左から、杉江理 代表取締役兼CEO、福岡宗明 取締役兼CTO。杉江氏は日産の自動車開発本部出身、福岡氏はオリンパスで医療機器の研究開発経験をバックグラウンドに持つ。
電動車イス型のパーソナルモビリティの製造・販売を手がけるベンチャーWHILLは、かねてから参入を表明していたMaaS(Mobility as a Service=利用したい時だけ対価を支払って利用するモビリティの新形態)事業に関連した、自動運転対応パーソナルモビリティ「WHILL自動運転モデル」のプロトタイプをプレス向けに先行公開した。WHILLの自動運転技術は、今回が世界初披露になる。
アメリカのネバダ州ラスベガスで現地時間1月6日に実質開幕したテクノロジー展示会「CES 2019」への出展に合わせたもので、会場では自動運転の試乗デモを実施するとともに、複数の機体を管理・運用するための「WHILL自動運転システム」も公開する。
なお、WHILL自動運転システムは、CES 2019イノベーションアワードのアクセシビリティ部門で最優秀賞の受賞も決定している。
WHILLのCES2019出展ブースのイメージ。自動運転のデモ試乗が体験できるようだ。
提供:WHILL
自社開発の自動運転技術、試乗デモも予定
WHILL自動運転モデル。アームレストの部分にステレオカメラを内蔵していることがわかる。モデルのベースは既存の「Model C」(45万円)。写真は撮影用のモックアップで、実際のデモ機には背面にLiDAR(レーダーの一種)が付いていたりと仕様が一部異なる。
WHILL自動運転モデルは、既存の普及型モデル「WHILL Model C」をベースに、左右のアームレスト部分にステレオカメラを2基搭載。通信回線や、機体後方のセンサーなども使って、歩道領域を前提とした自動運転機能を実現する。自動運転技術は独自に開発したものを搭載している。
WHILLの第1世代モデルの「Model A」(左)と、価格を抑えた実質的な第2世代モデルで、分解してクルマで持ち運びやすくした「Model C」。悪路の走破性はModel Aの方が優れているという。
ステレオカメラは左右のアームレストにそれぞれ内蔵している。前方視野角を幅広くとることを狙っていると思われる。
WHILLによると、CESで試乗デモを行うのはプロトタイプのため、後部に自動運転車に用いられることの多いLiDAR(レーザー光などを使ったレーダーの一種)を搭載している。ただし、2020年の商用化時点でLiDARを搭載するかは未定だ。これは主に、LiDARが高価なパーツであるためで、LiDARを使うと現実的な価格になりづらいためとコメントしている。
今後、車両周囲の環境認識に関しては、ステレオカメラを使ったVSLAM(※)と呼ばれる仕組みを中心にしていく方針。これは、電波を発するビーコンの設置などを前提としてしまうと、導入事業者側の負担が大きくなってしまうためだ。
VSLAM:Visual SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)のこと。カメラの映像を使って、周囲の環境の3Dマップ作成と、それに基づく自己位置推定を行う技術。GPSやビーコンなどの信号がない場所でも自律走行させるための技術の1つ。
MaaS参入は、当初は空港などの閉鎖空間を想定したものを考えている。すでに一部の空港では運用オペレーションについての話し合いも始めているという。閉鎖空間でのサービスから着手する背景には、公道走行に伴う各国法令対応のハードルが低いこと、また公道走行に比べて安定した路面であり、また障害物などの想定もしやすいことなどがある。
WHILLが狙うMaaSビジネスは単純明快。クルマと自転車の間の公共交通を目指す。自転車は手足が不自由だと乗ることが難しいが、WHILLなら誰でも乗れる。高齢化社会という課題を抱えた日本にとっても、公共交通に乗るまでの移動手段の解決は、喫緊のテーマだ。
今後の事業展開は大きく2段階。2020年の自動運転実用化段階では、外部のサービス事業者が窓口を担い、ハードウエアや裏側で動く管理システムをWHILLが担う。2020年以降のしかるべき時期には、表側まで含めて、すべて自社で展開していきたいという。
WHILLは2018年9月にSBIインベストメントなどから50億円を資金調達。これまでに少なくとも80億円を資金調達し、日米欧に拠点を置きつつ地道な開発・販売を続けている。
現時点ではWHILLの主要市場は日本だが、こうしたMaaS型のパーソナルモビリティは、空港やショッピングモールなどの大規模施設での需要が確実に増えるものだ。
すでに空港にあるような、専任スタッフの人力による「車椅子プッシュサービス」の代替になり得るコストに収まるのであれば、車両販売を中心とした既存のパーソナルモビリティ事業を上回る規模のビジネスになる可能性は十分にある。
なお、CES2019の展示ブースの模様は、追って現地取材として取り上げる予定だ。
(文、写真・伊藤有)