中国沿岸で発見「1000年前の巨大津波」の痕跡。再発すれば世界経済は破たんする

福島第一原発

津波と言えば、世界の多くの人々がこの事故を思い出すことだろう。2011年3月24日に上空から撮影された福島第一原発。広大な帰還困難エリアを生み出し、住民たちの生活を根本から破壊した。

REUTERS/Air Photo Service

1月3日夕刻、熊本地方を震源とする地震があり、最大震度6弱が観測された。幸いにして、けが人1人のみで倒壊家屋はなかったが、正月早々肝を冷やした人も多かったろう。

偶然ながら同日朝、中国では地震について非常に気になる研究結果が発表されていた。南シナ海に面する広東省で、およそ1000年前に大津波が発生し、沿岸が壊滅的な被害を受けていたというものだ。

中国における自然科学・ハイテク研究の最高機関、中国科学院が監修する学術誌「科学通報」の最新号に、研究の詳細を明らかにする論文が掲載された。執筆した中国科学技術大学などの研究グループは、論文の中でこう主張している。

「研究によって、南シナ海で津波が発生するリスクがあることが確実になった。中国沿岸で稼働中あるいは建設を予定している原子力発電所や港湾施設、石油貯蔵施設については、このリスクの存在を十分に踏まえる必要がある」

論文によると、フィリピン西岸沖を南北に走るマニラ海溝で1076年に発生した地震が津波を引き起こし、広東省や中国最南端の海南省、さらにはタイにまで大きな被害をもたらしたという。広東省や南シナ海に浮かぶ島しょ部で調査を行った結果、津波によって運ばれたとみられる重量のあるサンゴや岩石は、沿岸から200メートルほど内陸にまで達していた。

南シナ海沿岸に集中するリスクの数々

この津波リスクは、中国にとってのみならず、世界経済にとっても非常に大きな問題だ。広東省沿岸を写真で見れば、その理由は一目瞭然。さっそく以下に並べてみよう。

「アジアのシリコンバレー」深セン

深セン テクノロジー

Shutterstock.com

1980年代には人口3万人だった漁村が、ハイテク産業を柱に大きな成長を遂げた。いまや人口は1300万人を超え、北京、上海、広州と並ぶ中国の四大都市と称される。ファーウェイやテンセント、DJIといったテクノロジー企業が本社を構えるこの南シナ海沿岸の世界都市が津波に襲われたら、世界経済への影響は計り知れない。

ロンドン、ニューヨークに続く「金融センター」香港

香港

Shutterstock.com

テクノロジーの時代の到来とともに人口規模で深センに抜かれたとはいえ、ロンドン、ニューヨークと並ぶ、世界の金融センターとしての地位は不動。その機能の中心は「国際金融中心」と呼ばれる2棟の超高層オフィスビルの中にあるとはいえ、2000年前後に完成したこれらの建築物が巨大津波に対してどのような強度や安全性を備えているのかは未知数だ。

北京、上海に次ぐ「世界都市」広州

広州

Shutterstock.com

珠江デルタの最奥に位置し、東日本大震災時の津波被害のありようを踏まえると、リスクの高そうな港湾都市。人口は1400万人を超え、成長著しい深センをも上回る歴史のある世界都市。写真にも見えるように高速道路が発達し、華南地域のロジスティクスの要衝とされる。それゆえに深刻な津波被害を受けた時の影響は、数億人の生活基盤を揺るがす恐れもある。

大亜湾原子力発電所(広東省)

大亜湾 原発

Shutterstock.com

1993年に操業開始した大亜湾(Daya Bay)原子力発電所。世界の原発の中でも飛び抜けて安全性が高いとされ、中国企業との合弁でプロジェクトを牽引したフランス電力公社(EDF)も高く評価しているが、これまで放射性物質の漏洩事故を複数回にわたって隠蔽してきたことが報じられるなど、安全性の真価は定かでない。巨大津波の襲来のような極端なケースを想定した安全対策がなされているかも不明だ。

防城港原子力発電所(広西省)

防城港 原発

China Daily via REUTERS

南シナ海から見ると海南島の影に隠れた場所に位置する広西省防城港市に位置する原発。2010年に建設が始まり、1・2号機はすでに稼働中。写真は2018年5月に撮影された、国産新型炉を導入した3号機の建設現場。2020年に運転開始が予定されている。福島第一原発事故前に設計された原発で、安全性に問題はないとされ運転にたどり着いたが、こちらも十分な津波対策がなされているかは不明だ。

福清原子力発電所(福建省)

福清 原発

出典:国際原子力機関(IAEA)ニュースリリース

今回の研究により巨大津波の被害が想定された南シナ海に真っ向から面する福清原子力発電所。東日本大震災前に建設が始まり、福島第一原発事故の影響で遅れながらも、2017年に営業運転にたどり着いた。写真(2017年10月時点)は建設中の5・6号機。防城港と同様に国産新型炉を導入。それぞれ2019年、2020年に運転開始予定。

世界経済の成長を牽引する最重要エリアと言って過言ではない中国の華南地域。これまでまったく想定されていなかった巨大津波のリスクが指摘されたことで、どんな動きが起こるのか。

中国は近年、南シナ海で天然資源を狙った人工島開発に躍起になっているが、自国のためにも世界のためにも、まずは何より、南シナ海沿岸部の津波対策に労力と資金を投じてほしいものだ。

(文・川村力)

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中