就活を始めるとき、多くの人は最初に自分の「やりたいこと」を考えるが…(写真はイメージです)。
撮影:今村拓馬
「私がやりたいことってなんだろう」
私の就活の出発点はここから始まった。大学3年生の夏だった。
当時、私は大学で東洋史学を学んでいた。特にこれといった理由はなく、他の科目よりは歴史が好き、という程度。
そもそも、その大学を選んだ特段の理由もなく、いわゆる早慶とかMARCHとか、そう呼ばれる大学群のどこかに行ければいいと思っており、受験の時はその中から何個かピックアップして受けた。
そう、私には、最初からここで学ぶ強い動機はとくになかった。
だからと言って、サボるタイプでもないので、授業にはだいたい出て、レポートは提出日の前日にチャチャッとやって、単位も進級できる程度にはとっていた。かといって、大学生活に退屈していたわけではなく、バイトしたり恋をしたり、“ザ・大学生”の生活をそれなりに楽しんでいた。
ごく一般的な大学生だったと思う。
就活では誰も目標を自動設定してくれない
そんな一般的な大学生だった私にも、将来を考える時がきた。就活だ。
就活らしい「社会」「やりがい」「軸」といったキーワードや、「何を成し遂げたいですか」「社会にどう貢献したいですか」という問いに苦しめられ、答えが出せなかった(写真はイメージです)。
Tomohiro Ohsumi/Bloomberg via Getty Images
周囲の友人と一緒に、大学の就活セミナーに参加した。そこで問われた「あなたのやりたいことは何ですか」というテーマ。一生懸命に考えるも、何も浮かばなかった。
これまでにも、自分の進路を決めるタイミングは多々あったが、学校や塾が「上を目指そう」と目標を自動設定してくれたおかげで、社会に対して何がしたいとか、ぼんやりと考えることはあっても真剣に考えたことはなかった。それでも、ここまで来ることができてしまった。
だからこそ、そのあとに参加したセミナーでも聞かれた、就活らしい「社会」「やりがい」「軸」といったキーワードや、「何を成し遂げたいですか」「社会にどう貢献したいですか」という問いは私を苦しめていた。その答えが出せないままさまざまな企業の説明会に出席したので、どれも「悪くないかも」、と思えてしまい、絶対的なコレ!というものが見つからなかった。
結果的に通信インフラ、飲料メーカー、製薬メーカー、銀行など、あまり一貫性のない受け方をし、運よく数社から内定をもらったものの、その後は、就活で与えられたテーマ「あなたのやりたいことは何ですか」に対する答えが見出せないまま、入社式を迎えた。
やりたいことより、どう暮らしたいか
遠い配属先から、楽しそうに集まる友人をSNSで見つけては羨ましくなった(写真はイメージです)。
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私の最初の配属先は、家族も友人もプロ野球チームもない秋田だった。土日は1人で過ごすことが増えた。趣味の野球観戦で気を紛らわそうにも、現地で観戦できる機会はたったの1回。
新卒でお金に余裕もない中で、頻繁に首都圏の実家に帰るわけにも行かず、楽しそうに集まる友人の写真をSNSで見つけては、ただただ羨ましい気持ちになった。また、当時お付き合いしていた今の旦那は当時東京に住んでいたが、このまま何年も遠距離が続いたら……と、先行きの見えない未来に頭を抱えるようになった。私はこの時ハッとした。
就活の時に、やりたいことばかりを考えていたが、どう暮らしたいかをもっと考えればよかったと。
「自分はどうありたいか」という問い
就活の際にやりたいことよりも、「自分はどう在りたいか」を問うてもいいのではないか(写真はイメージです)。
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今、大学生から相談を受ける立場になったが、「やりたいことがない」「何がしたいのか自分でも分からない」という内容は非常に多い。私もまさにそこに悩みながら、何とか就活を終わらせた学生だったので、気持ちが痛いほど分かる。
しかし、そういった学生に、「どこで暮らしたいですか?」「誰と一緒に過ごしたいですか?」「どんな生活がしたいですか?」といった、暮らしに寄せた質問をすると、多くの学生がスラスラと答える。「では、今答えてもらったところから考えようか」と提案すると、「え、いいんですか?」と驚かれる。
なぜ、驚かれてしまうのだろうか。自分の将来は、暮らし方から考えたっていいはずだ。
もちろん、やりたいことを問うこと自体が悪いというわけではない。過去を振り返るきっかけや、改めて自分が好きなモノ・コトについて考え、気付く機会になると思っている。しかし、どう暮らしたいか、もっと言うと、「自分はどう在りたいか」という問いから就活をスタートさせたっていいのではないか。
2つの会社を経て、現在私は、複数の職場で働くキャリアプロデューサーとして働いている。「彼女が仙台にいるので仙台で働くことに決めたんです」と、当たり前に言える空気を作りたい。そのために、今日も明日も、私は動いていたいのだ。
境野今日子:1992年生まれ。株式会社bitgrit人事部長、関東地方の大学でキャリアコンサルタント、株式会社地方のミカタのキャリアコンサルタントの3つの職場で働くパラレルワーカー。新卒でNTT東日本に入社、その後、帝人を経て現職。就活や日系大企業での経験を通じて抱いた違和感をTwitterで発信し、共感を呼ぶ。