2019年にスタバ抜くと豪語した中国luckin coffee。「コーヒー業界のofo」説も浮上

2018年、中国で話題をさらった企業の一つが、コーヒーチェーンのluckin coffee(瑞幸珈琲)だった同年1月に北京で1号店をオープンし、年末の店舗数は2000店を突破。7月には中国史上最速でユニコーン企業(評価額が10億ドルを超える未上場企業)の仲間入りを果たした。

成長が速い中国でも別格のスピード感で、コーヒーマーケットの地政学を変えるluckin coffeeの銭治亜(チエン・ジーヤー)CEOは、年始のイベントで「店舗数とドリンクの販売量で、2019年にスタバを抜く」と豪語した。一方で同社は2018年末、巨額の赤字が明らかになり、“あの企業”の二の舞になるのではとの懸念も広がっている。

luckin coffee店舗

2018年に事業を始め、1年間で2000店舗まで拡大したluckin coffee。

撮影:浦上早苗

スタバの20年を2年で追い抜く

「2019年は新たに2500店をオープンし、4500店舗体制にする。今年中に店舗数とコーヒーの販売量はスターバックスを超え、中国最大のコーヒーチェーンブランドになる」

luckin coffeeの銭治亜CEOは1月3日、戦略発表会で2019年の展望を自信満々に語った。

コーヒー文化の芽も出ていなかった1999年に中国に進出し、20年かけて3600店舗まで増やしたスタバを、わずか2年で追い抜くと宣言したのだ。

luckin coffeeはこの日、2018年12月31日時点で中国22都市に進出し、2073店舗をオープンしたとも発表した。

「北京、上海、広州、深センなど一級都市の中心部では、半径500メートル以内に店舗を見つけられる。アプリのユーザー数は1245万人、ドリンクの販売量は8968万杯。デリバリーの配送時間は平均16分43秒だ」(銭CEO)

「第三の場所」vs「場所にはこだわらない」

配送スタッフ

アプリで注文すれば配送もしてくれるが、実際には店舗受け取りを選ぶ人が多い。

jason lee

中国コーヒーチェーンマーケットでは、長きにわたって市場を耕し、消費者を“教育”してきたスタバが圧倒的なブランド力を持つ。

2000年代、コーヒーを日常的に飲む文化がない中国にあって、スタバのドリンク価格は一般的なランチの数倍した。それでも都市部の若者から「トレンド」「ファッション」として受け入れられ、2010年ごろから出店を加速。2017年12月には上海に世界最大規模の旗艦店をオープンした。

今では中国でも、コーヒー豆やドリップ、インテリアにこだわったカフェが珍しくなくなった。luckin coffeeはスタバが育てたコーヒー市場を急襲し、猛スピードでシェアを奪っている。

luckin coffeeはアプリでコーヒーを注文し、店舗で受け取るか配送してもらうかを選ぶスタイルだ。

豆やドリップにこだわった本格コーヒーを提供する点はスタバと共通するが、スタバが「第三の場所」を標ぼうし、居心地の良さを重視するのに対し、luckin coffeeは「場所にはこだわらない」コンセプトを掲げ、持ち帰りや配送を前提とした店舗運営を行う。オフィスビルのロビーのような場所にも出店可能なモデルが、迅速な大規模出店を可能にしている。

「スタバのコーヒーは正直高い」

アリババとスタバ

luckin coffeeの猛攻は、スターバックスとアリババに手を組ませる結果を生んだ。

reuters

大連理工大学大学院生の楊暁琨(Yang Xiaokun)さん(24)は、スタバのメンバーズカードも持つコーヒー好きだが、数カ月前に近くにluckin coffeeがオープンして以来、スタバの利用頻度が大幅に減ったという。

「私の生活費は月に1000元(約1万6000円)くらいだから、カフェラテが30元(約500円)くらいするスタバは正直言って、高い」

luckin coffeeは20元(約320円)前後の商品が多く、スタバより2、3割安い。最近は出掛ける準備をしながらアプリでluckin coffeeのコーヒーを注文し、授業の前に受け取りに行く。

「お店はIT企業がたくさん入居しているビルの中にあるので、出勤前の人たちがレジに並んでいる」(楊さん)

luckin coffeeの成長を無視できなくなったスタバは2018年9月、アリババと業務提携し、出前アプリ餓了麼(ele.me)と組んで配送サービスを開始(luckin coffeeも配送を増やすため、テンセント系の出前アプリ美団点評と12月に提携した)。2022年には中国の店舗数を6000店に増やす目標も発表した。

luckin coffeeの出現でオンラインで注文するスタイルのコーヒーチェーンも活気づき、老舗、新興企業を問わず、同分野への参入が加速している。

最大の魅力は「ただで飲めること」

楊さん

luckin coffeeが近くにオープンしてから、スタバにあまり行かなくなったと話す楊さん。

撮影:浦上早苗

luckin coffeeの銭CEOは1月3日の戦略発表会で、順調ぶりをアピールしつつ「luckin coffeeとofoを比べるのは馬鹿げている」と強調、2年前には海外展開するほどの勢いを見せながら今は虫の息のシェア自転車ofoの名前をわざわざ出した。

その背景には2018年12月末、luckin coffeeの資金調達計画書が流出し、同社の赤字額が事業開始以来9カ月で、8億5700万元(約140億円)に上っている事実が明らかになったことがある。

中国では規模拡大=必ずしもビジネスがうまく回っているわけではない。有望な市場にはスタートアップが多数参入し、ユーザー獲得と市場拡大のために採算無視で大量のクーポンがばらまかれる。消耗戦の過程で体力のない企業は淘汰され、最後まで残った1、2社が市場を総取りする構図で、ライドシェアも出前アプリもそうやって普及し、寡占市場が形成された。

luckin coffee常連の楊さんは言う。

luckin coffeeはトレンドだし、味もいい。けど、最近よく行くのは、ただで飲めるから。アプリをダウンロードすると、コーヒーが1杯無料になり、友達を紹介する度に、コーヒー券がもらえる。毎週決まった曜日にも無料で飲めるクーポン券がもらえるので、お金を払うのは3~4回に1回なの」

luckin coffeeのように、VCから調達した巨額の資金を顧客獲得費用と事業拡大に注ぎ込み、短期間で“焼きつくす”手法は、スタートアップ界でこれまで当然視されてきた。だが、最近の景気失速とシェア自転車大手ofoの経営危機は、世間の空気を変えた。

luckin coffeeを持ち上げていたメディアも、赤字額が表面化すると「luckin coffeeはofoと同じ末路をたどるのではないか」「コーヒーチェーン業界のofoになるのでは」と騒ぎ出したのだ。

「私たちはプロ経営者。学生ベンチャーのofoとは違う」

ofo

ofoの経営危機は、中国スタートアップの成長のあり方にも問題提起をしている。

reuters

銭CEOは戦略発表会で、自社とofoとの違いについて自らこう説明した。

「コーヒーショップは保証金を取らない」

ofoがユーザーから保証金を徴収し、経営危機後に返還騒動が起きていることを念頭に置いた発言だ。また、「当社の経営チームは大学を出たばかりのひよっこではなく、起業のプロで構成されている。酸いも甘いも知っている私たちが、“次のofo”になるわけはないでしょう」とも語った。

女性起業家の銭CEOは2002年に創業した大手ハイヤーサービス神州優車の創業メンバーで、luckin coffee立ち上げ直前まで最高執行責任者(COO)を務めていた。luckin coffeeの創業資金は、神州時代から付き合いがあるVCを通じて調達している。大学発ベンチャーのofoと同じ次元に置かれるのは、プライドが許さないのだろう。

中国経済失速で悲観論も台頭

luckin coffeeが2019年も計画通りに出店を続ければ、赤字拡大は間違いない。同社の楊飛(Yang Fei)最高マーケティング責任者(CMO)は、「赤字額は想定通り。無料チケットの配布は徐々に減らしていくつもりだが、適切なクーポン配布はシェア拡大のために有効で、3~5年は続けるつもりだ」と意に帰さない。

luckin coffeeに出資するVCの投資家で、同社の取締役でもある劉二海(Liu Erhai)氏も、「将来的には、オンラインで注文するコーヒー店が主流になり、スタバのような店舗主体の業態は補助的な存在になる」と、コーヒーチェーンの革命に強気の姿勢を維持する。

luckin coffeeは「中国人が気軽に飲める中国ナンバーワンブランド」を掲げている。

カフェ文化が成熟段階に入っても、スタバはなお「背伸び消費」の価格を保っている。コーヒーが本当の意味で大衆文化になるには、たしかに日本の「ドトール」や「セブンカフェ」のような価格帯、選択肢が必要だろう。

だが中国経済は悲観ムードが漂い、資金調達ありきのビジネスモデルには厳しい目が注がれ始めた。クーポンのばらまきに支えられた成長を、消費者は歓迎しているが、スタバを追い抜けるか、あるいはofoの二の舞になるか、1年後には勝算が見えてくるだろう。

(文・浦上早苗)

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