通路に人が歩いているときは直前で停止するなど、人との協調を考えた設計になっているようだ。

写真提供:吉川欣也

今工場にあるロボットの多くは、「まだ危ないからこのラインから入っちゃダメですよ」っていう段階。人と一緒に働くときに安全に作業ができるか……みたいな話はこれからですが、それができる「協働ロボット」をみんなが考え始めている。シリコンバレーも注目しているのですが、いかんせん、人材が圧倒的に足りていないというのが現実です。

シバタ:足りないのは、特にエンジニアですよね。

吉川:(エンジニアが足りないのは)当たり前の話なんです。今、さまざまな産業で求められている人材が同じっていう、これまでにない時代になってしまってるんですよ。例えばトヨタが欲しい人材と、僕の会社が欲しい人材は、もしかしたら同じかもしれない。こんなことは、従来あり得なかったですから。

── それってロボットのどの部分をやるエンジニアのことですか?

吉川:ソフトウエアです。今、ロボットにはハード的にもいろいろありますが、それをどうやってソフトウエアでコントロールするかというのが大切で。そこがまだできていない。それを作るソフトウエアのエンジニアが圧倒的に不足しているんです。

シバタ:補足すると、(シリコンバレーには)ソフトウエアだけできるエンジニアはいるんですよ。ハードウエアのエンジニアもいる。ただ、ロボットの場合は「両方がわかっている人」がいないと作れない。

イメージ的には、大学の工学部にコンピューターサイエンスや情報科学ってあるじゃないですか。それと電気、電子とか機械学科っていうのがありますよね。最近の大学はコンピューターサイエンスの人達もハードウエアを学べるし、電気、電子とか機械学科の人達もコンピューターサイエンスを学べるようになっています。

昔はそこが完全に分かれていました。だからソフトウエアだけ知っている人、ハードウエアだけ知っている人はいっぱいいる。でも、「つなぎ目」の役割を果たす人が圧倒的に欠けているんです。

さらに重要なのは、ロボットで(「AI」開発で注目が集まる学習手法の)ディープラーニングをどう使うかという話になると、「つなぎ目」人材が必要だということです。

AIの行き着く先はロボティクスだ

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2018年12月に発表されたロボットベンチャー・GROOVE Xの家族型ロボット「LOVOT」。こちらは日本的な家族の一員になるロボットだ。一方産業ロボットは、「役に立つ」ことがひたすら求められるという点で社会とも密接な関係を持つ。両者は、見た目も、機能も、まったく違ったものになるはずだ。

撮影:伊藤有

──ある程度規模の大きい企業は自然とロボット化が進むと思いますが、中小の工場のロボット化はどうでしょう? この分野への産業ロボット導入が限定的な理由の1つに、熟練工の動きをロボットの動作に置き換える「ロボットのプログラマー」を入れられなかった、という話もあります。

シバタ:AIの行き着く先はロボットだという話は、いろんな人が言っていることですよね。ただ、まだ今の技術では、残念ながら人間のように自律的に手足を動かしたり、指を動かしたりっていうのはできない。

今、ようやく目が見えるようになって、少し耳が聞こえるようになって、ちょっとしゃべれるぐらい。まだ、赤ちゃんで言うと2歳児ぐらいだと思うんですが、自律的に工場で働けるようになるには、人間で言うと少なくとも小学生ぐらいの理解力がないと危なくて一緒に働けない。まだ少し時間がかかる、っていう感じじゃないでしょうか。

── 先程、ロボット火鍋屋の話がありました。あのケースは、言ってみれば、比較的低コストで限定的な仕事を効率良くこなすなロボットです。こういう存在が、働く現場にもっと増えていく社会の方が、ディープラーニングやAIを用いたロボットより間近に思えるのですが、そのあたりはどうでしょうか?

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海底撈の配膳ロボットのモニター部分。AndroidベースのOSのようにも見える。

写真提供:吉川欣也

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海底撈の厨房設備をのぞいてみたところ。人気がなく、火鍋という調理をあまり伴わない業態のためもあるが、日本のレストランのバックヤードのイメージとはかけ離れた設備が並ぶ。

写真提供:吉川欣也

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こちらも別の厨房設備の一角。

写真提供:吉川欣也

吉川:確かに、プログラミングされたロボットと人間とで、頑張れることはたくさんあると思います。

もちろん、将来的にはAIチップみたいなものを搭載して、クラウドやビッグデータを使わないでローカル側で処理(いわゆるエッジコンピューティング)するのでしょうが、現実問題、まだそこまでは先が長い。

中国では、食品を扱うロボットではどう衛生管理するとか、役所の認可みたいな話も出てきて、ずっと実証実験レベルだったのが、ようやく実用段階に入ってきているそうです。これから人の前にロボットが出てくる段階なので、そこを現場でいち早く見ていきたいと思っているところです。

中国 vs. アメリカ、ロボット社会に舵を切る危機感はここまで違う

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シバタ:中国の話でいうと、「テクノロジーの地政学」の講座の中で聞いて衝撃的だったのが、「中国は国策として、ロボットを大量に導入すると、インセンティブがある」という話だったんですよ。

理由はシンプルです。中国には今「世界の工場」と呼ばれるぐらい、たくさんの製造業があります。一方で人件費は上昇の一途で、さらに今後は少子化にもなる。一人っ子政策の余波で、日本並み、あるいはそれ以上のスピードで高齢化が起こる可能性がある。人手不足になった時に、製造業が稼げなくなってしまったら国としても困る。だから、ロボットを増やしていくためにインセンティブがある、と。

その話を聞いて思ったのは、アメリカはほとんどモノを作っていないから、ロボットのありがたみが中国ほどはない。でも中国には製造業が維持できなくなるという、ものすごい危機感がある。アメリカと違って、産業用のロボットのイノベーションに真剣なのには、そういう背景もあるんだろうなと。

── とすると、中国では、今後ロボティクスのイノベーションが、劇的に進む可能性があると?

吉川:そうですね、産業用のロボットもそうですけど、中国の企業がドイツの企業を買ったり、ロボティクスに関する企業買収も活発なんです。それをどう使いこなしていくのか、ロボットをどういう風に人の前に出してくるのか、というのを見てみたいですね。

例えば今、中国では無人店舗が増えているけど、その先には無人で物流もあると思ってるんです。そういうところでロボットがどう活躍するのか。

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中国・上海の風景。

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シバタ:僕はロボットに関しては、(各国の)少子化の影響はかなり大きいと感じます。

そういう意味では、(本丸は)日本や中国ですね。日本の方が先に少子化が来てますから、すごいチャンスだという気がしています。

さっきの火鍋レストランのバックヤードがロボットという話が典型的ですが、そういうソリューションって、少子化が進んでいる国の方がビジネスの芽もあるはずです。

吉川:あと、レストランで言うと、まだほとんど言及されていないけど、実は「機械やロボットで調理する方が衛生的に見える」……っていうこともあるんです。

これが流行りそうな兆候もあります。最近、Facebookのコメントを見ていると、レシピ紹介の動画に対して「手袋をしてくれ」とか、「まだ手でやっているんだ」というコメントが入ったりする。「手で握られるのはもう生理的に嫌だ」っていう人がすでに一定層いるのは明らかです。

── その指摘、食品分野のロボット化には盲点かもしれません。「ロボットが衛生的」って感覚、一度気づいてしまったら、もう戻れないものかもしれないですね。

(聞き手:Business Insider Japan 伊藤、文・構成:太田百合子)


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吉川欣也:1990年に日本インベストメント・ファイナンス(現・大和企業投資)に入社、1995年のデジタル・マジック・ラボ(DML)設立を経て、米サンノゼで共同創業したIP Infusion Inc.を2006年にACCESSへ5000万ドル(約50億円)で売却。現在はMiselu社とGolden Whales社(米サンマテオ)の創業者兼CEO、GW Venturesのマネージングディレクターを務める。

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シバタナオキ:元・楽天執行役員、スタンフォード大学客員研究員。スタートアップ(AppGrooves/SearchMan)を経営する傍ら、noteで「決算が読めるようになるノート」を連載中。2017年7月に書籍『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』(日経BP社)を発刊。

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