アップル、大きな戦略変更。「サムスンのTVがiTunes Videoなどに対応」が持つ大きな意味

1月6日(現地時間)、サムスンの家電関連米国子会社であるSamsung Electronicsは、テレビに関する発表を行った。その内容は、同社のテレビ製品について、2019年春以降、アップルの「iTunes Movie」の再生と、iPhoneなどの画面をテレビに映し出す技術である「AirPlay 2」をサポートするというものだ。

Samsung Electronicsがが行った同社のテレビ製品についての発表。

Samsung Electronicsのプレスリリース。アメリカ向けの同社製スマートテレビについて、2019年春、iTunes Movieの再生とAirPlay2対応が「アップルによる公式ライセンス」の形で実現する。

提供:Samsung Newsroom

このニュースは、一見「よくあるテレビの機能強化」に見えるかもしれない。しかし、実はこれは業界初の取り組みであり、また同時にアップルの「サービスモデル強化」というビジネスモデルの変更を示している。

1月6日午後現在(現地時間)、アップルはプレスリリースなど公式な広報コメントを出していないものの、AirPlayに関する公式ぺージを更新し、

「主要テレビメーカーから、近日中にAirPlay 2の機能を搭載した製品が登場すること」

「テレビから音声アシスタント・Siriが使えるようになること」

を告知した。このため、CES期間中には、サムスン以外のテレビメーカーも、アップル製品との連動機能を備えた製品のアナウンスをするものと予想できる(注:CESの本格的な発表ラッシュは日本時間の1月8日から始まる)。

ライセンス提供で「自社ハード限定」方針を捨てるアップル

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Apple TV 4K。Apple TVを使えばテレビ画面にMacやiPhone、iPadの画面がワイヤレス(AirPlay 2)で表示できるため、ビジネス用途での需要もそれなりに高い。

提供:Apple

アップルは「iTunes」を介して映像配信ビジネスも行っている。映画やドラマを単品で販売したりレンタルしたりするサービスとしては、いまだ世界最大級のシェアを持ち、「DVDを殺した」存在だ。

だがアップルはこれまで、iTunes Movieの再生機能について、他社にライセンスを提供してこなかった。

アップルは配信コンテンツをテレビで視聴するための機器として「Apple TV」を販売している。過去には「アップルがテレビそのものの市場に参入する」との噂も流れたが、テレビビジネス自体の旨味が少ないこともあってか、結局参入することはなかった。

同社は「ハードウエアから利益を得る」ことをビジネスモデルの軸に据えている。iTunes Movieの再生についても、MacやiPhone、iPadなどの「アップル製品を買った人がより快適になる、魅力を増すためのサービス」という意味合いが強かった。

だが、今回、サムスンなどへの正式ライセンスが行われたことで、こうした事情に変化が起きる可能性は高い。Apple TVの販売にこだわる必要はなくなり、アップル製品以外では視聴させない、という方針を貫く必要もなくなるからだ。

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iPhone XS Max(左)とiPhone XS(右)。

Edgar Su/Reuters

iPhoneなどのハードウエア売り上げの減速もあり、アップルは、コンテンツ販売手数料などのサービス収入をより重視する方向にある。サービスからの収入を最大化するには、サービスが使える対応デバイスを増やす必要がある。iPhoneを持っている人でも、Apple TVまで持っている人は少数派だからだ。

また今回、iTunes Movieのライセンス提供と同時に、iPhoneなどの画面をワイヤレスでテレビなどに表示する技術である「AirPlay 2」もサムスンなどのテレビに組み込まれる。AirPlay 2は、テレビにスマホやタブレットの画面を表示する技術として、安定性・操作性・画質の3点で、他の競合規格より優れている。Apple TVを接続することなく、自宅のテレビでも使えれば、iPhoneやiPadユーザーにとっては喜ばしいことだろう。

注目したいのは、サムスンのリリース文に「エクスクルーシブ(限定)」の文字がないことだ。アップルはサムスンの発表後、AirPlayに関する公式ページに、複数のテレビメーカーが対応予定であることをにおわせるコメントを追加している。

このことは、(CES2019に合わせてどの程度の数が登場するかは不明だが)今後iTunes MovieとAirPlay 2は、主要テレビメーカーがサポートする規格になる可能性が高い、と筆者は見る。

追撃するネットフリックスの圧力が決断させた?

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ネットフリックスは、アップルにとってiPhoneアプリを提供し盛り上げてくれる存在であると同時に、自社サービスの競合でもある。

撮影:伊藤有

こうした決断の背景には、ネットフリックスの存在がある。現在、アップルの映像配信事業は曲がり角を迎えているのだ。

映像配信の主軸はいまや、ネットフリックスやAmazon Prime Videoのような「固定料金制・見放題」のストリーミングサービスだ。ストリーミングサービスでは、多額の投資を行ってオリジナル作品を作り、それを配信することがトレンドとなっている。

それに対し、アップルのモデルは見放題ではなく、映画会社などから調達した「レンタルビデオのオンライン化」という、古いビジネスモデルだ。そのためアップルは、ネットフリックスなどを追いかけるように、iTunes向けのオリジナルコンテンツ制作を進めている。

オリジナルコンテンツへの投資価値を高めるには、いかにその視聴量を増やすかが重要になる。その観点でいえば、自社ハードウエアだけにこだわるのではなく、「より広い機器で使える」自由度が重要だ。なぜなら、競合であるネットフリックスやAmazon Prime Videoは、消費者の持つあらゆるデジタルデバイスで視聴できるのが当たり前になっているからだ。

テレビに対するライセンス姿勢の変化が、サービスモデルへの変革を後押しするものになるのは間違いない。どのくらいのメーカーが採用するのかは、CES会場からあらためてレポートしたい。

(文・西田宗千佳)


西田宗千佳:フリージャーナリスト。得意ジャンルはパソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主な著書に『ポケモンGOは終わらない』『ソニー復興の劇薬』『ネットフリックスの時代』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』など 。

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